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【春橋哲史】フクイチ事故は継続中④-入域人数と死傷者数から見るフクイチ

入域人数と死傷者数から見るフクイチ


 東京電力・福島第一原子力発電所(以後「フクイチ」と略)では、今も収束作業が続いています。どの作業も、サイト内の継続的なリスク把握・低減・除去に関わるものです。

 万一、フクイチで作業ができなくなり、敷地内の放射性廃棄物が放置されれば、何れは、廃棄物が環境中に溢れ出すことになります。フクイチでの作業は絶対にやめられないのです。言葉は悪いですが、「絶対に撤退できない戦争」と同じです。

 フクイチについては、どうしても放射性廃棄物の量や今後の見通し、建屋内の調査という話になりがちです。私も、当連載で放射性廃棄物を取り上げてきましたが、「働く人がいてくれてこそ、全ては成り立つ」ことは常に念頭に置いています。

 働いている皆さんは、全員、生身の人間です。全員、誰かの息子、誰かの孫、誰かの友達ですし、多くの場合、誰かの夫、誰かの父親です(フクイチ内で働いている方の大半は男性ですので、このような表現を用いています。女性蔑視と受け取られないよう、念の為にお断りしておきます)。本来は、人数や線量という数字で語るべきではないのですが、紙幅の関係でそのようなまとめ方にならざるを得ないことをご容赦下さい。

 「まとめ1~4」で読み取れる特徴や、私の主な懸念について、4点挙げます(「まとめ」は主として東電公表の資料に基づいています。出典の紹介は煩雑なので割愛します)。

まとめ1 入域人数

まとめ2 死傷人数

まとめ3 死亡一覧

まとめ4 労働環境

 ①働いている人の約9割が協力企業(元請・下請)従業員であり、一人当たりの平均被曝線量も協力企業従業員が東電社員を上回っている。 ②東電社員は2011年度こそ約3400人が入域していたが、12年度からは1700人弱、19年度は1400人弱。東電は、フクイチに投入するリソース(人材・資機材・予算)を減らしているのではないか。

 ③死傷者の公表は「構内で発生、又は、作業起因の可能性が有る場合」に限定されており、19年度には労災隠し(※1)・労災の虚偽報告(※2)・ホールボディカウンターの替え玉受検(※3・4)も発覚した。私は、東電公表の人数・数値は「把握できている最低限のもの」と捉えている(一例だが「協力企業従業員が就寝中に心筋梗塞で亡くなった」ような場合は集計される仕組みが無い)。

 ④コンビニの設置・温かい食事の提供開始・ヘリポートの設置など、労働環境の面では一定の改善が見られる(※5)。

 私が最も看過できないと思っているのが、東電社員と協力企業従業員の「命の格差」です。「まとめ3」1・2の東電社員(4号タービン建屋地下で津波に巻き込まれた)については、東電は敬称付で氏名を公表し、勝又恒久会長(当時)による追悼文も公表しました(※6)。ところが、「まとめ3」21の協力企業従業員(タワークレーンの操作員。地震で折れたクレーンが操作室に倒れた)については、氏名すら公表しませんでした。福島第二原発の日報で事実を伝え、「ご冥福をお祈りいたします」と数行で書いているだけです(※7)。

 東電の原発の為に働き、同じ日に同じ地震が原因で亡くなっているにも関わらず、どうして「異なる対応」になるのでしょうか? このような感覚の東電が、人数面でも被曝線量の面でも、協力企業従業員頼りでフクイチの現場を回しているのです。この現状は一刻も早く改められるべきでしょう。
 詳細を記述する余裕はありませんが、私は、「福島第一廃炉推進カンパニー」は公社化し、働く人全員を、公務員又は見做し公務員とし、被曝者手帳のようなものを交付して、全員共通の賃金体系・生涯に渡る健康診断の仕組み等を導入すべきだと考えています。

 最後になりますが、発災以降、福島第一で亡くなられた皆様のご冥福をお祈りすると共に、ご遺族に哀悼の意を表します。合わせて、負傷された皆様にお見舞い申し上げます。

 ※1
 https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/353600.pdf
 ※2
 https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/369549.pdf
 ※3
 ホールボディカウンター=体内の放射性物質を測定する装置
 ※4
 https://www2.nsr.go.jp/data/000313510.pdf
 ※5
 食事のメニュー等は「1 FOR ALL JAPAN」に掲載。
 https://1f-all.jp/
 ※6
 https://www.tepco.co.jp/cc/press/11040301-j.html
 https://www.tepco.co.jp/cc/press/11040302-j.html
 ※7
 https://www.tepco.co.jp/nu/f2-np/press_f2/2010/pdfdata/j110312z-j.pdf


春橋哲史

 1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。

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