転生女子高生ですが、魔王はじめます。3話
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転生女子高生ですが、魔王はじめます。2話|日部星花(小説家) (note.com)
3話
●アシュタロス・昼・草原
青年「お前は……他の、魔族とは……違うようだ……。俺のことは、いいから……早く、この火から、逃げろ」
愛美「な……何、言ってるの!? いまさら見捨てて逃げるなんてできないよ……!」
しかし、火は迫ってくる。愛美の目からどんどん涙がこぼれる。
愛美<逃げるなんて無理。じゃあ、私、このまま焼け死んじゃうの?>
愛美<ここが夢の世界じゃないなら、私、本当に死んじゃうんじゃ……>
そのとき。炎のせいで熱風となった風が、落ちていた写真を巻き上げる。
愛美「あっ」
その写真が火の粉に焼かれたところを見て、愛美の心臓が、どくん!! と大きな音を立てる。
愛美<いやだ……だめだ>
愛美<この人を、死なせたくない>
愛美<何もかもわからないまま、こんなところで死にたくない!>
……ドンッッ!!! 瞬間、今まで最も大きな轟音が轟いた。
愛美「わっ……、」
愛美が恐る恐る目を開くと、辺りを覆っていたのは赤い炎ではなく、黒い炎だった。
はっとして、青年を庇うように立つ愛美。
しかし、いくらたっても、黒い炎は愛美達を襲うことはなかった。まるで愛美たちを守るかのようにそこで燃え続けている。
愛美<赤い炎も、黒い炎に阻まれて、こっちにこない……。まさか、私達を守ってくれたの……?>
青年「黒い、炎……か……」
呆けたように呟く青年。
愛美「っ、今のうちです! 早く逃げてください! ここで手当してる暇はないから、どうか仲間を見つけて手当してもらってください!
この黒い炎は……多分、危なくない。そんな気がする!」
青年「そうだな、」
ふらふらと立ち上がり、痛みを堪えるように歩き出す青年。赤い炎が迫ってきた方向とは逆の方向にである。
やがて二人を円状に取り囲んでいた黒い炎の前まで辿り着くと、彼は進むのを躊躇するかのように立ち止まった。
それを見て、祈る愛美。
愛美<……黒い炎、私たちの味方なら、どうか彼を通してあげて……!>
すると、黒い炎が、道を開けるように、青年が通る場所だけかき消えた。
消えた部分は草が焼かれ、高温の為か、あまりの地面が白く融解しているという凄まじい痕跡が残っている。
愛美<これほど高温な炎のはずなのに、近くにいて全然熱くなかった……。やっぱり、普通の火じゃなかったんだ、黒い炎>
青年「ッ!」
愛美「あっ」
不意に青年が、苦悶の表情で蹲る。
愛美があわてて駆け寄ると、彼の額には脂汗が浮いていた。
愛美「だ、大丈夫ですか!? しっかりして……!」
慌てて揺り動かすも、彼は喉を手で押さえたまま呻くだけだ。
愛美<どうしよう……>
刹那。――ごう!! と、凄まじい音がして、風が巻き起こった。
あまりの風の勢いに、しゃがんでいた愛美は尻餅をついてしまう。
青年「この……強大な魔力、は……ッ」
愛美「え……!?」
風はまさに台風のように渦巻き、愛美たちは中心部分で地面にしがみついている状態になっていた。
愛美<飛ばされる……!>
しかし、しばらくして風じゃ止んだ。あまりの激しさに白んで見えた風の動きもなくなり、視界が晴れる。
青年はまだ苦しそうだが、さっきよりは顔色がよくなっている。
愛美「でも、風が……今のは……」
ランスロット「貴女が……黒い炎の使い手か」
愛美「!」
聞こえてきた声にハッとして、顔を上げる愛美。
そこ経っていたのは焦げ茶色の髪の毛に、同色の瞳を持ち、黒いローブに、腰に差した剣といったいで立ちのイケメン。
愛美<もしかしてこの人が、さっきの火とか、今の風を作った人?>
困惑しながら愛美がうしろの青年を見ると、なんと彼は顔を歪め、手を震えさせながら、起きあがろうとしていた。
そして、彼はさきほど愛美をにらんだときよりもさらに激しい憎悪をたぎらせた目で男(ランスロット)を見る。
青年「……何故……何故ッ、休戦協定を破った、“智の王”……いや、影夜国宰相……ランスロット!!」
ランスロット「……」
愛美<さ……宰相? しかも…“えいやこく”って……>
愛美<まさか、ここってほんとうに……>
ランスロット「……休戦協定を、いつどこで破ろうなど……我らの勝手だ。元より……人族と、魔族は相容れない種族なのだからな」
青年「なんだと……先代魔王に……唯一、人と魔族の休戦を意見したお前が……」
ランスロットの眉が少し寄せられる。
そして彼は深くため息をつくと、ボロボロになった青年の額に手を掲げた。
ランスロット「魔族の事情に、口を挟むな……人間」
愛美「え、ちょっ……」
そして、次の瞬間。
青年は、その場から煙のように掻き消えていた。
愛美「なッ……あなた、今、何を……」
愛美<殴り飛ばした? 吹っ飛ばした? いや、触れてすらいなかったのに、なんで、消えて……>
ランスロット「もう一度訊こう……。貴女が、あの黒い炎を生み出したのか」
愛美「……ッッ」
愛美の顔が青ざめる。
ランスロットはその冴え冴えとした美貌で、しりもちをついたままの愛美を見下ろしている。
愛美「そ……そう、です、けど……」
ランスロット「……では。やはり、あなたが13代目なのですね」
愛美「は……13代目……? なんのことですか……」
困惑する愛美。
ランスロットの冴え冴えとした雰囲気が少し緩み、いつくしむような視線を愛美に注ぐ。
そしてついに、彼は片膝をついて愛美に向かって頭を垂れた。
ランスロット「あなたを、お待ちしておりました。……魔王陛下」
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