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民研歳時記<第4回>民俗学と博物館展示

 平成3年10月21日(~11月20日)は、成城大学民俗学研究所で、展示ホールの完成記念特別展「柳田國男の足跡」が開催された日です。

 民俗学研究所では、その後も毎年欠かさず特別展を開催し、本年で38回目を迎えます。
 授業以外で民俗学に触れることのできる代表的なものに、博物館展示があります。今回は、趣味と勉強を兼ねた博物館展示の観覧についてお話しします。

特別展「柳田國男からの絵はがき」

 他の施設を紹介する前に、宣伝を一つ。
 成城大学民俗学研究所では、11月から、下記の特別展を開催いたします。少し専門的な内容ですが、柳田國男に興味のある方は、ぜひご来観ください。

【特別展「柳田國男からの絵はがき」】
日時:令和3年11月4日~12月22日(日祝休館)
   10時~16時(土曜は12時まで)
場所:成城大学民俗学研究所
  (小田急線「成城学園前駅」徒歩4分)
申し込み方法:無料、事前予約制 
詳細は公式ページでご確認ください。
※コロナの状況次第で変更になる可能性もあります。直前に公式ページをご確認ください。

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博物館に行ったことはありますか?

 さて、皆さんは、今までに何回くらい博物館に行ったことがありますか?
 学校の課外授業で行った記憶があるくらいで、あまり縁がないなと思われる方もいるかもしれません。けれども、実は皆さんは、知らず知らずのうちにたくさんの博物館を訪れているんです。
 というのは、「博物館」に分類されるものは、○○博物館と名前のつくものに限らず、美術館、文学館、さらには動物園、植物園、水族館なども含まれているからなんです。観光地で訪れるような大きな寺社の宝物館なども含まれますし、もちろん、「郷土資料館」も博物館です。

 博物館には、国や都道府県に登録・指定された「登録博物館」「博物館相当施設」と、博物館と同種の事業を行う「博物館類似施設」があり、これらをひっくるめて博物館と呼びます。博物館のうち4分の3は「博物館類似施設」です。
 博物館の役目は、資料を「収集・保管」し、「調査研究」して、「教育普及(展示等)」を行うことです。動植物も生きている大切な資料ということですね。

 博物館は学問分野ごとに、人文科学系博物館、自然科学系博物館(両者を持つものは総合博物館)に分けられます。自然系には、自然史博物館、科学博物館や、動植物園、水族館が含まれ、人文系には美術館や歴史系博物館が含まれます。
 民俗学を取り扱うのは、歴史系博物館ということになり、郷土資料館や、民家園という名称の施設も多くあります。

 歴史博物館や郷土資料館では、地域の民俗を展示する常設展が設置されていたりします。また様々な博物館で、期間限定の企画展として民俗をテーマにした展示が行われています。
 毎年夏には、怪談や妖怪をテーマにした博物館展示なども各地で好評を得ているので、行ったことのある人もいるのではないでしょうか。

 それでは、堅い話はここまでにして、柳田國男を知ることができる博物館や、民俗学が身近で学べる博物館について紹介していきたいと思います。

博物館に行こう(旅行先編)

 民俗学や柳田國男に興味をお持ちの皆さんには、岩手県遠野市を訪れたことがある方も多いのではないでしょうか。遠野市は、柳田國男の『遠野物語』の舞台として、観光に力を入れています。
 まだ訪れたことが無い方は、ぜひ一度旅行に行くことをお勧めしたいです。

 遠野市内には、河童の出ると伝わる「カッパ淵」や、「続石(つづきいし)」「卯子酉様(うねどりさま)」といった観光名所がありますが、実は、見どころとなる博物館もたくさんあります。観光地だけあって、それらはみんな、「学ぶ」だけでなく「楽しめる」ように作られています。
 「遠野市立博物館」では、『遠野物語』にまつわる展示をはじめ、遠野市の歴史や民俗を展示しています。シアターでは、『水木しげるの遠野物語』のアニメーション映画なども見ることができます。
 市立博物館を出て目の前には、「とおの物語の館」があります。これは、柳田も宿泊した高善旅館をもとにした展示施設で、遠野の昔話を中心とした展示を行っています。また柳田が晩年を過した隠居宅も成城から移築され、内部を見学することができます。
 遠野の中心地を少し離れると、「カッパ淵」の向かいに、「佐々木喜善記念館」を有する「伝承園」があります。園内には膨大な数のオシラサマが展示された御蚕神堂(オシラ堂)があり、遠野の観光案内で目にしたことがあるかもしれません。
 さらに附馬牛(つきもうし)町の方面へと進むと、たくさんの移築民家で構成された「遠野ふるさと村」もあります。中には曲り家(まがりや:馬屋と家がつながりLの字に曲がったつくりの家)で馬が飼われていたり、季節の行事が行われていたりと、遠野の風景を楽しむことができます。

