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【高野病院】異世界放浪記⑥

 突然ですが皆さんは、足元から血の気が引いていく感覚を味わったことがありますか? 頭からではなく足元から、さぁーっと体全体の血が冷たくなってくる感覚です。人生の中で、そう何度も経験したくない感覚ですが、異世界にきて数カ月後の診療報酬明細書を見た瞬間にその感覚に襲われました。医療機関には福島県国民健康保険団体連合会と社会保険診療報酬支払基金から、2カ月前の自己負担分以外の医療費が振り込まれてきます。みなさんがよく耳にする診療報酬っていうやつです。3月に原発事故があって、患者さんの一部に避難していただき、入院患者さんの数は3分の1に。外来を再開しても、避難中のかかりつけ患者さんが、時々受診するくらいで、この世界に住民はほとんどいなかったのです。当然収入は激減。激減なんてもんじゃなかったですよ。基金の入金金額、1カ月分28万円弱。覚悟していたとはいえ、金額を目の当たりにして一気に血が引いてきました。冷えていく体と頭の中で、職員へのお給料や業者さんへのお支払いなどなどがぐるぐると。このままいったら病院は、いつまで医療を提供できるのだろうという不安。それよりも、先が見えないことへの大きな恐怖を感じました。

 きっと今、日本全国コロナ禍で、医療機関だけではなく、多くの業種で、あの頃の私達と同じ思いをされている皆さんが沢山いらっしゃると思います。医療物資は入ってこない、食料品は買い占めで売り切れ、町には人がいない。収入はないのに支払いは待ったなしという状況。国の中枢は混乱を極め、国を信用できなかったあの頃を思い出し、心と体が冷たくなっていく感覚が蘇ってきました。もう一つ同じように見えるのは、コロナに感染した方達への心ない行いです。原発事故直後「そのうち広野から来たって言ったら、石を投げつけられるかもね~」と笑っていた私達は、すぐにそれが現実味を帯びることになるとは夢にも思っていませんでした。避難した福島県内のナンバーを付けた車両のガソリンスタンドへの入店拒否は、よく報道されました。都会の子供たちのアパートに避難したご家族は、駐車場に車を停めたら、隣近所から放射能が付くとクレームがあり、遠くの河川敷に車を置くしかなかったと言っていました。「放射能はうつる」と言われるから、双葉郡から来たことを隠して過ごしていた方達もいました。そんな思いをしたはずの福島県民が、「放射能」という言葉を投げつけられた人達が、今回のコロナでは近隣の人達を蔑視することは、あの頃私達が受けた心ない行いと同じことをしているのではないでしょうか。子供の頃「自分が言われて嫌なことは、人に言ったらいけないよ」って言われなかった? もし高野病院の職員や患者さんが発症したら、私達は感染を拡大させないように真摯に対応するだけです。もちろん病院で決めた感染予防の約束事を破って感染した場合は、その約束を破った行いを理事長が鬼の形相で叱りますが、感染者だと蔑視することはありません。

 私達は原発の事故で学んだはずですよね。噂の怖さとそれをあおる報動の怖さを。そしてそれは未知のものに対する恐怖からくると。だからこそ国がきちんとした方策を示し、情報を正確に伝えなければならないはずです。あの日、日本の政治は双葉郡を救わなかった。だから私達は未だ異世界を放浪しているのです。今度は日本の国を、日本に住む人達を守って欲しいな。もちろん私達一人一人も、大切な人達と大切な場所を守るために、新しい生活様式をきちんと身に付けなくちゃね。

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たかの・みお 1967年生まれ。佛教大学卒。2008年から医療法人社団養高会・高野病院事務長、2012年から社会福祉法人養高会・特別養護老人ホーム花ぶさ苑施設長を兼務。2016年から医療法人社団養高会理事長。必要とされる地域の医療と福祉を死守すべく日々奮闘。家では双子の母親として子供たちに育てられている。2014年3月に「高野病院奮戦記 がんばってるね!じむちょー」(東京新聞出版部)、2018年1月に絵本「たかのびょういんのでんちゃん」(岩崎書店)を出版。


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