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道具から知る錫師のしごと

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家業として営んでいます、金属工芸品の製造販売業。百均でなんでも買い揃う時代、PC、スキャナーとプリンターでなんでも作れる時代です。手と道具を駆使してモノをつくることをあらためて知…
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すずのきらめき ~ 草

おそらく金工・工芸にご興味ある方にお読みいただいているとおもうのですが、金属のきらめき→「草」ときいてピンとこられた方がいらしたら、かなりの工芸ツウでしょう。今回はそんな草のおはなしです。 木賊(とくさ) 辞書で調べると、『トクサ。北海道から本州中部にかけての山間の湿地に自生するが、観賞用などの目的で栽培されることも多い。表皮細胞の細胞壁にプラントオパールと呼ばれるケイ酸が蓄積して硬化し、砥石に似て茎でものを研ぐことができることから、砥草と呼ばれる』とありました。 木賊

すずのきらめき ~ 皮

金属の表面が光り輝くさまがどのようにして作られるかをご紹介するシリーズ、今回は「皮」。 表題に「皮」と付けてはいますが、残念ながら今回皮革の類いは登場しません。金属の肌へ鏡面加工を施すことを通称:英語で「Buffing(ばっふぃんぐ)」と呼んでい、この鏡面加工に使用する布などの繊維系道具を「Buff(ばふ)」と呼びます。日本語で「羽布」と書くこともあります。 この「Buff」、もともとは「シカやウシなどの皮革を揉んで柔かく加工した磨き用の皮製品」のことです。実際ごくまれに

すずのきらめき ~ 鎚

ひかり輝くさまをご紹介する、きらめきシリーズ。今回は光沢度を増す研磨から離れますが、輝きを美的に表現するわざの一つ、「鎚目(つちめ)」をご紹介します。 目 ものを見る器官のことだけではなく、並んだ凹凸や線のことを「目」と呼ぶことがあります。木目や櫛の目、畳の目など、一般的にもよく用いられる表現です。弊堂では昔から、金づちで叩いた跡のことを鎚目(つちめ)と呼んでいます。用いる金づちの種類によって目の表し方は違うのですが、金づちでつくられた光沢・きらめきは、金属工芸における仕

すずのきらめき ~ 炭

「きらめき」シリーズとして、金属工芸品(おもに錫)が光り輝くさまは、どのようにつくられるのかをご紹介しています。そのうえで、どうしても書いておかなくてはいけないと思うのが「炭」と「草」です。今回はそのうちの「炭」をご紹介します。 研磨(研ぎ)の理論「刃物研ぎから始める錫師のしごと~研ぎ実践」編でも一部ご紹介しましたが、「荒」い目の研磨道具を用いて製品を擦り研ぎ、順に「細」かく、表面の凹凸をできるかぎり少なくしてゆくものです。図で説明すると、 金属はほぼ、光を通さず跳ね返し

すずのきらめき ~ へら

「研磨(けんま)」についてお話します。金属素材は他の土や木とはちがって、光のエネルギーを跳ね返し光り輝く性質をもっています。たいがいの金属は、磨けば磨くほど輝きを増してゆきます。 私は子どもの頃、拾ってきた空き瓶のかけらをはじめて研磨したことを覚えています。そら豆ほどの大きさのガラス片を、サンドペーパーをつかって荒いものから細かいものへ、順に丁寧に砥いでゆきます。コンクリート表面を使って粗削りをしたのち、たしか400番くらいのサンドペーパーで擦ったような。最初のうちは表面が

刃物研ぎから始める錫師のしごと ~ 研ぎ実践

今回は、実際に”かんな”をはじめとした刃物を研ぐ作業に入ります。 私が研磨に用いる砥石は、主に5種類。砥石と簡単にいえども、ピンからキリまで様々なものが市販されています。私が日ごろ使っているのは、荒物屋さんやホームセンターでも手に入る、比較的安価なものです。 砥石についてなにしろ砥ぐ物量がはんぱなく多く砥石の摩耗が激しいため、良質の砥石を大切に使うよりも、安価なものをたくさん使うようにしています。愛用しているブランドは「キング砥石」。 下の写真は、荒いもの(#200~#3

刃物研ぎから始める錫師のしごと ~ 刃づくり

前回「刃物研ぎから始める錫師のしごと~基礎」編でご紹介した、「轆轤(ろくろ)と鉋(かんな)」を用いて器物を削り出し成形することは、土や砂を用いた型に溶かした素材を流し込み形づくる「鋳(い)もの」、金鎚や木槌を用い叩いてつくる「打ちもの」に対して、「挽(ひ)きもの」と呼んでいます。 今回は、前回に引き続き「挽きもの」で用いる「かんな」をご紹介します。すでに、一つの器物を作るにあたり、たくさんのかんなを用意せねばならないお話をしました。 かんなの作り方比較的柔らかい金属素材「

刃物研ぎから始める錫師のしごと ~ 基礎

多くの手仕事は、それ専用の道具を用いることが多いと思います。私たち錫師(すずし)の仕事も同じで、数々の道具を用いて日々製作に励んでいます。 代表的なものに「轆轤(ろくろ)」があります。器物を回転させて、刃物を使って削ること、砥石などの研磨用品を使って磨くことが出来ます。陶磁器で用いるろくろとは違って回転軸が水平方向で、かつ木工とは違って一か所を器物をほぼ固定しています。 このろくろは非常にシンプルな構造です。ただただ、器物を固定した軸を回転させるだけ。現在うちの工房ではモ