スペイン巡礼2018回想記(22)オンタナス〜ボアディージャ
2018年5月27日。
この日は、オンタナスからカストロへリスを経て、ボアディージャ・デルカミーノ(以下ボアディージャ)まで行く28.7kmの行程。
この日の行程は、個人的にパンプローナ〜サリキエギ間と並び、スペイン巡礼中もっとも風景が美しかった区間、かつ、もっとも疲労困憊した区間だった。
(オンタナスの出口にあるサンティアゴ・デ・コンポステラまで457kmの文字)
天気もなかなかドラマチックだった。
オンタナスを出発したときの天気は気持ちのよい快晴。
しばらくして、少し雲が出てきたと思ったら、教会の廃墟が現れた。
ここサン・アントン修道院跡は、あからさまに廃墟ではあるが、中にはアルベルゲがあって宿泊することもできる。
理想の廃墟風景に見惚れながら、私は進んでいった。
遺構といい、ほどよく雲のある青い空といい、なぜかいいタイミングで飛ぶハトといい、ここは絵になりすぎた。
巡礼路が遺構のアーチをくぐっていくのも、すばらしいはからいだ。整備した人ありがとう。
すてきな廃墟でかなり時間を費やしたあと、カストロヘリスに向かう。
ここも背景美術(?)がたまらない。
まずは並木道(車道兼歩道)がしばらく続く。
それを過ぎると見えてくる、山の上の廃城。
街の名前カストロヘリスそのままに、街を象徴するような廃城が見えてくる、……最高! ファンタジー小説書きである私のファンタジー魂は、もう震えっぱなしである。
中腹あたりを、まっすぐに巡礼路が続く。街並みもすばらしくステキだ。正直、もうここに泊まってしまって、この廃城の街の美しさに浸りきりたい。
だがもう宿泊予約をボアディージャ・デルカミーノでとってしまったため、私は進まなければならない。宿をあらかじめ確保しての巡礼の旅は、ゆったりできて楽ではあるのだが、こういう気まぐれはできないのがつらいところだ。
カストロヘリスで、この日最初の休憩。いつものように甘味とオレンジジュースをとる。
それにしても、丘の上のお城が気になる。通り道から行けるだろうか?
私は標識に注意を払いながら、カストロヘリスの巡礼路を歩いていく。
もうほとんどカストロヘリスの街も終わりそうという段階になって、廃城に向かう道をみつけた。山をのぼりつつ、方角的には少し戻る感じの道だ。
(廃城への標識)
体力、時間的には少し厳しい気もする。この日の行程はまだだいぶ残っていた。しかし、貴重な旅の機会だ。後悔することがあってはならない。私は巡礼路から少し逸れて、廃城へと山をのぼりはじめた。
そこそこの急勾配。時間もあまりないので、早くお城についてほしい。
だが、徐々に見下ろす風景がさらにすばらしいものになっていく。この時点で、やはりよけいな体力を使ってでも登ってよかった、と思った。
おそらく15分〜20分ぐらいは登ったのではないだろうか(記憶が曖昧だが、そこそこ長く感じた)。
城の全体を見渡せる場所に来た。
シリアの世界遺産クラック・デ・シュヴァリエを彷彿とさせる、美しい姿だ。これまたファンタジー魂が震える。
内側の保存状態もよく、往時を偲ばせる。
ここでも時間をさんざん使って、カストロヘリスの街に戻った。
このあたりから、雨が降りはじめた。すみやかにポンチョを装着。
街を出てすぐ、古い橋にさしかかった。これまたよかったのだが、まあまあ雨が降っていたので、ささっと写真を撮って先を急ぐ。
その後、また登り坂になった。強くなった雨のなか、小高い丘にあがっていく。
しかもポンチョが蒸れて暑い。全行程を通して、このときの状態がいちばん悪かったと思う。暑いわ蒸すわ雨は降るわ、おまけになぜか顔のまわりを小さな虫が飛んでいた(飛蚊症じゃなくて本物)。ときどき鼻に入ってきやがる。
若干限界をきたしそうになったところで、登りきることができた。
登りきったすぐそこに、屋根つきの休憩所があった。私はそこに飛びこみ、ポンチョを脱ぎ捨てた。もうこの蒸し蒸し感には耐えられない!
記憶によると、ここでさらにハイドレーションの水が切れた覚えがある。
登山経験のない方のために説明しておくと、ハイドレーションとは水を入れるパックのことで(つまり水筒の一種だ)、ザックに入れておき、ザックを背負ったままチューブを通して水分摂取できるというもの。
スペイン巡礼中、私は歩行中の水分として、ハイドレーションにミネラルウォーター1.5リットル程度を入れて持ち歩いていた。
そうすると、基本的に水分は多めに持っておくものなので、一日の行程が終わって余ることもある。
スペインでは、なぜかあまり水が腐らなかったので(どうなんだろう……?)、途中から横着をした私は、水は入れっぱなしのまま、毎日減ったぶんだけ追加するようになった。その結果として、この日、水を追加するのを忘れてしまったのである(アホ)! そして、カストロヘリスの街の先にある丘で、水を切らした。
水は命に関わる問題だ。さすがに弱った。
だが、今いる小高い丘の上は、巡礼中よくある、頂上が奇妙に広大な場所。休憩所はたまたまあったが、売店の類いはない。とにかく、進むしかなかった。
たぶん、この年のスペインが異常気象で涼しかったことに救われたと思う。例年どおり暑かったら、大ごとになりかねなかった。
(丘を下りていく。このころには雨はあがっていた)
夕方、雨やら汗やら泥やら虫やらでドロドロになった私は、疲労困憊で宿泊地のボアディージャにたどりついた。ちなみに時間が足りなくて昼食も食べ損ねていた。
(心底ほっとした瞬間。左がボアディージャの入り口の看板)
飢えと渇きを抱えたドロドロの私を見かねた、ホテル「エン・エル・カミーノ」のスタッフさんは、パスポートチェックもせずに部屋まで案内してくれ、「チェックインはシャワーのあとで☆」と言って去っていった。
ザックを下ろすと、なんと腰の肉が痺れていた。
持ち方を日本人のおじさんたちに教えてもらい、3日ほど自分で背負ってきた私だが、この日はあまり休憩もとらず歩きつづけた結果、やってしまったのだった。
とはいえ、ムリをしなければ自分で12kgの荷物を背負って歩けることがわかったのは収穫だった。明日はまた運搬サービスだな☆
夕食は併設のアルベルゲで、他の巡礼者たちとの交流型のディナー。
当然しゃべる気力がなかったので、親切に話しかけてくる巡礼者に適当に相槌を打っていた気がする。
すみやかに食べてホテルに戻り、私はベッドに沈んだのだった。
(スペイン巡礼2018回想記(23)に続きます)
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