反田恭平さんのピアノ~その2
そういうわけで、コンサートチケットの抽選に申し込んだ時も、当選した時も、働いている自分は想像しておらず、コンサート当日、7月1日はそわそわと出勤し、そわそわと、退勤。
更に、7月下旬にピアノの発表会を予定しており、月曜日のレッスンをスキップするという選択肢はなく、急ぎ足で仕事の後にピアノのレッスンへ向かった。
ピアノの先生にこの”そわそわ”の理由を告げずにレッスンを受けることは憚られ、『実は反田さんのコンサートチケットが当たって、19時にサントリーホールなので、レッスンは17時50分まででお願いします』っと、告白。思いやりあふれる先生は、それは大変、っと、17時45分には快くレッスンを切り上げてくれた。夫を迎えに車を走らせた。レッスンの前に、スーパーで購入した柿の葉寿司とまい泉のカツサンドを夫と一緒にサントリーホールまでの移動中に頂いた。
一方、妹チームは、妹の義母Yさんが14時半に東京駅に到着するので、13時半に妹が娘を我が家にお迎えに来て、一緒にYさんを東京駅にお迎えに行き、コンサートの間は、娘が姪っ子と一緒に妹の家でお留守番、そのままお泊りの予定だった。
しかし、13時半から約束通り自宅外で10分待ちぼうけした育ち盛りの娘は、空腹になり自宅に戻り、トーストやらスクランブルエッグやら作って食べ始めてしまったらしく、予定変更。妹はYさんを先にお迎えに行き、自分の家に送り届けてから、改めて娘のお迎えに。姪っ子と娘と4人でお夕食を済ませてから、子供達2人にはお留守番をお願いし、大人2人はサントリーホールに到着。
そして、到着した二階席。ステージ向かって右側。ステージ全体がよく見えるお席。配られたパンフレットによると一曲目が曲目変更に。
ワーグナー(1813-1883):オペラ「ローエングリン」よりファンファーレ
Wagner - Fanfare of the “Morgenszene” from Lohengrin(Act 3)
一曲目、ワーグナーの際にはピアノが舞台左袖に、ひっそりと置かれ、ピアノの出番は期待できず。管弦楽団だけに、管楽器を温めるため、ウォームアップの短めな一曲といった印象だった。早く、反田さん出てこないかな、っと期待が高まる会場内。
そして、一曲目が終わると、左舞台袖から、悠々とピアノがステージ中央へ移動された。
オネゲル : 交響詩「夏の牧歌」
Honegger : Pastorale d'été
黒いシャツに黒いパンツを履いた反田恭平さんがステージに。指揮者のオッテンザマー氏やオーケストラメンバーと軽いやり取りの後、ピアノ前に静かに座った。オーケストラの演奏にあわせて、反田さんのピアノの音色は正確で軽やかで小さな音までよく響く。爽やかなスイスの高原の空気を肌で感じる、山頂にだけ雪が少し残った青々とした山々が目に浮かぶ一曲。すっかり旅行に行った気分になる。
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番ト長調 Op.58
Beethoven : Piano Concerto No.4 in G-major op.58 (ピアノ : 反田恭平)
続いて、ベートーヴェン。反田さんのピアノソロで始まる。爽やかな会場の空気が変わる。美しいピアノの問いかけのメロディー、それに答えるように、オーケストラ。弦楽器、管楽器がテーマのメロディーを繰り返し、また変化させながら鳴り響く。指揮者やオーケストラと息がピッタリあった音のやりとりが妙にジャズっぽい。ちょっとしつこいと感じるベートーヴェンの音楽が今日はとりわけドラマチックで色気を感じた。いつまでも続けて欲しい音の対話。
演奏中、時折り譜面台脇に置かれた黒いタオルで汗を拭く反田さん、おっ、楽譜がないではないですが…全て暗譜なのですね。か、カッコ良すぎる…(後日調べたら、反田さんは暗譜名人とのこと)オーケストラとのギリギリの鬩ぎあいの末、ベートーヴェンらしく曲が〆られた。
鳴り止まない拍手と共に、オッテンザマー氏に付き添われて舞台袖へ。アンコールを求める拍手に呼び戻された反田さんが弾いてくれたアンコール曲は、シューマン作曲『トロイメライ』。
以前、『徹子の部屋』に反田さんがご出演されたときに、小林愛美さんとの赤ちゃんが寝る時に弾いていると仰っていた。なんと贅沢なルーティーンなのでしょう。コンサートがなかったらご自宅で弾いているであろう8時過ぎ、反田恭平サインはステージを後に。
中央に移動したピアノは舞台向かって右手に移動。時間は戻らない…スーパースターの去った後の、悲壮感に包まれた。私が余韻に浸ったところで、妹がボソっと私にだけ小さく一言『なんかさ、反田さん、カッコつけてない?』
ウィンケルマン:ジンメリバーグ組曲
Winkelmann : Simmelibärg-Suite(アコーディオン:ヴィヴィアンヌ・シャッソ)
オーケストラでバイオリンを担当するウィンケルマンさんがスイス民謡を素材として作曲されたアコーディオンと管弦楽のための組曲。オリジナルのスイス民謡を知っていたらもっと楽しめたかな、っと思いつつ、反田さんの演奏が終わってしまった喪失感はぬぐえないまま。
メンデルスゾーン:交響曲第4番イ長調 Op.90「イタリア」
Mendelssohn : Symphony No.4 in A-major op.90 "Italian"
スイスの牧歌的な空気感から一変して、地中海の光と風を感じる、陽気で切れ味のよい、ちょっぴり哀愁を感じる『イタリア』。最後は、オッテンザマー氏は客席に振り返り、指揮棒を駆使して、タモリばりに、観客を手拍子でオーケストラに参加させる仕切りに、会場は盛り上がる。会場全体を覆っていた?反田ロスも一変した。
因みに、指揮者オッテンザマー氏、すごいイケメンで、すらっと長身、スタイル抜群、それなのに気さくに日本語でご挨拶をして下さった。何より、ステージを歩くと、足の裏が赤い。ルブタンを履いている。こういう人が履く靴なんだ、ルブタンは。プロフィールを見ると、ハーバート卒。んー、素敵すぎる!!
ピアニスト反田恭平から、指揮者反田恭平へと脱皮したい、反田さんがきっと惚れ込んだ指揮者なんだろうな。音楽家として尊敬しあう二人の関係を想像しながら、唯一無二の時間と空間を共に過ごした余韻に浸る。
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