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エモい怪文書 ~真実の集い~

 ちょっと聞いて欲しいことがあるんですが……、
 「エモい」って言葉知っていますか?知っていますよね、使ってもいますよね?
 ちなみにエモいって何語か分かるよ~って方……?(右手を上げながら会場を見渡す)
 お~みなさん知ってるんですね、じゃあそこのお兄さん、答えてもらえるかな。(スタッフがマイクを手渡す)
「……えいご。」(気恥ずかしそうにそそくさとマイクを返し座る)
 おーえいご、みなさんも同じですか?はいはい、そうですかそうですか、エモーショナルのエモから来ているという解釈ですね。

 ……実はこれね、違うんです。(え~?というざわめき)
 英語じゃないんですよ実は、意外ですよね。
 というわけで、今日はエモいの語源に関するわたくしの考察セミナーにお越しいただきありがとうございます。
 そう、エモい、今や当たり前のように使われテレビなどでもよく耳にする言葉ですが、みなさんこれ英語が語源だと思ってらっしゃる。
 でも実はね、エモーショナルを縮めてエモいにしたーなんで文献はどこにもないんですよ。
 まぁ日本政府は国民をコントロールするために日常会話で使われる語彙やメディアの表現を規制していますから、そういった現代日本語の研究論文が人知れず削除されている可能性は否定できないんですが、しかし実際問題、「エモい」は英語をカタカナにして形容詞化する、所謂外来語ではないというのがわたくしの見解です。

 なぜこのようなデマが広がってしまったのか。
 親と乳児の食器は分けないと虫歯になるだの、干したて布団匂いはダニの死骸の匂いだの、フリーメイソンは実在しないだの地球は丸いだのと言った忌まわしき陰謀論が広がるようにして、エモいは英語という根拠のない噂話が広まり世間一般の常識と化しているわけですが、みなさんにはこのセミナー……、いえ、真実の会を通して政府の支配から身を守る術を学んでいただきたいと思っています。
(大勢が頷く動きをする、それによって頭に巻いたアルミホイルの擦れる音がさざ波のように聞こえる)

 5G電波によって起動する洗脳チップの混入を防ぐため、コロナワクチンを一度も打たず、出来る限りステイホームを実践されていた賢明な参加者様方なら分かる通り、普段我々が使っている言葉にも洗脳効果があるんです。
 平時は常識の補強として機能し、その時代のイデオロギーを疑いようのない世界の真実だと思わせる効果がありますが、これは自然に発生した洗脳効果であり恣意的に我々の思考が操作されているわけではありません。
 しかし昨今、メディアと宗教団体との間に深い結びつきの得た政府は、今まで自然物として存在していたこの"言葉"を彼らの都合のいいように変えようとしているのです。
 目新しい例ではそうですね、「エグい」等がそれに当てはまります。
 これは昭和時代から行われていた、語彙力を低下させることで国民の思考力までも低下させてしまおうという実験で、初期のナウい、マブい、ヤバいを経て現在のエグいに変化してきています。
 これは感情を表現する語彙と程度を表現する語彙を一緒くたにしてしまうことで自身の感情を不明瞭にし、国民の意見を主体性からくる具体的な要素を取り除くことで、国会という論理が求められる場で国民相手に有利に立ち回れるよう行われた実験です。
 また、これは言葉ではないですが、所謂「体育座り」と呼ばれる座り方も国による支配の痕跡が見受けられます。
 学校は、明治維新によって作り替えられた寺子屋が始まりとされています。それまで読み書きそろばんと人としての在り方を説いていた寺子屋は、明治政府が富国強兵のため言いなりの国民を作るための養成所として生まれ変わりました。
 背の順整列や前ならえ右ならえ、気を付け礼着席、そして体育座り、今まで当たり前にやってきたことですが、冷静に考えると幼い子供にやらせるにはあまりに軍隊的過ぎますよね?そして体育座りには自身の四肢で身体を拘束し、動きどころか発育まで阻害する悪魔のような作用があります。あのアメリカでさえ、政府による子供たちへのこの仕打ちをまるで拷問だと評するほどです。

 我々は政府によって、幼少期から政府の犬になるための英才教育を受けてきました。
 しかし我々はもう言いなりになるだけの子供ではありません。自分で考え、自分で行動することの出来る立派な大人なのです。
 とはいえ、これまで数百年単位で構築されてきた支配体制にいきなり逆らえと言うのは無理がありますよね。
 そこで、まずは小さなことから政府に対する抵抗心を養おうという目的で、今回エモいの語源に関するわたくしの考察セミナーもとい真実の会を開催させていただきました。

前置きが長くなってしまいましたね。

 ずばり、「エモい」の語源は「得も言われぬ」です。
 みなさんは、エモいという言葉の意味を説明できますか?(再び右手を上げながら会場を見渡す)
 そうですよね、あまりはっきりとは分からないと思います。
 今日は若い方が多いので、例えばこんな経験、あるのではないでしょうか。
 エモいという言葉をテレビで知ったお母さまお父さまに、エモいの意味を訊かれたが、上手く説明できなかった。という経験が。(アルミホイルの頷く音が会場を満たす)
 えぇ、えぇ、そうですよね。なぜ上手く説明できなかったか。これはエモいの語源が英語だからではありません。エモいの語源が得も言われぬだからです。言い表しようのないほど優れているという意味が現代に合わせて変化した特殊なニュアンスを持つこの語彙を、エモーショナルだと勘違いしてしまっていたから説明できなかったわけなんですね。
 でもみなさん大丈夫ですよ。今日の真実の会でみなさんは真実を知り、お母さまお父さま、ご家族ご友人とともに、政府に支配されない世界を目指していきましょう。

 なぜエモいの語源がエモーショナルだと勘違いしてしまったか、これは若者言葉、つまりは政府による洗脳語彙にある特徴が関係しています。それは音の省略です。
 比較的長い単語や短文などを、一息で言い切れる3音から5音に省略することで新しい語彙をすぐ受け入れられるようにし、語彙による洗脳をしやすくしているのです。
 「得も言われぬ」が省略されると「得も言」、音としては「エモい」ですね。
 エモいは省略後の形であり、かつ日常会話に溶け込んでいるので、耳にする時はひらがなとして認識されます。「えもい」です。
 これだけ見ると、「エモい」の「い」は形容詞特有の語尾の母音 i と共通していて、エモという感情を形容詞化した若者言葉ではないかと人間は勘違いしてしまうわけです。
 これがエモーショナルを語源だと思ってしまうカラクリです。
 これからは、「エモい」は得も言われぬから来ているのだということを思い出して、政府の洗脳から身を守りながら生活していきましょう。
 それでは、ご清聴ありがとうございました。
 この後奥の物販室でマイクロチップなどの混入物の働きを素材する成分の入ったドリンクやお菓子を販売いたします。コロナは生物兵器ですが、ウイルスである為ワクチンの接種は命を救います。ワクチンの副作用である洗脳チップの混入に抵抗するため、独自開発した製品を用いていただければと思います。
 後ろの係員の指示に従って順番が来るまでお待ちください。それでは失礼いたします。
(パラパラと拍手が起こり始め、やがて大雨のような拍手の中司会が退場する。)

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