見出し画像

中高生の英語学習、教科書には書かれていない大事なこと

私は英語の教員です。と言っても、一般企業に勤めていたときに5年間海外赴任をして英語漬けになり、その後いくつかのビジネスを経験した後に、英語教員に転身したという変わり種です(笑)

「英語は習ったようにしか教えられない」と言いますが、そういう意味では私は、日本で学んだ英語と、海外で身につけた英語の両面から見ることができるので、これを活かした授業をしていきたいと思っています。

そんな私に立ちふさがるのが、教科書にある文法です。



文法の教科書は昔も今も変わっていない

今年も本校では、夏に教員を対象とした授業研修がありました。その中に、指定された単元から一つを選んで行う模擬授業があります。英語の場合、今回はTo不定詞、使役動詞、過去完了形、仮定法過去の4つが選択肢でした。

がーーーーん・・・この選択肢を見て真っ先に思いました。こんなことを言うと他の英語の先生からは苦言を呈されてしまいそうですが、なぜどれもこんなにつまらなそうなんでしょうか!? 

何てったってネーミングが最悪です! 私が海外で英語漬けだった5年間に、To不定詞自体は使っていましたけど、「To不定詞」なんていう用語は一度も使わなかったし、さらに言うと過去完了形とか仮定法過去は、恥ずかしながらその表現自体ほぼ使わなかったです!

大体、文法の教科書の目次がこうなっているんですよね。文型、時制、完了形、助動詞、受動態、不定詞、動名詞、分詞、比較、関係詞、仮定法・・・ あー、生徒たちがやる気をなくすのも理解できます!!

しかし、文句を言っても始まりませんので、私は今回は使役動詞を選びました。これなら文法的にはシンプルですし、むしろmakeやhaveなどの頻出動詞のリアルな使い方にフォーカスを当てることができますからね。
はい、英語の授業は「英語を使うこと」が念頭に置かれていないといけないです。

文法を学ぶうえで大切なこととは?

文法の授業で私が心掛けていることは、なぜそうなのか?というところです。例えばこんな感じです。
・現在完了形にズバリ一致する表現が日本語にはないのに、なぜ英語には存在するの?
・受動態と能動態の違いはわかったけど、どういうときに受動態を使えばいいの?
・使役動詞なら、日本語では“させる“”してもらう”で片付けられてしまうのに、英語にすると何種類もの表現があるのはなぜ?

こういうところをスルーしたままだと、知識としての英文法にとどまってしまうので、リアルな場面で適当な英語がとっさに使えない、つまり応用が利かないということが起きます。

逆に言うと、本質的なところがわかっていると「今だ!(こういう時はこの表現だ)」と自分の中でピタッとはまる瞬間があります。そしてそれを使ってみて実際に通じると、自己満足のような快感があって、そうして確実に自分のボキャブラリーになっていくんじゃないかと思っています。

この感覚を、普段英語をほとんどしゃべる機会のない日本の生徒たちに、どうしたら移植していけるんだろう?これがまた、すごく大きくて歯痒いテーマなんですが!

いずれにしても、文法はテストのためでもなく、パズルやクイズでもなく、伝えるためのフレームワーク(枠組み)であるということを理解して、その本質を知る。そして、文法ばかりをやりすぎない。これが大切だと思います。

英語を使うために、文法と同じくらい大切なこと

念のためお断りしておきますが、私は決して文法不要論者というわけではありません。4技能(読む・聞く・書く・話す)も当然だと思っています。
ただ、文法と文法以外とのバランスをもう少し取りたいのです。文法はあくまでもフレームワークに過ぎない。言語が口から出す音声である以上、デリバリー(どう届けるか)も文法と同じくらいに大切です。つまり、発音です。

私は大人になってから英語を身につけた人なので、ハッキリ言ってネイティブのような綺麗な発音はできません。ですが、それは気にしないことにしています。グローバル企業に勤めていたときに、世界中の訛りのある英語を聴いてきましたので、そのあたりの抵抗感はなくなりました。

そもそもイギリス英語を聴き取るのは至難の業でしたし、フランス英語、ドイツ英語、スペイン英語、イタリア英語、どれも母国語の訛りがメチャ滲み出ていました。シンガポール英語、インド英語、アラビア英語などもクセがあって、だからこそ、日本英語もアリじゃんか!と思ったものでした。

では、どのレベルの日本英語でよしとするか。私は、一つひとつの母音や子音の発音がカタカナっぽいのは仕方ないと思っています。だって私たちは、耳(と脳)がアイウエオの五十音で育ってしまっているから。(よく、顔の断面図が描かれていて、舌の位置とかが細かく指示されているのを見ますが、それは高等テクと捉えて私は重視しません。)

ただ、カタカナっぽくてもいいので、全然違う発音はしないようにしたい。例えば、”アイ”と発音すべきところを”イ”と発音してしまうとか。これが一つ目です。

それともう一つは、リズムと抑揚です。日本語は英語と比べると、リズムと抑揚がとても単調です。例えば「おはようございます」は、お~すの9文字がほぼ同じテンポ・同じ音程で発音されますよね。一方英語の「Good morning.」は、11文字なのに「グッ・モー・ニンッ」と3拍で、しかも「モー」の部分が高い音程で長く伸ばして発音されます。この違いです。

英語を話すときに、この違いを取り入れていない生徒(というか日本人)がどれほど多いことか。まるで「おはようございます」と無感情に言うように、「グッドモーニング」と平板に言うのは、いわゆる日本英語としても不充分だなぁと思うのです。

ということで、この3つがポイントです。
1.発音はカタカナっぽくてもいい(ただし違う発音はしないようにする)
2.リズムと抑揚を英語っぽくする
3.しゃべれるつもりになり切る

1はフォニックスを一部でも導入すれば、だいぶ解決するでしょう。2は、個々の単語ベースによる発音学習に加えて、体系的な発音指導を取り入れれば、かなり改善できると思っています。3はモノマネ精神みたいなものです!

この3つは高校の英語の教科書にはないのですが、私は見るに見かねていたので、1学期の期末試験の後の授業で試しに少し紹介してみました。生徒たちには、

発音がわかれば音読ができる
→ 音読ができればリスニングができる
→ リスニングができればスピーキングができる

と言って動機づけをしたうえで、私の英語に続けて発声させながら授業を進めましたが、「こういうの習ったことない、おもしろ~い」と言って、ちゃんと真似して発声していましたね。手応えありでした!

よき日本英語を目指そう!

ちなみにネイティブのような綺麗な発音を身につけるには、耳のいい幼少期(個人差はあるが概ね9歳くらいまで)に英語をたくさん聴いてたくさん使うのが一番効率的と言われています。母国語と同じように習得する方法です。

高校生や大学生では遅すぎるということはありませんが、耳や脳が臨界期を過ぎると、翻訳プロセスを介して吸収する方が得意になります(つまり時間がかかる)。

一方で、高校生は学校の勉強や部活など他にやることが多すぎて、英語学習のために充分な時間がなかなか取れません。
これらが矛盾となって立ちはだかり、幼少期(吸収は速いうえ時間もある)と比べると条件的に厳しい、というのが実際のところでしょう。

ですから、ネイティブのような発音を目指すのではなく、よき日本英語を目指すことは、日本の高校生にとって、すごーーく現実的な方法論だと考えています。

(H Sakamoto)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?