伯井誠司

国始事の作者

伯井誠司

国始事の作者

最近の記事

  • 固定された記事

新刊予告

 今年、思潮社から叙事詩『国始事』を刊行します。天地開闢から神武天皇即位までの日本の建国神話を描く五部構成の長編詩で、一応、日本文学史上初の叙事詩です。神名を引くことのできる索引も付いているので、気になる神の名前を探れば、その神が出てくる部分を簡単に見つけることができます。日本の神話に興味のある方はぜひ読んでみてください。  刊行の日付などはまだ未定なので、とりあえず今は予告として以下に目次のみ掲載します。 刊行が近づきましたら、また改めて詳細をお知らせします。 国始事目次

    • 日本語をさらに日本語に訳す

       Virtueを英和辞典で引くと、「徳」という訳語が出てくる。全く誤訳ではない。しかしこの〝トク〟という音読みの言葉はもともと中国からの外来語なので、訳そうと思えばさらにもう一段階訳せるのである。  「トク」という漢語は「うつくしび」いう和語に訳せるのだ。「うつくしび」は「うつくしぶ」の動名詞化で、要は「いつくしみ」の類語である。つまり、すでに日本語として定着している単語でも、もとが漢語がならばさらに音読みから訓読みにほどくことができるということなのだ。  そう考えて改めて

      • 文語の明晰さ(文語)

         文語といへばわかりづらきものといふが大方の見方なれども、それまことにやと疑はるゝことあり。源氏物語の読みにくきは紫式部の文体が問題にて、文語の文法そのものをよく見れば現代語より精密に出で来たるところも多し。  例へば、仮定法につきて考へてみん。英語にて”If I get rich, I will buy a mansion,” ”If I were rich, I would buy a mansion,” ”If I had been rich, I would hav

        • 新字体の方が旧字体よりも伝統に則しているという話

           ときおり、保守派の論客みたいな人々が「新字体は駄目だ」とぼやくのを耳にします。曰く、本字にはそれぞれの部位に深い意味が込められているのに、新字体ではそれが省略されてしまっているから駄目なのだという。そういう人々はだいたい現代仮名遣いに対しても批判的で、「戦後に新字体と新仮名遣いになってから日本語は駄目になった」というような愚痴を、時にはわざわざかういう風に舊字體と舊假名遣ひを用ゐて書いたりしてゐるやうです。  しかしながら、これは全く馬鹿馬鹿しい主張です。なぜなら画数の少な

        • 固定された記事

          枕草子と日本のインターネット

           日本のインターネットを見ると、人々の言葉遣いがあまりにも汚さすぎて絶望感に襲われることがある。しかもその言葉の汚さはインターネットの片隅だけに留まらず、いつしか他のメディアの中にも侵入して、今や日本文化の隅々にまで浸透してしまっているようにさえ感じられるのだ。この間など、そんな腐り切った日本文化の現状を忘れようと思って古い日本美術を見に美術館へ行ったら、森狙仙の描いた猿の絵の解説に「もふもふとした毛の描き方が見事である」などと書いてあり、もうどこにも逃げ場など無いのだと改め

          枕草子と日本のインターネット

          POST INTERRETE

          Solebam vesperi videre lumina urbis meæ et cogitare de vita sub quoque lumine longinquo et surdo nente historiam suam in secreto. Solans sententia erat: erant ibi tot herœs audaces sed incogniti, tot amantes dulces, grassatores leves, sanc

          一方井亜稀さんへの返答

           2022年に『ソネット集 附 訳詩集』という本を思潮社から出した時、詩手帖年鑑の新鋭展望のところに一方井亜稀さんが短評を書いてくださいました。『ソネット集』は古典主義的な文語定型詩を集めた本なのですが、一方井さんはそれを「ソネットが途切れた時代からの現代への接続」の試みと解釈されたようで、「ひとつ気になるのは、断絶された間にある戦争という大きな分岐点をどう捉えるかということである。あくまでも戦前から戦後への接続という視点で見る場合のことだが、この前後で何が断絶されなかったの

          一方井亜稀さんへの返答

          詩とは何か(単純で確実な答え)

          「詩とは何か」という問いが、あたかも永遠に答えの出ない神秘であるかのように扱われているのは全く馬鹿馬鹿しいことです。なぜなら、それには完全に正しく、単純で確実な回答があるからです。それは「詩とは韻文の芸術である」という回答です。  では韻文とは何でしょうか。光を定義するのに影と対比させるとわかりやすいように、韻文という言葉を定義する際にもその対義語を出すとわかりやすいかもしれません。「韻文」の対義語は「散文」です。  では韻文と散文を分けるものは一体何でしょうか。それは韻律で

          詩とは何か(単純で確実な答え)

          Postcollegiate Identity Diffusion

          So ended our story: the villain fled, The treasure not found, our hideout destroyed, The contracts made formally null and void, The miracle just a lie, our dog dead. We ran, we cried, we worked hard, and we fought, But for what? "At least,

          Postcollegiate Identity Diffusion

          ソネット集のカバーについて

           拙著『ソネット集 附 訳詩集』は箔押しのクロス装に薄い紙のカバーが掛けられた形で販売されておりますが、この紙のカバーは流通の都合上仕方なく掛けられているものであり、カバー無しの状態が著者の本来意図する形となっておりますので、ご購入された方はどうぞ薄紙を破棄し、カバー無しの状態でお楽しみください。また中古でご購入されて商品にカバーが付いていなかった場合も、その状態こそが著者の本来の意図ですので、どうかカバーの欠失によって何かしら価値が損なわれたのではないかなどとご心配なさらぬ

          ソネット集のカバーについて

          掲載情報など(随時更新)

          2024/5 イギリスの翻訳専門詩誌Modern Poetry in Translationの2024年1号”Care”特集に、伯井訳による式子内親王の短歌二首が掲載されました。 https://modernpoetryintranslation.com/magazine/bearing-the-burden-of-sameness-focus-on-care/ 2023/11 スタンフォード大学の文芸誌MantisのIssue 21に、山上憶良の『男子名は古日に恋ひたる歌

          掲載情報など(随時更新)