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宮田笙子、がんばれ

7月19日の報道によれば、パリ五輪日本代表主将の宮田笙子さん(19歳)は、情報提供=密告によって、喫煙と飲酒が発覚し、五輪出場を辞退することになった。


宮田さんへ


日本一のあなたのことだから、メンタルは強いと思うけど、それでも誰だって弱気になることはあるし、お節介かもしれないけれど、「あんまり自分を責めすぎないように」とだけは言っておきます。


原理的に考える


確認しておきたいのは次のことです。
ルールは人間のためにあるのであって、人間がルールのためにあるのではない。」ルールは人間を活かすための道具にすぎません。その点を勘違いしてはいけません。

「悪法でも、法は法」という考え方は間違えています。
悪法は破ってもよいのです。
1789年7月14日、バスティーユ牢獄を攻撃した民衆は、たしかに法を破りました。当時、国王に楯突くことは、法的に許されていませんでしたから。
しかし人間の自由を抑圧する牢獄を落としたからこそ、フランス革命は起こりえたのです。
自由平等友愛の精神に基づく人権宣言が発布され、それは200年後まで全人類共通の遺産として、世界のあちらこちらで支持されています。
もちろんそれを敵視する国もあります。中国です。ロシアです。権威主義国家です。独裁国家です。


国家と社会


そもそも「未成年の喫煙・飲酒は犯罪です」という物言いは短絡的です。
たしかに国家はどこかに成年と未成年の境界を設けなければなりません。
たまたま日本ではそれを20歳と定めている。
しかしそれは都合として、どこかに定めなければならないから定めているに過ぎません。科学的根拠はありません。
ところで国家がある定めを設けているからといって、社会がそれを厳守しなければならない理由はありません。19歳の喫煙・飲酒と10歳のそれとでは、意味が違います。必然的に発生するグレーゾーンに関しては、社会が柔軟性をもって「成熟した大人の」対応をしてあげれば良いだけのことです。


禁欲主義・精神主義を疑問視する


喫煙・飲酒禁止は、日本体操協会の行動規範でもありました。
しかしこの日本体操協会のルールは、統一教会のルール、あるいは日本共産党のルールと同じで、公序良俗に反しますし、妥当性がありません。

もしも喫煙・飲酒禁止こそが勝利につながると考えるならば、まさに宮田笙子さんのおかげで、喫煙・飲酒をしても優秀な成績を出すことは可能だと証明されたわけです。従ってこのルールは非合理的です。

またもしも喫煙・飲酒は不健康だから、心身ともに健康であるべき体操選手はすべきではないと考えるならば、それは全世界の不健康な人間たちの人権を否定する、まさにその意味で公序良俗に反する、著しく錯乱した思想と言わざるを得ません。
日本体操協会の禁欲主義は、太平洋戦争時の大日本帝国陸軍の精神主義に似ています。おそらく同じ根を持つものでしょう。いつの世でも権威主義者は、健康という観念を用いて、人間たちを支配しようとするのです。しかし「完全な健康」は存在しません。


密告者のかたへ


あなたはルールをなによりも大事にして、人間を傷つけました。
あなたはルールが間違えているかどうか、考えることはないのでしょう。
また自分の、密告という行為を省みることもないのでしょう。
そういう、考えたり反省したり悩んだりするといった人間的な営みからは、遠いところにいらっしゃるのでしょうね。

密告者ということで、キリスト者である私が想起するのは、ユダです。
ユダの最期をご存知ですか。憐れな最期を迎えます。

私はあなたを憐れに思います。
これからも宮田さんにドンマイと声をかける人間は、私だけではなく、たくさん彼女の前に現れるでしょうが、しかし、密告をしたあなたを褒めたり励ましたりしてくれる「人間」はどれだけいるのでしょう。

たとえあなたが個人的に宮田さんに対してなんらかの否定的な感情を抱いていたとしても、その感情の落としどころは、背後から匕首で突き刺すような卑劣な密告であって良かったのでしょうか。それこそスポーツマンシップに反すると私は思います。

組織を敵にまわして内部告発をする勇気あるひとと、個人を貶め傷つける卑劣な密告者は、違います。私は前者を尊敬しますが、後者を軽蔑します。

もちろん私は全知全能ではありません。もしかしたら密告者のあなたも、家に帰れば年下のひとから慕われ、年上のひとから頼もしく思われているのかもしれません。しかし私が小さな新聞記事から判断する限り、以上のように思ったというだけのことです。

しばしば現代の日本は、生きづらい社会だと言われます。
私自身、生きづらいなあと苦しみながら生きています。
私はそのような生きづらさの原因が、無知であり、社会の包容力の減退であり、権威主義の浸透であり、密告や監視の増加だと思うのです。

さようなら。

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