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汚染水貯留の「タイムリミット」―【春橋哲史】フクイチ事故は継続中⑪

 東京電力・福島第一原子力発電所(以後、「フクイチ」と略)では、昨年12月に、東電が計画していた汚染水(=放射性液体廃棄物)貯留用の溶接タンクの設置が「完了」しました(※1)。

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 大きな区切りではありますが、本当の意味での設置完了ではありませんし、又、そうさせてもいけません。フクイチの敷地内にタンク増設の余地があることは、連載第9回(本誌2020年11月号)の通りです。

 とは言え、東電は、新たなタンク設置計画を提出していないので、現状では、確保できているタンク容量が貯留容量の物理的限界です。

 そこで、昨年末までのタンク容量・タンク内貯留量・建屋滞留量の推移等を整理(まとめ参照)した上で、貯留容量上限に達するまでの残り期間を試算しました。

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 昨年の貯留水の増加量(約5100t/月)を基に試算すると、2023年1月末が「タイムリミット」です。

 但し、「降雨量や地下水量の急増」「地震等でタンク・配管が破損」「漏洩に備えた移送先の確保」等の、リスク要素も考慮しなければなりません。従って、容量一杯に貯留することは有り得ませんし、又、やってはいけません。このような「リスク対応分」を見込むと、私は、実質的なタイムリミットは2022年9月前後ではないかと見ています(物理的限界に達する時期から半年程度を差し引く)。

 この計算は「2020年12月に確保できたタンク容量を上限」「2020年末時点の貯留水量」「2020年の1年間の貯留水の増加量」を前提としたものです。今後の降雨量・タンク増設計画等で、タイムリミットが前後する可能性はあるので、目安程度のものとご理解下さい。

 昨年のタンク内貯留水の増加量は過去最少でした。2019年と20年のタンク内貯留水の増加量を比較すると、20年後半にかけて抑制傾向が加速しているように見えます(※2)。

※2

2019年1~6月の増加量は約5500t/月、7~12月は約5900t/月、20年1~6月は約5400t/月、7~12月は約4800t/月(東電公表の「水処理週報」に基づいて計算) 

 これは、20年8~12月の降雨量が19年より少なかった(※3)という偶然に助けられた側面もあるでしょう。これから春になって降雨量が増え始めたら、貯留水の増加量がどのようなトレンドを示すか、要注目です。

※3
 フクイチの2019年8~12月の降雨量は約830mm。20年同時期は約370mm。


https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/osensuitaisakuteam/2020/12/3-1-7.pdf

 建屋開口部の閉塞が進捗していることも(連載第8回「本誌2020年10月号」参照)、建屋への雨水の流入量抑制に寄与しているでしょう。

 昨年はタンク容量逼迫の指摘が繰り返され、「ALPS処理水の処分方法の検討に時間をかけられない→処分方法の速やかな決定が必要→環境中への放出(海洋への希釈排水)が国の方針案として示される」かと思われましたが、秋以降、タンク内貯留水の増加量の抑制傾向が顕著になり、決定を急ぐ根拠は薄弱になりました。

 リスクは常にありますから、悪戯に時間をかけるのは好ましくありませんが、タンク内貯留水(ALPS処理水)の地上保管継続を求めて、東電・政府へパブリックプレッシャーをかける貴重な時間が確保できたと言えます。

 最後に、汚染水対策に関する国会の責任を指摘しておきます。

 「まとめ」に書いたように、高性能ALPSは約1年4カ月間の稼働後は休止状態です。又、凍土方式陸側遮水壁の効果の検証は東電・経産省が行っています。

 国会は、高性能ALPSや陸側遮水壁の予算を認可した判断について、党派間の口論に陥ることなく、自らの責任で検証すべきでしょう。


春橋哲史

 1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。


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