転生女子高生ですが、魔王はじめます。1話
あらすじ
私、一ノ瀬愛美はただの女子高生だった――交通事故で命を落とした、あの日までは。
「お初にお目にかかります、陛下」
「……はい?」
しかし交通事故のせいでトリップしたのは、魔族が人間を蹂躙する、荒んだ世界。
――ちょっと待て! ここはどこなの、なんで私、魔王陛下だなんて呼ばれてるの!? しかも先代魔王は悪逆非道の冷血漢で、世界全土で人間VS魔族の戦争状態らしい。
エもしかして私、ラスボス!? 勇者に倒される役どころ!?
「ぎゃあああいやああああ殺さないでええええ!!」
元女子高生の現魔王の、よりよい世界づくり、始まります。
登場人物・用語など
一ノ瀬愛美(いちのせまなみ)
【主人公・魔王(人間)/高校生(女性)・16歳】
剣道が得意なごく普通の女子高生。ミディアムロングの黒髪に、ぱっちりした黒目。シャツとリボンタイの上にパーカー、プリーツスカートといういで立ち。明るい性格だが、人として相応の弱さも持ち合わせている。
交通事故で死んだと思いきや、気づけば異世界アシュタロスに飛ばされていた。魔族の国『影夜国』の女王として(ほぼ無理矢理)城に迎え入れられることとなる。魔王のみが使うことができる「黒い炎」を、異世界に来て自在に操ることができるようになる。
「何が魔界だ~~~!! アシュタンガヨガでもアシュタロスでもいいから、地球に帰りたいよ~~~~!!!」
レオナード・ヴィフ・アルジャン(レン)
【ヒーロー・人間/王子(男性)・17歳】
人間の国・聖ミスリル統一王国第一王子にして、勇者と呼ばれる存在。金髪にロイヤルブルーの瞳の、世にまたとない美貌の少年。
王子にしては気安い性格。それだけでなく、長年魔族との戦争で、国民の命が失われていっていることを憂う王族としての優しさと責任感もある。
勇者と呼ばれるだけの王宮剣術を収めており、魔族の魔法に対抗する法術の腕前もかなりのもの。
「俺は、レオナード・ヴィフ・アルジャン。お察しの通り、人間の国の第一王子で、監獄にいる情けない現勇者だ。よろしく、魔王サマ」
ランスロット
【魔族/宰相(男性)】
魔族の国・影夜国宰相。魔族四天王と呼ばれる四人の実力者の内“智の王”を担う切れ者。
20代半ばほどに見える落ち着いた美形で、焦げ茶色の髪に同色の瞳を持つ。
冷徹に見えるが、民想いの宰相であり、恐怖で民を支配していた先代魔王にたびたび諫言をしていたほど。愛美のこともあらたな女王として尊敬・尊重している。
第12代魔王
【魔族/先代魔王(男性)】
魔族の国・影夜国先代魔王。濃い灰色の髪を持っていた。他者に憑依する魔法を得意としていた。先代勇者である人間の王に殺されている。
残虐な性格で、人間との戦争が激化しただけでなく、その気まぐれによって多くの国民が亡くなったとされている。
●アシュタロス
世界(星)の名。北大陸、南西大陸、東大島の三つの大陸がある。海は北大陸と南西大陸の間に横たわる中央海原がある。
●影夜《えいや》国
魔族の国。北大陸のほとんどすべてを占める。魔王直轄領、魔族四天王それぞれの直轄領から構成されている。首都の名前はシャドウィング。黒髪黒目に近いほど、魔力が高い、尊い存在とされている。君主を魔王と呼ぶ。
●聖ミスリル統一王国
人間たちの複数の国から成る統一王国。南西大陸のほとんどが国土。打倒魔族のために一致団結しており、人間の国が一つにまとめられているのである。王族の男子は魔族と積極的に戦うように教育されるため、王太子は『勇者』と呼ばれる。
●魔法・法術
魔法は、魔力を使う魔族のみの力。法術は、聖力を使う人間のみの力。
魔力と聖力は反発しあう。
1話
●日本・昼・街角
モノローグ)ファンタジーってあるでしょう? 剣と魔法とか、そういうの。
モノローグ)異世界に突然召喚され、栄光を手にする主人公の物語も、そう。
モノローグ)異世界で試練を乗り越え、敵を倒した主人公は、キラキラしている。
モノローグ)けれど――まったく異なった世界で生きるということは、物語で見るほど簡単なことなのでしょうか?
