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スペイン巡礼2018回想記(6)ジット・カヨラ〜ロンセスバージェス

 2018年5月11日。
 ジット(巡礼宿)・カヨラを出発して、いよいよ私もピレネー越えである。

 健脚の方々は、初日にサン・ジャン・ピエ・ド・ポーを出発して、25km歩いてピレネー山脈を一気に越えていく。
 しかし、私は当時登山経験ゼロで、歩く訓練もろくにしていなかった。モンベルにトレッキングシューズを買いにいったとき、巡礼経験のあるスタッフさんにたまたま遭遇し、「慣れないうちは5kmぐらいから歩きはじめるように」とアドバイスをもらっていた。
 それに従って、約7km地点のジット・カヨラで1泊を挟んだわけだ。

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(ジット・カヨラの入り口)

 初日は少し時間が余りすぎたものの、やはりこれは正解だったと思う。
 ジット・カヨラからスペイン側のロンセスバージェスへの山越え約17kmは、なかなかにハードだったようだ。
 ようだ、というのは、巡礼が全体にあまりにも楽しかったせいで、そのあたりの記憶がないからである。でも、当時リアルタイムで更新していたインスタ(記事末尾にリンクあり)を見ると、ハードな行程だったとわざわざ書いてあるので、そうだったのだろう。

 私は、ジット・カヨラを日の出とともに出発した。
 ピレネーの朝焼けは、今までに経験のないファンタジックな風景だった。

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 前日に引き続き、こんな美しい場所に今いるということが信じられない思いで、目を皿にして風景をみつめながらリフュージュ・オリソンへの道を登っていった。

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(前方の山小屋風の建物がリフュージュ・オリソン)


 再び朝食はリフュージュ・オリソンでいただく。私はジット・カヨラ宿泊のメンバーの中では最後の出発だったので、顔見知りになった巡礼者は一人もいなくなっていた。
 とはいえ、巡礼は競走ではない。のんびりと朝食をすませて、トイレをしっかりすませる。ロンセスバージェスまでの17kmはトイレがないのである。

 ふと見れば、カウンターに荷物運搬サービスに預けられるザックが積んであった。私は、12kgのザックを背負って17kmの山道を歩き抜く自信が正直なかった。そこで、私もさっそくサービスを利用することにした。
 封筒をもらい、宛先のアルベルゲ(巡礼宿、スペイン語。次の街ロンセスバージェスからはスペインになる)と名前、おそらく5ユーロ前後(だったはず)の料金を入れる。封筒には針金がついているので、それをザックにくくりつけて、カウンターのそばにおいておく。
 宛先はロンセスバージェスのいちばん大きなアルベルゲだ。予約したわけではないが、大半の巡礼者がそこに泊まるというので、リフュージュ・オリソンのスタッフさんがそこを教えてくれたと記憶している。

 重いザックを手放し、軽さだけが身上のペラッペラのザックに、これまたリフュージュ・オリソンでつくってもらったサンドイッチ弁当を入れ、私は意気揚々とオリソンを出発した。

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 ラッキーなことに、とにかく天気がよかった。
 前日はあれほどの雨に見舞われたというのに、今は滴るような緑と青空がまぶしい。
 道は舗装されていて歩きやすく、うきうきと歩き進めてしまう。荷物が軽いおかげで、とっくに出発していた顔見知りの巡礼者にも追いつき、荷物がないなんてずるい〜! と言われた気がする。
 夕食で一緒だった日本人のおじさん二人にも途中で会い、あいさつして適当に別れた。

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 キラッキラの山上から、キラッキラの森へ。

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 コダマみたいに木株に座ってサンドイッチを食べたり。

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 街の入り口には、湧き水好きの心をくすぐるかわいい川!(私は湧き水の水面を見るのが大好きな人間だ。この趣味については、そのうちここに書きたいと思う)

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 楽しかったことしか覚えていないわけだが、たぶん疲れ果てて街に入ったのだろう。
 私は巡礼開始2日目にして、アルベルゲ(巡礼宿)を避け、きれいな修道院リノベーションのホテルに飛びこんでいた。「今夜部屋はありますか?」というRPGのような質問を、生まれて初めてした。クレデンシャル(巡礼手帳)へのスタンプも、このホテルでもらう。

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 運搬サービスに預けていたザックは、隣接するアルベルゲに回収に行く。
 アルベルゲのスタッフさんたちは、てきぱきしていてとても親切だった。物置に案内してくれて、ザックを受けとらせてもらった。ここは大きくてとてもきれいなアルベルゲらしいので、いま思えばここに泊まってもよかった。

 多くの巡礼者がアルベルゲに行ったので、ホテルでは誰にも会わないかと思ったのだが、ロビーでまた例の日本人のおじさん二人に遭遇した。せっかくの同じホテル仲間なので、夕食を一緒にとることにする。

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(ニジマスだったかな……?)

 おじさんたちとは、不思議に話が盛りあがった。
 誰とでも仲よくなれるというようなキャラクターでは決してない私には、楽しくおしゃべりできるというのは本当に得難くうれしいことだ。

 前日は他の巡礼者もいたので、通りいっぺんの話しかできなかったのだが、ほぼ初対面にして、このときにはたぶんもう私が文章を書いているとか、そういう話をしてしまった気がする。
 それをおじさんたちが、スペイン巡礼の不思議さだと言っていたっけ。

 けれど、特に何か約束をするということもなく、またおじさんたちとは別れた。

 その夜、ロンセスバージェスは、昼間あんなに好天だったのが嘘のような大雨に見舞われた。
 すさまじい雨の音に、私はひとり部屋だというのに耳栓をして眠りについたのだった。

(スペイン巡礼2018回想記(7)に続きます)

(リアルタイムで更新していたインスタ)


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