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ゴールデンカムイ聖地巡礼

ウポポイ民族共生象徴空間(白老郡)

8月31日、新千歳空港到着。
土砂降りのなか、2020年にオープンした「ウポポイ民族共生象徴空間」を訪れた。
付属施設の国立アイヌ民族博物館の説明文は、「ロッカー室」の表記なども、すべてアイヌ語だ。第一言語はアイヌ語、第二言語は日本語、それから英語が続く。
ところがアイヌは無文字社会だったので、アイヌ語の表記にはカタカナを使っている。

無文字社会は当然のことながら文化の継承と発展において弱い。
そして弱いものを守るにはコストがかかる。ウポポイ民族共生象徴空間には総工事費200億円が必要だったし、入場料は千円以上する。

未来は分からない。もしかしたら明るいのかもしれない。
博物館ではイタリア料理のシェフがアイヌ料理のレストランに挑戦している事例とか、世界の他の諸少数民族とのコラボとかが紹介されていた。
特殊文化の持続的成長のためには異文化との交流が突破口になると主張したいようだ。

北海道博物館(札幌市)

翌日、北海道博物館(2015年開館)を訪れた。
120万年前から現代に至る「北海道らしさ」を扱っている。

最も印象に残ったのは20世紀前半のコーナーだった。
大抵の博物館はこの時期を「戦争へのあゆみ」とひとことで片付けてしまう。
しかし北海道博物館では、小樽高等商業学校での軍事教練反対運動(1925年)や、小樽育ちのプロレタリア文学作家である小林多喜二の特別高等警察による拷問死(1933年)などを、ちゃんと扱っている。
つまり「戦争へのあゆみ」の対岸に、「反戦へのあゆみ」が存在したことをちゃんと明示する。
かくして見学者は「戦争へのあゆみ」を不可逆的な奔流としてではなく、諸選択肢のひとつではなかったかと思うことができる。

ちなみに北海道博物館に隣接する「開拓100年記念塔」(1970年落成)は、この秋、取り壊されるらしい。高額の維持費が原因だそうだ。

北鎮記念館(陸上自衛隊旭川駐屯地)

札幌から約150km。旭川。
漫画『ゴールデンカムイ』で有名な旧陸軍第7師団が駐屯し、かつては軍都と呼ばれた。現在は陸上自衛隊第2師団が置かれている。
9月2日、陸自の駐屯地内にある北鎮記念館を訪問した。館長さんは現役の自衛官だ。

驚いたのは、海上自衛隊の施設(鹿屋航空基地史料館など)との違いである。
海自は大日本帝国時代との連続性を大事にしており、旧海軍のシーマンシップの伝統を尊重した精神教育(3S精神など)をおこなっている。

しかし陸自は旧陸軍の伝統と断絶している。
この北鎮記念館も、そもそもの始まりは精神教育でもなんでもなかった。
1960年代のとある日、旭川の一老人がお亡くなりになった。遺族は遺品の中にコサックの軍刀を見つけた。おそらくおじいちゃんが日露戦争でコサックから分捕ってきたものであった。遺族は、無届で持っていたら銃刀法違反になってしまうのではないかと、その軍刀を旭川の警察に持っていった。持ち込まれた警察は扱いに困ってしまい、近くの自衛隊に持っていった。これが北鎮記念館創設のきっかけとなった。

その後、市民が記念館に寄贈した品々は一万点以上。
こんにちでは屯田兵関連、旧陸軍第7師団関連、現陸自第2師団関連の展示が行なわれている。
ちなみに維持のための予算はゼロ。専門の学芸員もゼロ。入場料もゼロ。

しかしすごい人気であった。
『ゴールデンカムイ』フィーバーである。
男性同性愛を想起させる場面が多い漫画だからだろうか、僕が記念館を訪れたときは、おおぜいの女子が見学に来ていた。
「きゃああ、○○さんの軍服だあ!」そんな黄色い声が館内に響く。
売店のお姉さんもノリノリで、様々な商品を説明するのを楽しんでいらっしゃった。

もしかしたらこれもパブリックヒストリーのひとつのかたちなのかもしれない。

屯田兵とはなんぞや

けれども、今回、他にも北海道の様々な博物館(旭川兵村記念館など)を見学したが、結局、最後までよく分からなかったのが屯田兵である。

屯田兵とは、明治政府が北海道の開拓と警備のために創設した、農作業にあたる軍人で、当初は士族の「転職先」としての意味も持っていた。西南戦争で動員され、また日露戦争でも希望者は第7師団に編入された。

しかし屯田兵制度創設当初の仮想敵は誰だったのか。
①     アイヌか。
しかし植民者がアイヌの襲撃でどれだけの被害を被ったというのだろう。
②     ロシアか。
ロシアならば、何故、屯田兵をもっと沿岸地帯に配備しなかったのか。砦や要塞も作られていない。
③     民衆暴動(一揆)か。
屯田兵は、外敵に対する防衛力というよりは、民衆に対する治安維持を目的とした警察力だったのか。

いずれにせよ兵士=農民の伝統は古代スパルタにも認められるし、近世ではロシアのコサックが有名だ。

志願兵制の屯田兵と、徴兵制の国民軍を比較すれば、また近代国家の隠された側面が見えてくるかもしれない。

旭川空港でラーメンを食しながら、そんなことを考えた。


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