いったい誰が悪いのか。どうすれば良かったの？映画「愚行録」

2021年4月5日 20:34

私が中学生だった頃、趣味の一つに数学があった。ゲームやパズルを遊ぶ感覚で、問題集を貪るように解いていたら知らず知らずに成績が上がった。自分ではしばらくその自覚がなく、当時通っていた塾講師にお前は数学ができるんだからどうのこうの、と進路のアドバイスを受けて初めて気が付いた。「え、私数学得意ですか？」と思わず訊き返したらその講師は仰天した様子で、「得意だろ！お前数学だけ偏差値70とかあるでしょ！すごいできるんだよ！」と言われてこっちも仰天した。自分の偏差値は知っていたけども、それって私が他の人より数学できるってことなのか。学力を競ったり良い学校に入っていいところに就職しようだとか、要するに社会的地位を得たいみたいな欲望がないから、全く気が付いていなかった。そうか私はほかの人よりも数学が得意だったのか。

当時いつも学年トップで真剣に受験に取り組んでいた様子の男子の名前を出され、「あいつお前にだけは数学で負けるとなんかちょっとムカつくって言ってたぞ」とも言われた。その人に勝ったり負けたりしてるっていう認識もなかった。そもそも私は数学という学問の世界で遊ぶ遊びに興じていただけなのだった。ちなみに読書好きでもあったので、国語は数学の次ぐらいに得意。自然が好きだし数学も得意なので理科も自然とできる。当時まだ子供で社会的な事には関心が低く社会は一番苦手だったが、文脈で理解できる部分はなんとかなった。まあそんな調子だから、お前はお前の強みを生かしてうまく受験戦争をハックしろ、的なアドバイスを受けても全くピンとこない。学歴はどうでもいいんだけど生活できるようにはなりたいから、高校行かないで就職する！　と言ったら塾講師たちに爆笑された。

将来は数学の学者になりたいと親に言ってみたこともあるが、ふーんって感じで無視された。別に子供の頃ちょっと成績が良くたって学問の世界でどうにかなるとも限らないんだし、そもそも数学者ってなに。それ飯くえんの？　と、言われたわけではないけれど、その道目指してもしょうもなかったのかもしれない。わかんない。

映画「愚行録」で満島ひかり演じる光子は、家庭で性的な虐待を受けてきた毒親育ちで、がんばって勉強していい大学に入るけど美人に生まれついたことが仇となり大学のコミュニティでもまた性的に搾取される存在となる。なかなかすごい物語であるし、それを演じ切る満島ひかりがまたすごいとも思った。すごい力のある女優さんで美人なのに、どこかたよりなげな貧相な雰囲気に見せてくるのすごいと思う。

どあたまから、私は妻夫木聡の演技に魅せられてしまった。あの人、20年くらい前は「芸能人で好きなタイプは？」の質問に若い女子から名前挙げられる常連だった程度にはイケメン枠だったし、近年でもそこそこ良い仕事してると思うんだが、どうしてあんな世の中全てを恨んでて日陰の生活を強いられてますみたいな空気が出せるのか。これは昔オシャレイケメン枠であった永瀬正が64 -ロクヨン- で見せた演技でも思ったことだけど、なんかもう自力じゃどうしようもない何かに押しつぶされて救いのない生活してますって空気が、佇まいから出てくるやつなんなのか。

原作を読んだことはまだないが、よほど丁寧な心理描写がなされているのかも知れない。他の貫井徳郎原作の映画かドラマを見たことがあった記憶がある。記憶があるのでたぶんその作品も良かったんだろう。愚行録の監督をググってみたら、石川慶監督にとって長編映画はこれが初監督作品らしい。すごいな。

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