【春橋哲史】フクイチ事故は継続中③
増え続ける放射性固体廃棄物
東京電力・福島第一原子力発電所(以後「フクイチ」と略)では、今も核災害の収束作業が続けられています。ここで必ず発生するのが放射性固体廃棄物です。
フクイチと言えば、今は汚染水(液体廃棄物)に目が向きがちですが、保管・処理・処分が必要なのは固体廃棄物も同じです。
事故以降に発生しているフクイチの固体廃棄物の保管量は、今年3月末時点で瓦礫・伐採木・使用済み保護衣合わせて約47・3万立方㍍です。しかも、短期間に大量に発生した為、貯蔵庫の容量が足りず、その大半が屋外保管です(「まとめ1」を参照。「まとめ」の出典は注1として記事末尾に記載)。
本来、放射性固体廃棄物は屋内保管すべきものです。防火・監視等の機能が整った堅牢な建屋で遮蔽・隔離しなければなりません。
屋外の固体廃棄物が火災に巻き込まれれば、「(放射性物質の)環境中への大量放出」になりかねません。
フクイチでの火災事象は約9年間で37件に及んでおり(「まとめ1」の備考※4を参照)、「敷地外からの貰い火」の可能性も有ります。
このようなリスクが顕在化する可能性は低いかも知れませんが、ゼロではありません。「絶対安全」が無いことは、まさに2011年3月に証明されています。
現在、東電は固体廃棄物に関して「減容・減量を進め、2028年度までに屋外保管を解消する」という方針で取り組んでいます(「まとめ1・2」を参照)。とは言え、減量が進んでいるのは使用済み保護衣くらいで、瓦礫・伐採木に関しては処理設備の完成待ちです。計画されている全ての廃棄物貯蔵庫の完成時期も見通せません(念の為にお断りしておきますが、私は、作業負荷・被曝線量を上げてまで、工程を前倒しすることはあってはならないと考えています)。
固体廃棄物で更に厄介なのは、最終的な発生総量が明確に見通せないことです(「まとめ3」を参照)。これらの検討結果や成り行きによっては、計画中の設備や貯蔵庫では不足するかも知れません。
線量の高い建屋を解体すれば、解体に使用した重機も固体廃棄物になるでしょうし、解体中の耐震性の確保やダスト飛散防止策も必要です。作業安全だけでなく、周辺環境への影響等も考慮しなければなりません。
固体廃棄物の発生総量を抑制しようとして収束に必要な設備の設置を怠
ってはいけませんし、過剰な設備を設置すれば発生総量が増加します。
不要な建屋や設備の解体・撤去時期を先送りすれば、管理すべき廃棄物の量を抑制できる一方、劣化・老朽化等で別のリスクが顕在化する可能性が有ります。
フクイチの固体廃棄物の管理の難しさ・潜在的なリスクの大きさは、液体廃棄物に勝るとも劣りません。対象となる量・時間軸の長さ・将来を見据えて検討すべき要素の多さ・不確実性の高さを踏まえると、寧ろ液体より複雑・多岐と言えるかも知れません。
屋外保管の解消を目指すという東電の当面の方針は概ね適切だと思いますが、屋内保管に切り替わっても、それで終わりではありません。収束作業が続く限り固体廃棄物は増え続けますし、最終処分が必ず必要になります。
私が危惧するのは、液体廃棄物の轍を踏むことです。
液体廃棄物の処理・処分の検討が発災から9年を経ても迷走・紛糾している現状は、東電・政府が早い段階から外部の意見に耳を傾け、物理的な限界を見据えて対応していれば避けられていたかも知れないのです。固体廃棄物に関して、国民(=主権者)がリアルタイムで情報や課題を共有し、保管・管理の計画立案の段階から関与できる仕組みが求められます。
最後に、見出しから外れることをお許し下さい。
現在、経産省では、ALPSで処理した水(液体廃棄物)の扱いについて、書面での意見を募集しています(注2)。締め切りは6月15日です。今後、2018年のような公聴会が開催されるかどうかは未知数です。公的チャネルで意見を表明できる最後の機会かも知れません。是非、活用しましょう。
注1
「まとめ1~3」の主な出典
https://www.tepco.co.jp/decommission/information/implementation/pdf/3_1_2.pdf
https://www2.nsr.go.jp/data/000305732.pdf
注2
「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する書面での意見募集について」
春橋哲史
1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。