自分が変化するとき
物語における主人公の条件とは、物語の最初と最後で何か決定的に変化すること、と創作論ではいわれている。
曲がりなりにも小説を書きつづけている自分には、すぐ何かというと長年読みつづけた創作ハウツー本が頭をよぎってしまうのだが、今回は小説の主人公ではない、自分のことだ。
自分は自分の人生(物語)の主人公という意味では、それはそうなのだけれど……ちょっと面はゆい。
さておき、最近の自分はけっこう変わったと思う。
きっかけのひとつは、前々からここにもちょくちょく書いているように、2018年5月にスペイン巡礼に行ったことだ。あのときから、何もできないと思っていた人生が、回転しはじめた。
もうひとつは、巡礼後に決まった仕事で2社連続ブラック企業を引いたあと、「自分を変えたい」とはっきり思ったことだ。巡礼前に長年勤めた会社を辞めたときは、ただ辞めて休みたかっただけで、そうは思わなかった、そういえば。
なんと、気分を換えるべく、20年以上変えなかった髪型を変えるなどもした(行きつけの美容師さんもびっくり)。失恋で髪を切る、という行為に似ているかもしれない。私は恋愛に縁のある人生ではないため、経験はないのだけれど。
しかしこの考え方、ブラック企業に恋をしていたみたいで業腹だな……問題のある会社ではあったが自分なりに全力は尽くしたので、恋は恋かしら。ただし、モチベーションが消失して以降はどうしようもなかった(ただの虚無)のだが……。
今は、おかげさまでブラックではない企業で働いているが、このところ、ちょっとした、しかしはっきりした変化が自分に起こった。
それは、服に興味が出たことだ。
これも直接的なきっかけはあった(後日、別の記事にする予定)のだが、まさかこんな自分になるとは思っていなかった。
というのも私、40年間生きてきて、ほとんど服に興味をもったことがない。一応かわいいと思う服を買ったりはしていたが、お気に入りのセーターが一枚あるとかそんな感じ。あとは、職場で無難に着られる服、というセレクトだった。
よって、長年勤めた会社を辞めて無職になると、所持している服の大半がモンベル(メジャーな登山ウェアメーカー)に入れ替わった。モンベルのウェアは機能性が高く、重ね着で調整できるので、季節の変わり目にも服で悩む必要がない。軽くて快適。モンベルに慣れてしまうと、普通の服は重くて窮屈で仕方なかった。
しかし、ここのところ、急激に服が好きになってしまった。いきなりハイセンスに着こなしたりはできないのだが、いろいろ服がほしい。指輪なんかもほしい。
新しいワンピースなど入手しては、うきうきとひとりファッションショーをキメたりしている。
いま40歳なのだが、自分でもなぜ長年興味のなかったものが急にこうなったのかわからない。
先日までモンベルの横縞シャツばかり着ている私に食傷気味だった母もびっくりである。最近の私の変化ときたら、周囲をびっくりさせてばかりなのである。
変化の理由は厳密にはわからない。変わったきっかけはあるのだけれど。しかしワンピースを買ったりひとりファッションショーをしたりするのが、今さらながら楽しい。
20歳のときに今のような興味をもっていれば、当時友人に「桂さんの服を私たちで選んで着せてあげようよ」とかも言われなかったことだろう(なお結局これは実行されなかった。なお当時の服装は常時Tシャツジーンズだった)。
一般論的には、興味をもつのが20年ばかり(というか以上?)遅い、といえる。
ところが、私がこのように変わったのは、今だった。20歳で周囲の同級生がおしゃれを追い求めるとき、私は微塵もその心をもてなかった。私におしゃれ心がやってきたのは、40歳の今だった。
今、スペイン巡礼前にいた職場で使っていたオフィスカジュアルの服を現職場でも使っているのだが、当時の服はまったく着る意欲が湧かなくて困っている(仕方なく着ている)。
仕事が決まった直後、服を調達するために以前よく服を買っていたアパレルショップに出向いたが、店に入った瞬間「この店、ダサッ。この店こんなにダサかったんだっけ?」という思いが私を貫いた。ごめんなさいそのお店……。
変化は恐ろしい。前の私には戻れない。
というか正直、戻りたくはない。今の私には、前着ていた服はもう「ダサ」くなってしまったのだから。
ちなみに、モンベルはまだ普段着、兼、登山ウェアとして愛している。ただ、街にでかけるときは、今の自分が好きな、今の自分がかわいいと思う服を着ていく。
ブラック企業2社を引いたあと、自分を変えたいと痛切に思った。今、以前の私とは明らかにちがう自分は、あのとき考えていた「自分を変えたい」の姿のとおりというわけではない。
それでも確実に、服を着て外に出るのが楽しい今が、前の自分より好ましいと思っている。
自分が変化するとき、何かきっかけがあり、そこからドミノが一個一個倒れるように、ひとつひとつ変わっていく。
気がついたときには、まるでちがう、以前には思ってもみなかった自分が待っている。
そんな11月の近況である。
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