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思い込みは怖い話

 その先輩が病院に担ぎ込まれたとき、彼はひどい錯乱状態であったそうです。意味不明なことを叫びながら吐いたり震えたりしていたため、只事ではないと思った彼の友人が通報したと聞きました。

 これは私が医学生だった頃に起きた事件です。

 当初は薬物中毒かとも疑われたものの、迅速検査で怪しいものは検出されず、いったいこれはどうしたことかと現場のスタッフも頭を抱えました。しかしながら彼の対応をした熟練の救急医が「この症状は中毒に違いない」と考え、彼の身辺調査が行われました。

 彼の部屋には怪しい草が残されていました。

 うまそうに揚げられた小粒な緑色の天麩羅と、
それを採取してきたであろうビニール袋・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 それはフキノトウによく似たアレでした。

 その名はハシリドコロ。

 強い毒性を有し、食後1〜2時間以内に発症すると、嘔吐や痙攣、幻覚などの症状を呈して、苦しみながら走り出す様子から名付けられた植物です。
 別名をキチガイグサともいうソレは、特に若い芽生えの頃にはフキノトウに似ているため、古来より誤食が後を経たないといいます。

 どうやら一人で山菜取りに出かけた先輩は、嬉々としてハシリドコロを採集して天麩羅にして食したということが判明しました。

 幸いにして、先輩は後遺症なく退院することができましたが、ひとつ間違えば(もう間違えていますが)命にかかわる恐ろしい出来事です。

 厚労省のホームページより、ハシリドコロとフキノトウの比較写真をリンクさせていただきます。


 あんまり似てなくない?間違えないよ!と思った方は、かえって危険かもしれません。野草は図鑑通りの見た目とは限らず、成長度合いや土などの汚れ、明るさなどの環境要因によっても想像以上に印象が変わるものです。
 自分は騙されないと信じている人ほど詐欺の被害に遭いやすいように、先入観や思い込みは非常に危険です。

 自然は恵みを齎しますが、ときに牙を剥きます。

 そんな戒めを思い浮かべながら、私は自宅のプランターに生えてきた青紫蘇が、たしかに青紫蘇であることを確かめます。イラクサやアジサイではないでしょうね。もしイラクサだったら決して素手で触れてはいけませんし、アジサイの葉は有毒です。
 ニラを植えていた家庭菜園にスイセンが混在して食べてしまったという報告もありますから、自宅とて批判的吟味が必要です。

 …でも、山菜って旨いんだよなぁ。

 
 拙文に最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。願わくは、貴方の周りに潜む思い込みが、ほどよく晴れて伸びやかな週末を過ごせますように。


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