 観光地には、こういった博物館がたくさんあり、その土地のことをもっと知るために楽しみながら学べます。時間つぶしや雨宿りにぶらぶら見学するのもよいですが、せっかくですから、その土地の歴史や文化の凝縮した博物館を堪能してみてください。

 なお、柳田國男に関係する博物館としては、遠野の他にも、柳田の生誕地兵庫県福崎町の「福崎町立柳田國男・松岡家記念館」や、柳田の成城の自宅を移築した「柳田國男館」のある「飯田市美術博物館」、柳田が幼少期を過ごした茨城県北利根町布川の「柳田國男記念公苑」などもあります。

博物館に行こう(日常編)

 さて、博物館に行くハードルがだいぶ下がったのではないでしょうか。つぎに、民俗学を勉強していく中での、博物館の楽しみ方を紹介したいと思います。

 博物館展示は、いつでも見ることのできる「常設展示」と、期間限定の「企画展示」「特別展示」などがあります。企画展はどの博物館も力を入れていて、季節に合ったテーマや、○○100周年といった記念展示、最新の研究成果に基づいた成果発表など、貴重な資料が一堂に会する機会になります。
 民俗展示では、民俗文化財の登録記念展示や、夏の妖怪展、新年の干支などを題材にした企画展などが良く行われています。

 上野の国立博物館などの企画展は、電車の中づり広告などでも良くみられますし、テレビで取り上げられる機会も多いので、気になったことがある方もいるのではないでしょうか。
 しかしながら、県立・市立博物館レベルの企画展だと、そこまで大々的に広報されることはあまり多くないので、どんな企画展が開催されているのかは、こちらから調べないと分からないこともあります。
 そういった時はインターネットの出番ですが、とりあえず博物館に行ってみるという手もあります。博物館の広報コーナーには、これから行われる全国各地の企画展のポスターやチラシ、同じ分野の博物館の案内やイベント情報などがたくさん用意されています。映画館の新作ポスターのようなものです。博物館を見学した帰りに、今度はどの展示を見に行こうなどと立ち寄るのも楽しみの一つです。
 地方の博物館のポスターなどもあるので、旅行計画に発展したりするかもしれません。

 企画展は、日本中の複数の博物館をめぐる巡回展もありますが、ほとんどがその時一回きりで、同じ展示が二度行われることは、まずありません。一期一会の機会ですので、興味のある展示を見つけたら、迷わず行くのが吉です。

 企画展に対して、いつ行っても同じ展示が見られるものを常設展といいます。常設展は各博物館の核といえる展示で、歴史系博物館であれば、その地域の歴史や民俗に特化した資料が展示されています。
 どこかの地域に調査に入ろうと思ったら、予備調査として、その地域の博物館・郷土資料館を一度訪れておくと良いでしょう(その際は、地域の図書館の、郷土資料のコーナーも併せて足を運びましょう)。

 日本で最も大きな民俗展示を持つ博物館が、千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館(通称:歴博)です。民俗学を学んでみたい方はぜひ一度訪れてみてください。
 なお、大阪府吹田市の万博公園内にある国立民族学博物館は、世界中の様々な民族を対象とした民族学・文化人類学の博物館ですので、行く前に、民俗と民族、どちらの展示を見たいのか、しっかり区別しておきましょう。
 歴博は、東京から少し離れた立地にあるので、都内在住の人にとっても、休日の小旅行気分が味わえます。ただし、展示されている資料は膨大で、考古(先史)、古代、中世、近世、民俗、近代、現代、と時代毎に何部屋も用意されています。
 丁寧に見ていくと、とても一日ですべてを回ることは出来ませんので、見たいコーナーをしぼって見学するのがおススメです。私も、いつも考古からゆっくり見ていって、肝心の民俗展示が駆け足になってしまい、何度も後悔しています。

展示に慣れたらもう一歩上へ

 博物館では展示以外にも、様々な催し物が開催されています。
 企画展では、担当学芸員によって展示解説が行われることも多いので、解説の日に合わせて見学に行くことで、一歩進んだ鑑賞をすることができます。
 歴博では「歴博講演会」という催しも行われています。これは、研究者による最新の研究成果などの講演会で、研究者でなくても参加することができます。こういった講演会や講座も、博物館の活動の一つです。
 またそれぞれの博物館で市民参加の研究会なども行われています。例えば、「古文書を読む会」や「史跡巡りの会」といった勉強会や、「民俗調査の会」などを行っている博物館もあります。こういった会の活動では、博物館のバックヤードに入る機会もあるかもしれません。博物館によっては「市民が調べた歴史展」のような形で、実際に展示に携わるなんてこともあったりするかもしれませんよ。

 本で読む学習に対して、実際の資料を見て、触れながら学べるのが、博物館の最も良い点です。学校の授業や読書だけでなく、本物に触れながら学習していただけたら、より深い学びに繋がるのではないでしょうか。
 ぜひ、博物館を活用してみてください。

※今回紹介した博物館の活動は、すべて「平常時」のものです。現在の活動内容は、各博物館にご確認ください。


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