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すずのきらめき ~ 鎚

ひかり輝くさまをご紹介する、きらめきシリーズ。今回は光沢度を増す研磨から離れますが、輝きを美的に表現するわざの一つ、「鎚目(つちめ)」をご紹介します。

ものを見る器官のことだけではなく、並んだ凹凸や線のことを「目」と呼ぶことがあります。木目や櫛の目、畳の目など、一般的にもよく用いられる表現です。弊堂では昔から、金づちで叩いた跡のことを鎚目(つちめ)と呼んでいます。用いる金づちの種類によって目の表し方は違うのですが、金づちでつくられた光沢・きらめきは、金属工芸における仕上げ表現の中でも私自身がもっとも得意とし、愛しているものです。

金づち

多少荒れた金属の表面だったとしても、金づちを打つことによって細かい起伏は押しつぶされ、平坦にすこし近づきます。この際、金づちの頭(打面)にゆるやかなふくらみを持たせてやることで、打たれた表面にもゆるやかなふくらみが転写されます。金づちは鏡面に研ぎ磨きあげられているので、凹ミラーの連なりが生まれます。

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この緩やかな凹凸の連なりが、まるでミラーボールのような乱反射をし鎚目独特の味わいになります。用いる金づちのふくらみの大小と、打ち入れる金づちの力加減、用いる素材の厚みの違いで、この鎚目もさまざまな表現を生み出すことができます。

下は一見おなじような金づちに見えますが、それぞれ少しづつふくらみの矢高(円弧の高さ)が違います。

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下の写真は、比較的薄く軟らかい純銀の板(0.4mm厚)をもちいて、丸み(高さ)のある金づちで弱い力で打った鎚目。
純銀やんぽ(ボンボニエール)」。手のひらに収まるほどの小さなうつわですが、細かな鎚目が施されています。


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厚み1.4mmの銀入りの錫板。
錫 鎚目タンブラー」の底板を作っています。柔らかい錫素材なのでなるべく力は入れずに、また平たい箇所を打つので、金づちの丸み浅いものを使っています。

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「きらめき」を辞書で調べると、”きらめきは、キラキラと光輝く状態を示す(煌めき)”とありますが、まさにきらめいています。


■「道具から知る錫師のしごと」はこちら




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