転生女子高生ですが、魔王はじめます。2話
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転生女子高生ですが、魔王はじめます。1話|日部星花(小説家) (note.com)
2話
▶第2話
●アシュタロス・昼・草原
愛美<ここ、日本……? だとして、どこ? 記憶喪失にでもなったのかな……>
愛美<でも私、たしか事故に遭って……服もそのままだし……。なんで生きてるんだろう?>
愛美「……これ、夢?」
愛美<それが一番有り得そうだよね。事故に遭って眠っている私が見ている夢、っていうのが。明晰夢っていうのかな、こういうの>
愛美「でも、それにしたってものすごくリアル……」
立ち上がって、制服についた草を払い落とす。
そこで愛美は、そばにさっきまで持っていたカバンが放り出してあることに気づいた。
愛美「あれ、あのカバン……」
愛美<……なんでさっきまで持ってたカバンまで夢の中に……>
白いカバンの持ち手を手に取ると、ラバー製の竹刀ストラップが揺れた。
眉を寄せてカバンを開けると、スマホがあった。他には、ティッシュや財布、メモ帳やペン。
スマホを開いて電波状況を確認してみる愛美。しかし、スマホは圏外だった。
愛美「夢の中くらい融通きかせてくれたってよくない?」
愛美<それか、早く夢なんて覚めてくれないかな>
愛美<というか私、これからどうすれば……>
そのとき、ドゴン!!と。
突如赤い炎が愛美の目の前に現れ、爆風が頬を撫でた。
愛美<え!?>
そして間もなく次の爆音が轟いた。一気に燃え上がった炎が、草原の草を焼いていく。
愛美「え……な、なに!? なんなの……ッ」
愛美状況を理解出来ないまま、愛美は慌てて立ち上がる。
そしてそのまま、我武者羅に走り出す。
愛美<なにこれ! なにこれ!!>
愛美「これは夢のはずでしょ……!?」
愛美<どうして飛び散る火の粉がこんなに熱いの?
どうして空気が焼け付くように熱くなったの?>
凄まじい熱波は未だ消えず、愛美を襲ってくる。
次々襲い来る火の塊をなんとか避けながら、走る。愛美の目から涙がこぼれる。
愛美<どうして? どうしてこんな目に合わなくちゃならないの!? 夢なのに……!>
川に沿って走り続け、愛美は一度足を止め、近くの岩に手を当てて肩で息をした。
愛美「はぁ、はぁ、はぁ」
愛美「信じられない。なんなの、ここは。誰が火なんて……」
愛美<それに、火の粉があんなに熱いなんて、どうして……>
手に取ったカバンも煤でところどころ汚れている。
しかし、すぐにヒュン、と風を切る音。一瞬遅れて、どごぉん!!と轟音が轟き、岩が崩れ落ちる。さらに、やや遠いところで同様の轟音。
愛美<今度は何!?>
愛美「……って、これ……」
崩れ落ちた、岩“だった”物に近寄って、そっと崩れ落ちた破片をどかしてみる愛美。
そこにあったのは、1本の鉄製の矢だった。何の変哲もないない矢だ。とても岩を砕くようなものには見えない。
愛美「……嘘でしょ? まさか、これで岩を……!?」
愛美<ていうか、これ、私に向けて……?
