短編小説「薔薇の棘と傷」
貴女は全て忘れてしまったのか。
それとも覚えていて何も言わないのか。
少なくとも、僕の中ではまだ終わってない。
終わらせることができていないんだ。
始まりは確か、大学に入って2ヶ月くらい経った頃だったろうか。
学校の授業が終わり、友人と帰路につく午後。
蝉の声が耳に入るようになった、夏の始まりを感じる日だった。
暖かさから暑さに変わりゆく日差しを受けながら、緩やかでありながらも長く続く坂をくだらない話を交わしながら下る。
その間、同じくらいの年齢の人と何度もすれ違う。
同じ大学生だろうか。
これから学校に行くのは大変だろう。
そんなことを考えつつ、足を動かす。
またひと組。
そう思った瞬間、その中の1人の顔が僕の記憶にある人物と一致した。
相手も同じことを思ったのだろう。
挨拶をする僕に、笑顔で手を振り返してくる。
おそらく、元々彼女のもつ何かが僕の中で引っかかっていたのかもしれない。
そしてたった今、僕の視界に映った笑顔。
それぞれのピースが混ざり合い、僕の中に新たな感情を生み出した。
僕は、彼女に恋をしたんだ。
それから僕は1度、彼女にアプローチを仕掛けた。
しかし、その時はもう既に付き合っている相手がいると、彼女の口から告げられた。
それで忘れられたら1番良かったのかもしれない。
叶わないと知りながらも消すことができない感情は時々僕の中で暴れだし、自分では癒やすことのできない悲しみを生んだ。
それから1年。
彼女が付き合っていた相手と別れたことを知った。
その時もまだ、僕は彼女を想っていた。
そして僕は勇気を振り絞り、学校で彼女を呼び出して食事に誘った。
「よし、行こう」
彼女がそう言った。
とても嬉しかった。
できれば、貴女が僕にとって愛の言葉を交わす最初の女性であってほしかったし、限りある大事な時間を共有する最後の女性でもあってほしかった。
その第1歩は踏んだ。
そして歩み進めよう。
約束を現実にしたいと、改めて彼女にメッセージを送った。
「忙しいからまた連絡するね」
彼女から届いた返信。
わかりましたと送り返す。
それからどのくらい時間が経っただろう。
どれだけ期待して待っただろう。
彼女から連絡が来ることはなかった。
度々彼女とは学校で顔を合わせていたけれど、直接聞くことは出来なかった。
信じていた、と言えば聞こえは良い。
ただ、現実を見たくなかっただけだったのかもしれない。
事実、途中から薄々わかっていた。
またか、と。
それでも、僕は忘れることができなかった。
「愛ほど歪んだ呪いはない」
何かの本で読んだ。
僕のこの感情が「愛」と呼べるほど、純粋なものかはわからない。
ただ、実際呪われているのかもしれない。
彼女に対する想いが僕の心に楔のように深く突き刺さり、自分の手では到底抜けやしない。
軟派な性格ならどれだけ良かっただろうか。
傷はまだ「傷」のままだ。
この傷がいつか傷跡になって、癒える時は来るのだろうか。
せめてもう一度貴女に会って、貴女の口から僕の未来に貴女がいない事実を聞かせてほしい。
終わらせてほしい。
苦しいんだ。
原案:薔薇の棘と傷
1st Full Album「己の影を歌う者」収録
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