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僕という存在について 森にいた頃を思い出した日

僕にとって光とは特別な意味があった。どこまでも共に行こうと約束した存在がいた。しかし、僕は、今、たった一人になった。だけど、僕は、一人でも生きてゆける。そう思えるようになった。そんな一日だった。

「出来る。大丈夫。僕はたった一人でも生きてゆける」と心の中でそう誓った。

それはとても不思議な体験をしたある日のことであった。

その日、僕は、気がつくと、自宅で横になっていたのだった。どこで、どのように過ごしていたのか、まるで覚えていない。確か、僕はどこかで事故にあって、入院したようなことだけは覚えている。だけど、気づくと、確かに、北区の外れにポツンと建っている自宅のソファで横になっていたのだった。退院した後に、誰かが、僕をここまで運んでくれたのだろうか?

まあ、いい。確かなことはそれまで苦しめられていた症状が綺麗サッパリと消え去っていることだった。不安や、鬱や、自律神経系のあらゆる体の症状。まるで、神が眠っている間に僕を治してここまで送り届けてくれたかのようだった。自然に安らかな眠りが訪れていた。僕はその日とても深く眠りに入った。

気づくと、僕は、森の中にいたのだった。誰かが、どこかで、僕を呼んでいる気がした。だけど、どこからも声は聴こえなかった。

静かだった。まるで、別世界にいるみたいだ。

自然に僕は歩き出していた。潜在意識が無意識に体を動かすかのように、体が、自分の意志とは無関係に動き出す。そして、僕は、森の中で過ごしながら、子供の頃のことを思い出していた。

(そういえば、あの頃、僕は森の中によく居たんだった)

記憶が少しずつ蘇ってきた。子供の頃、近くの森でよくキャンプをしていた頃のことを。

「僕は森の中で生きてゆこう。そんな人間なんだ」とあれから何十年も経った今、ようやく思い出すことができた。

(今日のことは忘れない。例え、これからどんな日が来たとしても)

心の中でそう誓った。誰に誓ったのかは分からなかった。だけど一人になった今、僕は確かに誰かと約束した。もしかしたら、それは神のような存在だったのかもしれない。

(この不思議な現象は確実に何らかの意志が作用している。だから、それは神と呼んでも間違いではないだろう)

ある本で読んだのだが、僕らのDNAには古代人としての記憶も、確かに、受け継がれているらしい。だとしたら、それは僕の中にも根付いているはずだ。

(そうなんだ。僕らは遥か昔こんな風に生きていたんだね)

なんだか無性に焚き火を起こしたくなった。何十年も前のことなのに、よく覚えているものだと、自分でも感心する。自然に木を集め、細かい木の枝から順に火を点け始めていた。

昔、こんな風にキャンプで過ごしていたんだっけ?それと比べて今の自分はどうなんだろう?と少しだけ落ち込んでしまった。本当に僕はこれで良かったんだろうか、と。

(まあ、いいさ。これから時間はいくらでもある。ゆっくり取り戻してゆこう)

そして、僕は森の中を心ゆくままに満喫していた。川を発見し、花を見つけ、蛇の抜け殻を見つけて、昔好きだった昆虫のことを思い出していた。とても大切な記憶だった。どうして今まで忘れていたんだろう?すっかり森から遠のいてしまっていたね。

そして、僕は樹木たちの癒やしの力を全身に感じ取った。

(ああ、これが回復するってことなんだね)

一日、だけど、何十年もの時を過ごしたかのような、一つの体験だった。







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