場所が少しでもずれていたら、あの矢は私に……>
ざわり、と恐怖で背中の毛が逆立つ。
愛美は真っ青になって己の両腕を抱いた。
愛美<とにかく、弓手をどうにかしなきゃ……。大丈夫、ここは夢、私は死なない……>
愛美は、己を鼓舞し、身を低くしながら矢が飛んできた方向へ足を進める。
長い草をかきわけ、轟音と矢を恐れ、首をすくめながら一歩一歩。
そして、草の中で見つけたのは、鉄製の弓と空っぽの矢入れを持ち、倒れている金髪碧眼の青年だった。
愛美「え……外国人?」
青年「うう……」
青年は頭から少量の血を流しながら、苦しげにうめいている。
愛美<この弓……彼が私に矢を? でもなんで? ていうか誰?>
青年「魔族め……」
愛美「え……?」
青年「俺たちが……ッ」
軍服だか、騎士服だかわからない白い制服を着た青年が、ゆっくりと上体を起こす。服から零れ落ちた紙切れが、ひらりと草原に着地する。
青年「俺たち人間がお前らに一体……、何をしたッ、魔族め!!」
愛美「わっ!?」
凄い力で突き飛ばされて、尻餅をつく愛美。何故か、青年い触れられた肩でじりっ、という音がした。
爛々と光る目で愛美を見つめる青年。その目にあるのは、濁りのない憎悪。
愛美「ま……魔族? 魔族って言ったの……? 私を_」
愛美が足下に視線を落とすと、彼が落としたのが写真だと気づく。白黒のそこに映っているのは彼と同じくらいの年の女性と、小さな男の子。写真は、血と泥で汚れていた。
愛美の顔から血の気が引く。
愛美<まさか、ここは……もしかして、夢ではない? どこか、地球ではない……世界?>
青年「絶対に……許さん……! 勇者さまが……王子殿下が、必ず魔族を滅ぼす!」
愛美「!
ち、ちがいます! 私は……魔族なんかじゃない! 人間ですっ」
青年「魔族じゃ……ない、だと……!? バカを言うな!
その闇色の瞳と髪が、凄まじい魔力を保持する証…魔族の覇王の証だろう……ううっ」
愛美「ちょ……大丈夫!?」
苦しそうに低く呻き、青年は再び草の上に倒れてしまった。
あわててそこに駈け寄る愛美の顔は強張っている。
愛美<闇色の……? 黒髪と、黒い目が何かの判断基準になってるってこと?>
愛美<いや、今、そんなこと考えてる場合じゃない!
とにかく手当をしなきゃ、じゃないとこの人が……!>
愛美はあわてて青年に手を伸ばす。すると、バチィ!!、と。
見えない何かに、阻まれるように白い火花が散った。
愛美「っ!!」
あわてて手を引っ込める愛美。手は軽いやけどを負っている。
火花を出したものの正体は、彼の首にかかっていた、白い五芒星が描かれたペンダントだった。いまだ、白い光をぱちぱちと放っている。
呆気に取られた愛美を見て、顔を歪める兵士の青年。
青年「魔除けとの衝突……やはり、お前は……人間などでは、ない」
愛美「魔除け……」
愛美<そんな……なんで?>
自分の指先を見つめる愛美。
じりじりと痛む指先は熱を持ち、火傷を負ったように腫れている。
しかし、愛美はぐっと唇を噛むと、制服の袖を破った。そして火花が散るのも構わず、目の前の彼の怪我に手を伸ばす。
血が出ている箇所をちぎった布で縛り、出血している後頭部をタオルで押さえる。
愛美<く、い、痛い……! 熱した金属に、触れているみたい……!>
愛美の行動に、目を見開く青年。
青年「き、貴様は……何を、」
愛美「見てわからないんですか、手当ですよ! あなたには家族がいるんでしょ!? どうしてこんなところで倒れているのかはわからないけど、私のこんな火傷より、あなたの傷の方がひどいから……!」
愛美<……痛いのも、面倒なことも、嫌いだ。でも、目の前で人が倒れているのに、何もしないなんてできないよ……!>
バッグの奥を探る愛美。
すると、方に入っていたスプレーを見つける。体育の後の臭い消し用の小さなもの。
愛美<これでも、コールドスプレーの代わりになるかもしれない>
愛美はタオルにスプレーをかけると、また彼の頭に当てる。
その時だ。ごう!! と背後で凄まじい音がしたかと思えば、背中に激しい熱を感じた。
振り向くと、そこにはさっきの、紅い炎が。草を焼き尽くしてここまで迫ってきたようだ。
愛美<この火、この人がやったんじゃなかったんだ。あの矢はこの人のだろうけど、じゃあ、もう一人火を放った人が近くに……?>
愛美<でもなんで火とか、意味不明なほど固い矢とかがこんなところで飛び交ってるの?
ここは一体……>
青年「逃げ……ろ……」
愛美「え、」
次の話
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