昼下がり。とある街角。
紫色の水晶に手をかざした、紫色のベールを被った占い師の、妖しげな笑みのアップ。
占い師「あなた、来世はきっと、女王様におなりになりますわ」
愛美「えっ、女王様……!?」
美咲「うっわ……」
占い師「ええ」
キラキラした顔の愛美と、隣で引いた顔をする美咲と呼ばれた少女。
頷いた占い師の持つ紫色の水晶が中がふわふわと光っている。
美咲「巷で当たるって評判だから来てみたら……ハァ……占い料の1000円、どぶに捨てたわね」
愛美「ねえ美咲聞いた!? 私の来世、女王様なんだって! 夢あるよね~!」
美咲「あ~~、ハイハイ。あんたがいいならいいのよ……」
うっとりと目を閉じる愛美を、引いた目で見る美咲。
そんな愛美の前に、占い師が何か黒い水晶のようなストラップを手渡す。
占い師「来世が女王様のあなたに、こちらをご用意いたしました。守護のストラップです。本来ならば10000円のところ、あなたには特別割引で3000円でどうでしょう?」
愛美「え、お得……! 買います!」
美咲「オイコラ」
ストラップをスマホにつけてほくほく顔の愛美を、いよいよドン引きした顔で見る美咲。
美咲「ハア、もういいや。行くわよ」
愛美「わかったよ、美咲。あの、ありがとうございます~! また来ますね!」
占い師「……ああ、お買い上げいただいたおまけにもう一つ」
愛美「なんですか?」
怪しげな笑みを浮かべた占い師が、さらににい、と口角を吊り上げる。
そして、人差し指を口に当てて見せた。
占い師「――あなたの旅路は、もうすぐ始まります。長く険しい道のりでしょうが、前を見て、乗り越えなさいませ」
愛美「……? はあい!」
●日本・昼・住宅街→公園前
美咲「……あんたそのうち五十万の壺とか買わされそうよね」
愛美「わかってないな、私はロマンにお金を払ってるんだよ。異世界とか魔法とか王様とか、そういうファンタジー、最高!」
美咲「ハァ……」
美咲と愛美が並んで歩いている。美咲は愛美の言葉に、片手を額に当てた。
そして、やや大きな日本家屋の前で美咲が止まり、愛美に言う。
美咲「じゃあ、私はここだから。あんた、ほんと霊感商法とか気をつけなさいよ」
愛美「だ~いじょうぶだって! じゃあまたね!」
美咲「はいはい、明日ね」
モノローグ)そう。この時の私は、異世界や魔法などのファンタジーに憧れていた
美咲の家の前で別れ、しばらく歩く愛美。
帰り道にある公園の入り口付近で、小学校低学年らしき男の子たちがボールで遊んでいる。
ふと、男の子の手から離れたボールが、バウンドしながら道路に飛び出す。
それを追って男の子が道路へ走っていく。そしてその子に迫るトラック。
モノローグ)でも、この時は知らなかったのだ
男の子「あっ」
愛美「!? 危ないっ!!」
愛美は咄嗟に動いていた。
そして男の子を突き飛ばして顔を上げると、すでにトラックは目の前にあった。
愛美<ああ、なんてベタな展開>
____キキキキキキィィ!!!
ブレーキ音。愛美の視界が反転し、歪む背景描写(愛美視点)。
だんだんと視界が暗くなっていくことで、画面が黒くなる。
モノローグ)自分の常識も、知識も、何一つ味方でない、孤独な異世界。
そこでの生活が、どれほど苦しいものなのかってことを。
そして、
●アシュタロス・昼・草原
愛美<……>
愛美<……あ。なんだか、草のにおいがする。寝転ぶの、気持ちいいな、おひさまの匂いがして。頬が少しくすぐったいのが玉にキズだけど。
まあ仕方ないね、下、草だから。草原で寝っ転がってたら、くすぐったいよそりゃ>
愛美<そう、草だから。
草原で、寝て、る…んだ…から………………、は??>
がばっ!!と起き上がる愛美。
そこは、草原にある森のそばに流れる川のほとりだった。
愛美「は!!? 何ここ、どこ!?!」
モノローグ)そして。
占い師の予言が本当に当たって――その世界で魔王と呼ばれることになる、だなんてことも。
次の話
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?