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【奮闘する人、傍観する人】どうなるフルーツ狩り 福島市観光果樹園を襲う負のスパイラル

高齢の果樹農家がJAを頼るワケ

 「果樹王国」として全国に名を馳せる福島県。これからの季節はサクランボやモモなどのフルーツ狩りが楽しめるが、新型コロナウイルスの影響で観光客は見込めない状況だ。福島市のフルーツライン沿いに点在する観光果樹園の現状を取材した。

 フルーツラインは、福島市西部に広がる吾妻連峰の麓を走る県道5号線の愛称だ。延長約14㌔の道路沿いには果物畑が広がり、フルーツ狩りができる観光果樹園が数多く並んでいる。

 フルーツ狩りの本番は初夏から始まる。最初はサクランボ(6月中旬~7月中旬)。続いてモモ(7月中旬~9月中旬)。以降はナシ(8月下旬~10月上旬)、ブドウ(9月中旬~10月上旬)、リンゴ(10月上旬~12月上旬)と続き、半年近く楽しむことができる。

 すなわち、観光果樹園にとっては間もなく〝稼ぎ時〟を迎えるのだが、今年はいつもと大きく事情が異なっている。新型コロナウイルスの影響で、どれくらい観光客が訪れるか全く見通せないからだ。

 観光果樹園は、この危機をどう乗り越えようとしているのか――現地を取材するため、好天に恵まれた5月中旬、車でフルーツラインを往復した。

 点在する観光果樹園を一つひとつ訪ねてみたが、まだ本番前ということで閉まっているところが多い。入口が開いている事務所や店舗も、中に入ると留守で、隣接する果物畑も見渡してみるが、人の姿はなかなか見つからない。

 ようやく広い駐車場を備えた観光果樹園で、女性事務員に話を聞くことができた。

 「団体予約はゼロで、個人の観光客も厳しいと思います。(緊急事態宣言が出されているため)積極的な宣伝ができず、観光客が思った以上に来て『3密』が発生してもマズいので、手の打ちようがないのが現状です。緊急事態宣言がいつ解除されるかを見極めながら、県や市の指導を仰いで最適な営業スタイルを模索するしかありません」(女性事務員)

 観光客が見込めなければ、その人たちが刈るはずのフルーツは〝なりっ放し〟ということになる。まずはサクランボが対象になるが、それはどうするのか。

 「生育したものは従業員が順次刈り取り、店頭販売用とJAに出荷するものに分けています」(同)

 本来、フルーツ狩りで消費される分がJAを通じて市場に流れれば、例年より供給過多になり、価格低下につながることが考えられるが、女性事務員も「価格はその時期になってみないと分からないが、若干下がる可能性はあるでしょうね」と話す。

「手の打ちようがない」

 観光果樹園を後にして再び車を走らせると、果樹園で作業をしている男性を見つけた。話しかけると、男性は作業の手を止め「ウチではサクランボはやっていない。この木はモモだよ」と言う。

 「みんな、今年はどうなるか心配している。自粛、自粛で観光客なんか見込めないもんね。ウチは店頭売り専門だが、今年は厳しいと見て最初からJAに世話になろうと考えているんだ」(男性)

 ただ、JAに出荷するのは簡単ではないという。

 「店頭売りの場合、味が重要で見た目は二の次。モモの表面に少しヒビが入っていたり、形が少々いびつでも味が良ければそれでいい。しかし市場に出す場合は逆で、味より見た目が重視されるんです」(同)

 そのための手間と経費は、店頭売りの比ではないという。

 「一つの実を立派にするためには枝や実の剪定をしなければならないし、袋がけして(実を)保護する必要もあるが、自分一人では到底できない。そうなると、作業員を雇わなければならないし、袋も大量に用意しなければならないんです」(同)

 そうやって出荷したモモが高値で売れれば苦労も報われるが、前述したサクランボと同様、市場にモノが溢れる状況になれば、価格は期待できない可能性がある。

 「贈答用なら言うことないが、加工用として引き取られたら値段がガクンと下がるからね」(同)

 価格が期待できなければ、JAに出荷する意味も薄れる印象を受けるが、男性によると、それでもJAに頼りたい理由が自身だけでなく周囲の果樹農家にはあるのだという。

 「政府がコロナ対策として、売上が前年同期で半減した事業者に上限200万円、個人事業主に同100万円を給付する持続化給付金を打ち出したでしょ。あれって農家も対象になると思われるが、オレたち年寄りは複雑な申請書なんて書けない。だから、原発事故の賠償手続きで世話になったJAにもう一度世話になりたいと、年寄りの果樹農家はみんな考えているんです」(同)

 中小企業等からは、雇用調整助成金の手続きが「煩雑すぎる」と強い不満が漏れているが、これを踏まえれば、持続化給付金の手続きをJAに手伝ってほしいという果樹農家の考えは賢明と言える。

 もっとも、JAふくしま未来に問い合わせると、

 「持続化給付金への対応は決まっていない。農家が給付対象になるのかも含めて検討中」

 高齢者が、複雑で枚数の多い申請書を処理するのは無理だ。もし給付対象になれば、JAには困っている果樹農家に救いの手を差し伸べることを期待したい。

 一方、観光果樹園は大規模になればなるほど「手の打ちようがない」と途方に暮れていることも分かった。

 ある社長が現状を打ち明けた。

 「ウチでは最初からサクランボはあきらめ、モモに託そうと手入れに注力しています。ただ旅行会社に聞くと、サクランボ狩りの予約はゼロで、モモ狩りの予約は募集すらしていないというから、相当厳しくなると覚悟しています」

 この社長は、今年の売上を前年比3分の1まで落ち込むと予想しており「もはや死活問題」と語るが

 「ここで放置すると、来年の生育に影響するから手を抜くわけにはいかないんです」(同)

 つまり、売れる見込みがない果樹を、手間と経費をかけて育てている悪循環に陥っている、と。

 「ウチでは作業員を十数人使っているが、数日後にはさらに3、4人増やす予定だ。座して死を待つわけにはいかないが、現実には、朝起きると『今日も十数万円(の経費)が飛んでいくのか……』という心配が頭をよぎる毎日です」(同)

 話を聞いていて、正直言葉も出ないくらいだ。

 この社長は、緊急事態宣言が解除され、都道府県をまたぐ移動が認められれば、少しは事態が好転するはずと期待している。

 その同宣言は、5月14日に福島県など39県で解除された後、同25日までに全国で解除された。これにより観光客がどの程度回復するかは不透明だが、地元経済を応援するためにも、まずは県民が足を運ぶことがフルーツ狩りに限らず大切になるのかもしれない。


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