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BSフジLIVEプライムニュースは面白い

掘り下げる

基本、フジは右翼だが、こんにちのように何が左翼で何が右翼か分からなくなってくると、左か右かという番組の主張はちょっと置いておいて、そして道徳の喧伝(平和万歳!ヘイト反対!)や情緒の強制(美しい日本を取り戻せ!)とは別のところで、徹底した議論で時事問題を深く掘り下げるBSフジLIVEプライムニュースのようなテレビ番組がありがたくなる。

反町理さんというキャスター。
反町さんから感じられるのは、海千山千で、人脈がすごそうな、叩き上げの記者、モーレツな勉強家、そんな印象である。
どこをどうとっても、これぞ、ザ・オヤジ的な、良い意味で脂ぎった濃いめのキャラのかたなのだが、その彼が、御自身の主張はできるかぎり抑えて、ゲストの聞き役に徹しようとつとめているところが面白い。

反町さんが考え考えしながら「本当にわからないんですが…」みたいな感じで質問をぶつけるので、ときにはゲストまでもが「実を言うと、この点は私にもよくわからないのだけれど…」みたいな話をなさる。
視聴者としては、一緒に考えることができているようで、面白い。
上から目線で何もかもわかりきったようにサラサラと解説して、道徳的なお説教で最後を締めくくる「専門家」は、どうも、僕としては苦手である。

番組ではしばしば安全保障がテーマとなる。
ゲストの大半がオヤジなので(元自衛隊のお偉いさんとか)、基本、現実主義路線で議論を展開していこうとする。つまり基本、パワー・ポリティクスであり、基本、弱肉強食の世界観である。基本、「頭のなか、お花畑」みたいな意見は出てこない。
しかしそのように現実主義路線で話を進めていっても、どうしても「人道上の問題」を考慮に入れなければならない場面がある。話がそこに行ってしまうときがある。
そのときのテレビ画面に映るオヤジたちの顔がいい。
「できれば避けて通りたかったのだけれども」みたいな顔をする。
ホンネが出なければよいのだがと、ちょっとおびえたような、てれくさそうな、恥じ入るような、「やれやれ」といった感じの困り顔である。
あたかも二号さんに泣かれたときの旦那さんのそれのような。
面白い。

ガルージンさん

先日(11月4日)は駐日ロシア大使のガルージンさんが御出演なさった。生出演であった。
このガルージンさんとおっしゃるかたが、これまたなんとも、煮ても焼いても食えない、オヤジであった。

日本の大学の先生(国際政治専門)のロシア批判に対し、ガルージンさんはときに話をはぐらかし(例えばロシアの対ウクライナ政策を、西側の対コソボ政策を参照して正当化したり)、ときに「迷解答珍解答」でもって(例えば「ブチャの虐殺はウクライナの自作自演だ」と主張したりして)、応じられた。もちろんどれだけの視聴者がガルージンさんのお話しを鵜呑みにしたかは別である。ただガルージンさんは常に紳士的な態度で、大学の先生が真っ直ぐに突いた剣をかわされていらした。ある意味、防御に徹していらした。この点がすごいと思うのだ。彼だけの能力があれば、日本を批判することだってできたはずである。しかし敢えて礼儀正しく、それをしなかった(アメリカのことはボロクソ批判していたけれど)。そこに意味を見出すべきなのかもしれない。

またガルージンさんは、反町さんのロシアによる核兵器使用の可能性に関する質問に対して、その可能性はまったくない、と言明なさった。
―核兵器は悪いもの。アメリカが使う。ロシアは使わない。
と、いけしゃあしゃあと、正義の味方を気取るのだから、僕は絶句してしまった。
たしかに、未来のことだし、現段階で正義を唱道しても何の問題もないのだし、もしも未来においてロシアが核を使ったとしても、「あれは想定外のことでした。まさか西側があのような卑劣なことをするとは予想していなかったのです」としらばっくれればよいのだから。

このような問答を聞きながら、あらためて思った。
ガルージンさんは徹頭徹尾、超一流の外交官なのだと。
彼はロシアの政策を説明するために、ここにいるのだ。
どんなに「痛い」質問にも、ロシアは常に正しいと言い続けなければならない。
その立場を貫き通すことができる、芸術家のような才能に、僅かな皮肉もまじえることなく、賛辞をおくるべきなのだろう。(もしかしたらガルージンさんは心底、祖国ロシアを愛しておられるのかもしれない。もしもそうだとしたらロシアはなんと幸せな国なのだろう。)

番組の最後に、反町さんは、大使の職を去って離日するガルージンさんに、長いことお疲れさまでしたと拍手をした。
日本のオヤジからロシアのオヤジへの、「敵ながらあっぱれ」という敬意を込めた拍手に聞こえた。

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