見出し画像

肩関節における”不安定”を理解しよう

肩関節に介入する機会を持つセラピストなら、肩関節の不安定性を理解することは重要です。

動きやシステムが複雑な肩関節は、可動域制限や痛みの本当の原因を判別することが難しく感じることが多く、そのために結果的に一辺倒な介入になってしまいがちです。

一般的な教科書や学生時代に学んだ運動学の知識を使っていくと、可動域制限や痛みの因果関係の矢印は、

・筋の問題→可動域制限
・筋の問題→痛みの出現

と、なることがとても多いと感じています。しかし、生体に何かトラブルが発生するときにはこのような単純な話にはなりません。当然、このような因果関係になる場合もありますが、この考え方だけでは確実に行き詰まることになります。

今回は、肩関節を理解する上で重要な、”不安定性”について解説します。

♦︎肩が不安定とは?

安定や不安定という表現は色々な分野で出てくる言葉ですが、力学の観点から考えるとイメージがつきやすいです。

✅安定とは
対象の錯乱があっても構造形状が大きく変化しないこと
不安定とは
何か微小な力や変形げきっかけで大きな変形に移行する、またはその寸前の状況

力学的な視点を肩関節に当てはめると、運動や外力の発生時に肩関節の内部に変化が起こっても関節内の環境が”大きく”変化しないこと。不安定とは、小さな運動や外力であっても関節内に大きな変化が起こってしまうこと。このように言い換えることができます。

”安全”な状況というのは、この不安定な状況になるまでの途中経過で対策がなされることです。

つまり、関節内の環境が変化しないとは、第1の安定化機構が機能する範囲から逸脱しないということであり、安全な状況というのは、不安定になる前に第3の安定化機構が不安定な状況になる間に働いていることだと考えることができます。肩関節には仮に不安定な状況になった時の緊急措置として、第2の安定化機構が存在しています。

肩関節の安定化機構の概念に、安定・安全・不安定という考え方を加えると以下のようになるでしょう。

不安定性と肩の安定化機構の関係性

安定した状態:第1の安定化機能が機能している状態
安全な状態:第3の安定化機構が機能している状態
不安定な状態:第2の安定化機構で不安定にならないように堪える状態

危険:損傷、破綻など

♦︎”動かない”ことと不安定の関係

力学の知見のみで不安定性を語るとこれまで解説したような話になりますが、理学療法や作業療法で関わるのは生体、生きている人間の肩関節なので不安定な状態になった時に放置はされません。

ですから、先にほども解説したように不安定な状態になった時に第2の安定化機構が機能し、どうにか肩の状態を危険な域に進まないように止めていると考えることができます。

逆に言えば、第2の安定化機構が十分に働いている状態はまだなんとか保っていることともいます。対応している患者さんの方がこのフェーズにあるにもかかわらず、無理やりに動かすと、危険域に進めてしまうことになります。

可動域制限があるとき重要なのは、この制限が第2の安定化機構が働いている状態なのか、損傷組織の治癒が進み、拘縮しているのかを判断する必要があります。

♦︎知られてない腱板が持つ重要な能力

肩関節を安定した状態、安全な状態を維持するためには肩甲骨の機能が重要です。肩の安定化機構を解説したとには関節窩の向きが変わることが重要であると述べました。それはその通りなのですが、ではどのようにして関節窩面の調整能力が発揮されているのでしょうか。

自動運動において、細く関節窩の向きを調整しているのは腱板の作用です。一般的に知られている作用は、関節窩に対する骨頭の求心力です。しかし、腱板の作用には、関節窩面の向き調整能力も存在するんです。

肩の安定化機構から考えると、一般的している作用(関節窩に対する骨頭の求心力)は、第2の安定化作用、関節窩面の調整能力は第3の安定化機構です。

腱板に骨頭の求心力という作用があるのは、筋の起始・停止という考え方から停止部分が起始部分に近づくという運動学的な視点があります。しかし、考えてもみてください。そもそも筋の収縮というのは、停止に起始が近づくということが本質ではありません。

筋のスライディングセオリーというのは、両端が均等に近づくものです。ただ、筋が付着する両端のうちのどちらから、質量的に重い、もしくは固定されるために結果的に停止側が近づいてくるという構図に見えるだけなんです。

なので、条件が変われば停止部が起始部に近づくことも可能です。この形が腱板に適応されるた場合、骨頭に対して肩甲骨が動くということになります。これこそが肩甲骨の調整能力です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?