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短編小説「決別」

 電車の窓越しに見える見慣れた風景が、過去になったはずの感情を思い出させる。
 初めて会った日から今まで、何1つ変わらなかった。
「変えられなかった」というのが正しいか。
別れの時が近づいてきている。


 1つ上の彼女に対する憧れを、ただの憧れのまま終わらせたくない。
 そう思い、勇気を出して1歩を踏み出した。
 それに対して彼女は、同じ1歩をこちらに踏み出してくれた。
 大層な物言いだが、わかりやすくいえばただ「食事に誘った」だけだ。
 僕はスマートに、それこそ、女性が憧れる大人びた男性のような立ち居振る舞いはできない。
 2人だけで出かける予定を組むだけでも、相当な勇気がいる。
 最初に学校で声をかけた時は、相手がいるとのことだった。
 その日の帰りは電車の中で、大音量の音楽を聴いて悲しみを掻き消そうとした。
 それが2回目の時は良い返事を聞けた。
 喜びをどうにか抑え、冷静に見えるように会話を続けた覚えがある。
 まあ、それでも結果的には関係性に変化は無かったが。

 今日は彼女の卒業式に来ている。
 この学校では、同じ部活の卒業生を在校生が出迎えてお祝いする慣習がある。
 他の学校がどうかは知らないが。
 式が終わる時間まで、食堂で同じ部活の部員達と世間話をしながら待つ。
 1時間くらい経った頃、他の部活の部員達が徐々に外に向かう。
 式が終わったようだ。
 僕らもその場に向かう。
 校舎の外。
 もう既に何人かの卒業生がこちらへ向かってきている。
 そしてしばらくして、彼女も来た。

 卒業袴を身につけた彼女に、他の在校生達は最後の思い出作りとして写真を頼む。
 僕はその姿を、少し離れた距離から見守るくらいしかできない。
 僕が声をかければ下心があると思われかねないし、今日みたいな晴れ舞台で嫌な思いはさせたくない。
 直接伝えはしないが、装いもあっていつも以上に綺麗だと思う。
 そして、明るい性格がそのまま出たような笑顔は、見ているこちらを魅了する。
 彼女は卒業後、他県の実家に帰ると聞いた。
 きっとこの先、もう二度と会うことはないのだろう。
 会う理由もないし、会いに行く理由なんて作れやしない。
 ただせめて、その笑顔がずっと続くようにと、そう願う。
 そして今、貴女と貴女への想いに別れを告げよう。

原案:決別
1st Full Album「己の影を歌う者」収録


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