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大正時代、豊かで美しい日本の暮らし。

 大正時代に建てられた屋敷で生まれ育った。 そこには『表』と『奥』があった。

 『表』とは、家長と客人のためのスペースのこと。 道路と庭に面した場所に、玄関・応接・座敷・縁側・便所などがあり、主に接客に使われた。 いい木材が使われ、所どころ装飾的な部分があった。(大正時代は、国産の材料や技術が最高だった。) 座敷の手前に廊下があり、あえて動線を長くすることで、期待感を高める演出までされていた。

 『奥』とは、家長以外の家人のためのスペースのこと。 敷地の奥の方に、勝手口・台所・納戸・多目的な部屋などがあり、日常生活に使われた。 質素な造りで、薄暗かったが静かだった。 すべての部屋が一続きで、襖(ふすま)などで仕切られているだけなので、すこぶる機能的だった。

 一言で表せば「家長を中心とする封建的な暮らしのための家」 封建的という言葉にネガティブな印象を持つかもしれないが、統制の取れた規律正しい暮らしは、凛とした空間と相まって、むしろ心地よいものだった。

 既にこの屋敷は取り壊され存在しないが、今でも玄関と勝手口を使い分け、身の回りのものをまめに整理し、心地よい暮らしが続くよう努めている。 大正時代に建てられた屋敷で生まれ育った経験が、今も活かされている。

14/6/2018

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