【原発】【福島】公選法違反⁉原発避難自治体の議員

立法を怠ってきた国会の責任を問う


 2019年5月19日告示、同26日投開票の東京都足立区議選で、ある候補が「選挙区内に3カ月以上住み続けるという要件を満たしていない」(公選法9条・10条)として、得票が無効となった。「当該地域に住み続けていない」という意味では、県内の原発避難自治体の議員も同じことになる。

 足立区議選(定数45)で得票が無効となったのは、政治団体「NHKから国民を守る党」から立候補した加陽麻里布氏。同氏は57人中8位となる5548票を獲得した。

 ところが、同氏は足立区内のカプセルホテルを住所として区選管に届け出たが、住民登録は墨田区内となっているので、「足立区内に住んでいない」とみなされた。そのため、「被選挙権がない」として全得票が無効になったのである。

 公選法は、衆院議員、参院議員、知事および市町村長には、住所要件を定めていない。だが、地域の代表として地域の問題を議論し、対処することが求められる地方議員には、地縁社会との結びつきが必須とされている。そのため、住所要件が定められているわけ。

 ただ、「住所要件が満たされていない場合は立候補を却下する」と定めているわけではないので、立候補は可能である。各紙の報道によると、「NHKから国民を守る党」はこうした公選法の〝穴〟を承知で、知名度アップのため、加陽氏を公認したようだ。

 実は、県内でも似たような事案がある。1979(昭和54)年の喜多方市議選の際、立候補予定者のA氏が市選管に「住所要件を満たしていない」とされ、立候補できなかった。

 A氏は、喜多方市内に自宅があり、同所に住民登録していたものの、第三者に貸していた。本人は妻が経営する北塩原村内の旅館に住み込みで働いていたため、生活の本拠は北塩原村にあった。市議選が迫り、立候補を表明したところ、ある市民から市選管に対して「A氏は住所要件を満たしていないのではないか」という情報提供があり、市選管が福島県選挙管理委員会に相談したところ、「選挙資格の有無は住民基本台帳法に基づく住所の認定が先行するため市民課において実態調査の必要がある」旨の回答を得た。

 市民課による調査の結果、A氏は喜多方市に生活の本拠がないと判断され、住民台帳法第8条に基づき、A氏の住民登録を職権消除した。

 そのことを受けて、市選管は、住所要件を満たしていないことをA氏に伝えた。A氏はやむなく、立候補を断念するに至った。その後、A氏は住民登録の職権消除に対して不服の訴訟を起こしたが、敗訴となった。

 A氏は仮に立候補し、定数内の得票を得ても、無効になったと思われる。ある意味では気の毒なケースといえる。

 これまで、法律上は住所単一説がとられており、その人の全生活の中心が住所であるとし、生活場面ごとに住所を分けて認定することを認めていない。

 こうした中で、極めて異例な事態となっているのが、原発避難自治体の議員である。

 例えば、双葉町は全町避難が続いており、一般市民も議員も町内に一人も住んでいない。避難指示が解除されたばかりの大熊町のほか、富岡、楢葉、浪江の3町、川内、葛尾の2村も似たり寄ったりだろう。

 飯舘村は避難指示解除から2年、村民約5600人のうち1000人余しか帰還していない。村議定数は10、欠員1。5人はいまだに村外に住んでいる。

国会(議員)の不作為

 公選法を厳密に適用すれば、双葉・大熊両町の全町議、飯舘村の5村議が住所要件を満たしていないことになる。このことが問題にならないのは不可解というしかない。

 「市町村議選の結果については報告を受けているが、住所要件などについてはタッチしていない」(県選管)

 「原発事故前から町内に住所があり、住民登録しているかどうかをチェックしている。そもそも全町避難しているわけで、住所要件を議論したことはない」(双葉町選管)

 「狭い村ですから、どこの地区の人かは分かる。しかし、お尋ねのように、実際に住んでいるかどうかは確認していない」(飯舘村選管)

 原発事故のせいで避難しなければならなかったのだから仕方ないともいえるが、ある人には住所要件を厳しくする一方、原発避難地域には問わないという、この落差の大きさに驚かされる。

 本来なら、原発避難地域の住所要件を緩和する旨の立法措置を講じるべきだった。国会議員の不作為が招いた不法(違法)行為といえる。

 国会議員の不作為は他にもある。具体的には、原発事故による放射能被災者を保護する「チェルノブイリ法(日本版)」のような法律は作られていない。また、事故原発の廃炉についての法律も作られていない。国会議員は何をしているのだ、といいたい。

 「子育ての面で奥さんから地元に戻ることを反対されており、なかなか決断できないんですよ」(ある議員)と嘆くが、自分だけ地元に住めば済む話。当然ながら、議員報酬は税金で賄われている。家族の同意が得られないという理由で地元に戻らないのであれば、議員を続ける資格はない。

 住所要件をめぐる緊急避難措置が認められるのは、せいぜい半年から1年程度だろう。

 避難した先が住みやすいのなら大いに結構、そこに住み続ければいい。ごみ処理などさまざまな行政サービスを享受しているのだから、住んでいるところの自治体に住民税を払うのは当然のこと。それが、ないがしろにされているのは残念だ。

 それでも地元の力になりたいと思うのであれば、地元に戻って住所要件を満たせばよい。

 ただ、だれがどこに住んでいるかを知るのは容易でない。今後は各候補の居住実態を公表し、有権者が投票の際に参考できるようにすべきだ。また、避難地域が解除されてなお避難を続ける候補は、なぜ戻らないのか説明が必要だろう。

 問題はまだある。住所要件を厳しくすれば全候補者の得票が無効になる可能性があるだけでなく、当選者がゼロということも考えられる。したがって、早急な立法が求められる所以だ。

HP

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