或る恋の話 第4話【月明かりの下】
よろしくね、と
そういったあなたの声は、
私を包んで宙に浮かんでいった。
風に流れる雲のような私にとって
サイダーのあなたは目印になった。
私が迷子にならないように
私の心が沈まないように
あなたはいつも私の少し前を歩いていた。
電話するときの指先、
伸びをしたときの背中、
サイダーを飲むときの唇。
私があなたで満たされていく。
どうでも良かった明日のことは、
あなたのために使いたいと思った。
炭酸水にふたりして飛び込んで
泡と一緒に溶けちゃえばいいのに。
無責任な言葉に絆された心は、
無責任な想いを募らせて滲んだ。
明日はどんな色の服を着よう。
次の休みに髪を染めてみようかな。
お風呂上がりに夜風が心地良い。
冷蔵庫を開けて私が取り出したのは、
あの日のあなたと同じサイダー。
そっと口づけて目を閉じる。
唇から心臓の裏を降りていく炭酸水は、
脳裏に甘い余韻を残しながら、
私を明日へ連れて行く。
ー了ー
#サイダーを飲みながら語りたい煌めく恋愛話
#恋愛小説が好き #だから #ゴールデンウィークにやってみた
#恋は叶う前がピークだと思う
#叶った後に愛が育つかどうかが分岐点
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