見出し画像

【サッカー】【原発】Jヴィレッジ不都合な真実(第2弾)

2020年8月号より

新宿泊棟建設も2期連続赤字
県に浮上した「情報漏洩」疑惑


 本誌7月号でサッカートレーニング施設・Jヴィレッジ(楢葉町・広野町)の運営会社が赤字体質となっていることをリポートした。7月13日には2020年3月期決算が発表されたが、2期連続で当期純損失が発生した。さらには同施設の〝除染〟をめぐり、県が東電に情報漏洩していた疑惑も浮上し、同施設関連の問題が一気に噴き出している。

↑ 前回記事

 Jヴィレッジは1997(平成9)年に開設されたサッカーのナショナルトレーニングセンター。複数のサッカーピッチに加え、スタジアム、宿泊棟などを備え、日本代表などサッカーチームの合宿や大会、イベントなどで利用されている。

 福島第一原発と広野火発の増設を検討していた東電が、地域への〝見返り〟として約130億円を投じて建設。県に寄付され、現在は県が設立した一般財団法人福島県電源地域振興財団が財産管理している。

 同財団から同施設を借りて、実際の運営を行っているのが㈱Jヴィレッジ(社長=内堀雅雄知事)。県や東電、日本サッカー協会などが出資する民間会社(いわゆる第三セクター)で、資本金4億9000万円。

 原発事故後は収束作業の中継拠点として利用され、㈱Jヴィレッジから東電に転貸されていた。だが、東京五輪決定により復興の機運が高まり、福島第一原発内に拠点が移されたことで、東電が放射線量低減工事を含む原状回復工事を実施して、県側に施設を返還。ビジネスホテル風の新宿泊棟(117室)と全天候型練習場を新たに整備し、2018(平成30)年7月に一部営業再開、翌2019(平成31)年4月に全面営業再開した。

 県や東電は同施設を〝復興のシンボル〟として打ち出しており、東京五輪の聖火リレー出発地点にも設定していたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で今年は中止となった。

 前月号記事では、そんな同施設について、収入の柱はホテル事業だが料金設定が高めということもあってか繁盛しておらず、㈱Jヴィレッジの2019年3月期決算の当期純損益は1億4845万円の赤字になっていたことに触れた。その数字も東電からの3億円以上の賠償金で圧縮した結果であり、本業の収益性はボロボロの状況と言える。

 こうした中でどうやって経営を立て直していく考えなのか、㈱Jヴィレッジに取材を申し込んだが、回答が寄せられなかったため、そのことを明記したうえで記事化した。

 ところが、7月13日に同社の株主総会に足を運んだ際、「回答はメールで送ったはずです」と鶴本久也専務(日本サッカー協会事務局付特命担当=Jヴィレッジ担当。キリンビールから出向中)からクレームを受けた。受信フォルダ、迷惑メールフォルダなどを何度見ても残っておらず、その後担当課長から再送してもらった回答メールは受信できたので、戸惑うばかりだったが、あらためて紹介したい。

 主な質問と回答は以下の通り。

 ――昨年4月以降の運営状況は。

 「再開の認知向上、サッカー以外も含め新たなスポーツ団体・大会や研修利用等の企業・イベントの誘致、自主イベント開催等を行った」

 ――2019年3月期の決算における業績悪化の原因は。

 「開業準備費用、人件費高騰などの影響により費用が膨らんだため」

 ――宿泊者数の推移は。

 「2020年3月期は年間宿泊者数が前年度を大きく上回り、震災前とほぼ同じ水準に回復している」

 ――新宿泊棟を整備したことでどれぐらい費用が増加したか。

 「増床により固定費を効率化(人件費等)することもあり、単純に増加額は算出できない。宿泊棟の増設は、再開にあたり新たな付加価値を備えた施設とし、ビジネスユースのお客様の利用を獲得するため」

 ――新型コロナの影響は。

 「数千人規模のキャンセルが発生し、数千万円の売上機会損失となった。お客様や従業員の感染拡大防止に努め、利活用していただく。従来からの客層に加え、『withコロナ』、『postコロナ』に向けて新たな機会を模索している」

 ――仮にこのまま業績悪化が進めば、県や東電による支援・資金注入なども議論になるのではないか。

 「ステークホルダーとは、利活用促進や施設の魅力向上について常にコミュニケーションを取っている。引き続き多くのお客様に利用いただけるように取り組む」

 まとめると、2019年3月期は開業準備費用がかさんで赤字となってしまったが、宿泊者は順調に回復している、という回答だった。

 では、2020年3月期決算はどうだったのか。株主総会で配布された資料によると、売上高10億6549万円、営業損益マイナス1億8654万円、経常損益マイナス1億6398万円、税引き後当期純損益マイナス2511万円だった。

 2020年3月期の来場者数は49万1000人(2009年度比107%、2018年度134%)、宿泊者数は3万9839人。鶴本専務は「新型コロナウイルスの影響で5500人以上・数千万円分のキャンセルが発生し、これがなければ黒字化できるところまで来ていた」と業績が回復傾向にあることを強調した。

