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精巧 市場連動生産ストーリー(7)

3Dモデリングと市場連動生産による革新的なアパレル生産への挑戦

こんにちは、近江です。

今回は、3Dモデリングと市場連動生産を上手く併用すれば、少ない在庫、少ない手元資金でも、受注生産でアパレルビジネスをスタートアップすることが可能になることをお話ししたいと思います。

◆従来型のアパレル計画生産期間=5カ月を劇的に短縮するには?

アパレル業界で従来通りのものづくりの仕方をしていると、最低でも3ヶ月、長くて5ヶ月はかかってしまいます。つまり販売を開始したい時期のかなり前から準備をスタートしなければならないことが、事業を始めようとする時のハードルを高め、在庫リスクを大きくし、継続を難しくせる要因のひとつになっています。

従来のアパレル計画生産の流れを表したのが図1です。

図1

取引先のデザイン・仕様書に基づき対面の打ち合わせを行い、まずは一旦試作品を作成します。ここで出来上がる試作品をファーストサンプルと呼びます。最初の打ち合わせからファーストサンプルが完成するまで約30日がかかります。

次にこのファーストサンプルを叩き台に、製品の精度を高めるために、デザイン変更やサイズ調整など仕様を改善するための打ち合わせを行います。その修正を反映した2ndサンプルが仕上がるのに、更に30日がかかります。

一般的にこの修正サンプルに基づいて量産の仕様を決定した段階で、生産量が決まり、ようやく素材や資材の発注、量産縫製のスペース取りが可能になります。

この生産量の決定から納品まで、素材メーカーの素材の準備にどれくらの時間がかかるかによりますが、製品をつくって納品するまでに早くて30日から長くて90日を要します。

この従来のやりかたでは、最初の打ち合わせから、店頭またはECサイトで販売をスタートするまで、実に90日~150日(3ヶ月~5ヶ月)かかるのが実状です。

◆3Dモデリング革新~オンライン商談併用で企画期間を更に短縮する

これに対して、図2のように近年利用が活発化して来た3Dモデリングを活用し、ファーストサンプル、2ndサンプルの作成と確認をCGで代用すると、量産発注前の企画に要していた60日の日数が30日に短縮できます。

図2

店頭に現物在庫を並べる必要がないECビジネスであれば、この3D画像を活用してオンライン販売をスタートし、更に、納品時期を数週間後にする受注生産的な形を取れば、実質、製品在庫ゼロまたはそれに近い形でビジネスをすることが可能になります。

あるスタートアップ企業のお取引先での取り組みで、この商品企画からECでの販売スタートまでの時間を更に短縮できないか、のチャレンジを行いました。

このお取引先との取り組みでは、製品仕様書(具体的にどんな製品をつくるかを指図した設計書)を、発注先のものではなく、当社の専用仕様書(Excelフォーム)に事前に必要事項を入力して頂き、
その仕様書に基づいたラフな3Dサンプルが出来ている状態からの打ち合わせを開始しました。
ZOOMなどオンラインミーティングサービスを介して、ラフな3Dサンプルに対して、お取引先の要望を伺い、その場に参加していた当社の3Dモデリスト(オペレーター)が、オンライン上でファーストサンプルを作成。出来上がった3Dサンプルを正面、側面、背面はもちろん、360度、あらゆる角度から見て頂き、モデルも男性、女性、体系違いのアバターにも着せ付けて行き、着用イメージを確認。


ラフな3D画像


フィット感(サイズ)とディテール(デザイン細部)に変更の要望があったので、その場で一気に2ndサンプルを作成してしまい、確認して頂きました。

デザインおよびサイズ感を確定頂けたので、2日間ほど時間を頂き、ECサイトで販売可能なレベルの3DCG画像を作成し、納品させて頂きました。

ECでの販売用の3D画像

この3Dモデリングおよびオンライン打ち合わせによって、通常であれば、デザインからECアップまでの1カ月の工程を営業日で7日間、実に1/4に短縮することができたのです。

◆シーズンが始まってから商品企画を始めることができることの利点とは

この3Dモデリングとオンライン商談により、ECサイトでの販売開始までの商品企画の時間が短縮されることで、シーズンが始まってから顕在化する需要や市場トレンド傾向を踏まえた上で、デザインを決定することが可能になりました。
これは数か月前からデザインを考えないといけない従来のやりかたと比べて、市場トレンドを確認してから、その要素を踏まえてデザインができるため、格段に的中率が高まる革新的な取り組みです。

更に、EC販売開始後の市場連動生産について、同じお取引先と行った事例をご紹介しましょう。

◆受注してから生産を始める市場連動生産とは?

EC販売開始にあたり、あるフーデッドパーカーを120着販売する計画を立て、120着分の生地を手配しました。(*数字は分かりやすい数に変更しています)
受注は開始しても、製品はまだ一枚もつくっていません。

11月にSNSで告知をしながら、受注を開始してまもなく、80着のオーダーが入り、納品は11月末です。当社では、この連絡を受けて、早速120着分の生地から80着分の生産にかかりました。11月下旬に80着分の商品が仕上がり、お取引先は、月末までに注文を下さったエンドユーザーにすべてを納品することができました。

その後も引き続き受注を続け、11月末に締めたところ36着の追加受注があったので、当社では40着分残っていた生地から36着分の生産を行い、12月末までにエンドユーザーに届けることができました。
手元に4着分の生地が残りましたが、製品化するか、生地で引き取っていただくか、を判断していただければ、当社としては問題ありません。今回は、生地を引き取っていただきました。

◆限りなく無在庫・無資金ビジネスを可能にする

このお取引先は、約1カ月後納品の受注生産を前提に、オンラインで受注し、クレジット決済で売上を上げ、商品納品後に当社にお支払い頂くことで、在庫を持つことなく、資金を用意することもなく、エンドユーザーにオリジナル商品を販売することが出来たわけです。

手持ち資金が少なくても、調達した生地、資材など、製品よりは格段に安い原材料だけを保証して頂ければ、当社と取り組み可能になる市場連動生産です。

当社では、このような新規事業やスタートアップ企業様との取り組みを通じて、従来のアパレル業界の慣習には囚われない前向きな経営者さん、起業家さんたちの事業育成を応援しています。

次回は、「世界一のアパレル企業、ZARAも学んだトヨタ生産システム」についてです。


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