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森の住人3

鹿が川の水を飲んでいる場面に遭遇した。今日はキャンプ場から森へ入って真っ直ぐ進んだ先にある、小川に行ってみることにした。いつもは反対側の人工的に手入れされた庭の方に行くことが多いのだが、今日は野生を感じてみたかったから。そこで計らずも、鹿と対面できるとは僥倖だった。

僕は鹿を驚かさないよう細心の注意を払いながら、鹿が水を飲む様子を観察していた。しばらく眺めていたが退屈になり、もうちょっと近づいてみるかと、足を踏み進めてみた。やはり、靴が落ち葉を踏む、多少の音がしてしまう。そして鹿の耳はその小さな音を聞き逃さない。びっくりした目でこちらを見ていた。僕が更に近づくと、ゆっくりと逃げていった。まあ、仕方ない。鹿には悪いが、充分飲んだようだし、構わないだろう。それから、あの女の人が言っていた釣り場まで行ってみることにした。

上流の方に行くと、徐々に釣りをしている人達が目につくようになる。通り過ぎながらバケツを見ると、結構釣れているようだ。そういや、あの女性、今日は会わなかったな。テントが張ってあったからまだこの地のどこかにはいるようだけど。

開けた場所にでた。ここにもキャンプ場開発の手が伸びていたのか、池のようになっていて、大勢の人が釣りをしていた。僕は水筒から水を飲んで、その場所でしばし休憩した。鳥の鳴き声が聞こえる。釣りをしている人は皆静かだ。僕もあの人に教わって釣りをやってみようかな。大変そうだからやめておいたほうがいいのかな。という逡巡が頭を巡った。とりあえずそろそろ戻ることにした。お昼ご飯の時間だったので。

「あ、陽さん」

帰ってくると、お隣さんが、魚のうろこをはがしていた。

「こんにちわ。お昼を作っているんですか?」

「ええ。魚のスープでも作ろうかと思って。一緒にどうですか?」

「それじゃ、ご相伴にあずかろうかな」

お姉さんが灰汁を取っている間に僕は野菜を切っていた。青空の下で二人で料理を作る。こういうのも結構いいなと思った。それにしても僕はどんな場所でも作業できる職業をしているけど、この女性はいつまでこのキャンプ場にいるつもりなんだろうか。帰らなくていいのかな。

食事を終えると、お姉さんは森の方に向かって歩いて行った。一人担った僕は、レジャーシートを敷いて、ごろりと寝転がりながら本を読んでいた。




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