 確かに数千万円分プラスになれば黒字になっただろうが、約1億8000万円の賠償金を含んだ数字であり、本業の収益構造が破綻しているのは明らかだ。

 新宿泊棟は福島イノベーション・コースト構想などでビジネス需要が高まるのを見越し、県が約20億円を負担して建設された。部屋数は倍増したが、その投資額に見合った宿泊者増には結びついていないようだ。

 こうなると東京五輪で復興をアピールするため、県、東電、日本サッカー協会が無理やり〝復興のシンボル〟を作り出したのではないか、という疑念を抱く。同施設の内情を知る地元経済人によると、年間約50万人の利用者数というのも延べ人数であり、「合宿などでピッチとレストランを利用した場合は二重カウントするなど水増しして、〝復興感〟を演出している」という。

 本誌では同施設の構想が浮上した当時から「こうした施設を造るなら建設費の130億円を基金にして教育奨学財団をつくり、浜通りの生徒・学生などの奨学資金に充てるべきだ」と提案していた。オープンから20年以上経ったいま、同施設は復興・地域振興に貢献しているのか、あらためてその存在意義を問いたい。この件については、取材がまとまり次第、あらためてリポートしたい。

東洋経済オンライン記事の波紋

 一方で、同施設に関しては、ウェブサイトの記事を発端とする思わぬ騒動も起きた。

 ウェブサイト・東洋経済オンラインに「Jヴィレッジ除染めぐる東電と福島県の隠し事」(6月25日配信)という記事が掲載された。原発問題を取材し続けている岡田広行記者が執筆したものだが、この記事の冒頭に気になる一文が書かれていた。

   ×  ×  ×  ×
 東洋経済は、福島県職員による個人情報の漏洩を裏付ける東電の原子力・立地本部広報グループが作成した記録文書を入手した。

 5月13日付けの記録文書は、福島県職員からの情報提供の実態を赤裸々に物語っている。

 「Jヴィレッジの原状回復工事に関して、東洋経済岡田記者が福島県に問い合わせを入れたとのこと。岡田氏は事実関係の確認に加えて、福島県に当社の公表を止めているのではないかといった質問を当ててきたようで、福島県としても、早期の公表に向けて県庁内で調整を行いたいとの話が(当社の)立地地域部にあった」

 「本日(5月13日)夕方、福島県の担当課長と話し合いを行うことになっているが、福島県としては、(フリージャーナリストの)おしどり(マコ)氏から5月14日期限で情報公開請求を受けており、5月14日に(当社と福島県との間で)公表の調整となる見通し」

 ※カッコは同サイト編集部の注釈
   ×  ×  ×  ×

 岡田記者が東電の内部文書を入手し、中身を見ると、岡田記者から取材が入ったことやおしどりマコ氏から情報公開請求を受けたことについて県と東電が対応を協議していたことが記されていた。すなわち、県が情報漏洩していたことが明らかになったわけ。おしどりマコ氏は、原発事故関連の取材を続けているお笑い芸人兼フリージャーナリスト(本誌2011年10月号参照)。

申請書提出の経緯を説明するおしどりマコ氏

 情報公開請求の際に得た個人情報を利用目的外で第三者に提供していたとすれば、福島県個人情報保護条例違反に該当する。

 この記事を受けて、おしどりマコ氏は7月8日、代理人の馬奈木厳太郎弁護士とともに県庁を訪問。内堀雅雄知事宛てに「情報公開請求者の氏名を第三者に提供した事実はあるか」、「仮に事実でない場合、記事を書いた東洋経済オンラインへの対応は考えているか」などの質問をまとめた申入書を提出した。

 県からの回答は同17日におしどりマコ氏に送付されたが、「確認の結果、開示請求者の氏名について、第三者に提供した事実は確認されませんでした。福島県情報公開条例第15条第1項に基づき、東電に対する意見書提出の機会を与えており、その際、開示決定期限については伝えてありますが、そのこと自体は個人情報保護条例に当たらないと考えています」というもので、東洋経済オンラインに対しては「特段の対応は考えていない」とした。

 この回答に対し、おしどりマコ氏は「私は本名で開示請求をしていますが、東洋経済オンラインの記事では『おしどりマコ』と掲載されていました。どうして東電は開示請求が私のものだと分かったのでしょう。誰かが東電に情報提供しなければ知り得ない情報ではないでしょうか。開示決定の日付だけでは氏名にはたどり着きません。県の調査、回答は全く不十分です」と批判している。

 7月20日の東電記者会見で、東電担当者は「県に情報公開請求していたこと自体は4月20日、自分とおしどりマコ氏が電話で話した際に自ら話していた」と明かした。真相は判然としないが、仮にそうだとしても、県と東電がまるで共通の敵と対峙するかのように情報共有していたこと自体に驚かされる。複数関係者によると、県と東電は同施設運営に関する事務会議で月1回程度、担当者同士が協議しており、「ズブズブの関係」だという。

「独自ルール」で除染の是非

 内部文書で岡田記者とおしどりマコ氏が狙い撃ちされているのは、同施設の「原状回復工事」について追及を続けているためだろう。

 前述の通り、同施設は一部営業再開に合わせて東電が放射線量低減工事を含む原状回復工事を実施した。ところが、国際環境NGOグリーンピースの調査で、Jヴィレッジに隣接する楢葉町の町営駐車場脇で1・7マイクロシーベルト毎時あることが発覚。環境省測定でも高線量だったため、昨年12月上旬に東電が汚染土壌を除去した(本誌1月号参照)。

 そうした中で浮上したのが、「工事に携わった作業員の被曝管理はきちんと行われていたのか」という疑問であり、東電記者会見で追及したり、情報公開請求を行って資料を集めていたのが、この2人だったのだ。

 3月23日の定例記者会見で、東電は作業員の被曝線量管理を行っていなかったことを認めたが、「除染のルールを定めた『除染電離則』に違反しているのではないか」という問いには、「環境省による『除染』ではなく、あくまで『原状回復工事』なので問題ない」と開き直って見せた。

 同様のロジックで、環境省が除染の目安としている「0・23マイクロシーベルト毎時以下」を無視し、特定線量下業務(測量や現地調査、運送など除染以外の業務)の基準として定められている2・5マイクロシーベルト毎時を線量目標として、原状回復工事を進めたことも分かった。

 楢葉・広野両町では国直轄除染が行われたが、同施設は収束作業の中継拠点として使われていたため、その対象から外されていた。それをいいことに、東電は環境省ルールに準じない、ずさんな除染をしていたことになる。工事に参加した作業員は延べ4万1000人で、現在、東電は富岡労働基準監督署に対応を確認中だという。

 原状回復工事により5万2818立方㍍の廃棄物や汚染土壌が発生した。そのうち5万1000立方㍍は1㌔当たり8000㌔ベクレル以下で、すでに某所の土地の造成に再利用されているという。その行き先について東電は「関係者に迷惑がかかる」という理由で明かしていない。

 廃棄物の中には指定廃棄物(1㌔当たり8000ベクレル以上)に当たるものも118立方㍍(=フレコンバッグ118個分)も含まれており、汚染された防球ネット、テニスコートマットなどが入っている。鉄板で遮蔽され同施設敷地内に保管されているそうで、周辺は立ち入り禁止になっているという。

 指定廃棄物の手続きに関しては「現在準備中」。一部営業再開から2年以上経過しているにもかかわらずだ。除染特措法によると、廃棄物の占有者が申請手続きをすることになっているが、ずさんな除染のまま県側に返還したので、東電がなし崩しに対応している状況のようだ。

 ㈱Jヴィレッジの鶴本専務は株主総会後の会見で「施設内の空間線量は定期的に測定し安全を確認している」と主張しており、実際現地を測定してみると、0・2マイクロシーベルト前後のところが多かったが、同施設は子どもたちが合宿などで使用することも多いだけに不安は大きい。同施設内を個人的に測定した経験がある人物からは「何年経っても空間線量が高いホットスポットが数カ所あった。現在下がっているかどうか不安」という声も聞かれる。

東電になめられている福島県民

 同施設において、東電がずさんな除染をしてきた事実を2人が暴いていたため、県と東電が警戒し情報を共有していたのだろう。東洋経済オンラインによると、東電内部資料には「福島のメディアに報じられにくいように、5月18日の記者会見は廃炉作業に関する質疑応答で一旦打ち切り、Jヴィレッジに関する会見はその後に行う」とも記されていた。実際、会見はそのように行われ、県内では同施設の除染について小さな扱いでしか報じられていない。

 こんな不誠実な対応が許されるのか。要するに、県民も地元メディアも東電になめられているのだ。

 情報漏洩疑惑や㈱Jヴィレッジの経営状況、ずさんな除染について、同施設を所管する県エネルギー課の工藤倫也主幹に話を聞いたが、「おしどりマコさんの件に関しては回答書の中身がすべて。東電があの記事の内容をすべて認めたわけでもないし、県としてはコメントのしようがない。㈱Jヴィレッジの経営については、ホテルの稼働率を上げるため、われわれとしても支援をしていきたい。除染について東電は『最後まで責任を持って対応する』と話しているので、様子を見ている」と淡々と話した。どこか他人事で、東電に厳しく改善を求めようとしないその姿勢には疑問を感じる。

 ここに来てさまざまな問題が表面化しているJヴィレッジ。この機会に課題と向き合い、地域振興につながる施設、安心して利用できる施設にしていくことが求められる。

※おしどりマコ氏によると4月20日、東電担当者が電話で「Jヴィレッジ関連の質問に会見で答えるのは難しい。ビルの外で立ち話ならすぐ回答できる」と言ってきたことに抗議し、その流れで、「いま県に情報公開請求中だ。東電が答えなくてもいずれ回答が出てくる」と伝えていたという。


通販やってます!

Twitter(是非フォローお願いします)

facebook(是非フォローお願いします)

Youtube

HP


よろしければサポートお願いします!!