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最大公約数

最大公約数 探して塞いでる
割り切れるモノなんて無いのに
君の目に写った 僕が手に取った
それとめどない
それだけでいい

わたしは、バスに揺られている。草津温泉からの帰り。隣では、ゆきが眠っている。窓の外に目をやると、雨。雨。雨。
ああ、ずっと雨だったな……。

半袖しか持って行ってなかったもんだから、ずっと寒くて、でもお湯は熱くて。しかも、イヤフォンから流れてくる、お気に入りの音楽は真夏の暑さを称えていて、なんだかチグハグだ。もしかして、夏は終わってしまったのかな、、、。

車窓の草木は湿り気をおびていて、山火事注意の看板が目立っていた。わたしは、ちょっと笑いそうになって、隣を見るけど、ゆきは、起きない。いつか、、、わたしじゃない誰かが、こんなふうに彼女の横顔をみる日が来るんだろうか……。山道をバスはのろりのろりと進んでいく。

歌にのって流れてきた「最大公約数」。久しぶりに、その名前を聞いたような気がする。わたしはゆっくりと目を瞑る。のろりのろり。

こんなわたしでも一応は旧帝に通う一大学生であり、数学は得意だった。最大公約数の問題もたくさん解いた。でも、、、いま頭の中に浮かんだのは、全く別の問題で。

ゆきは、よく好きな数字の話をする。
「わたしは、2が一番好きだから、靴箱は2番で。」
「うーん、2にしよっかなー」
「やったー!2番!」
「2」。
それは彼女が一番好きな数字だ。誕生日とか、出席番号とか、そういうのに由来している、とわたしは勝手に決めつけている。

ゆきとは、小中高ずっと一緒だった。中高一貫校だったから、中高一緒なのは当然として。小学生の時に意気投合してから一緒に中学受験をして両方とも合格した。そうして、12年間同じ校舎で学んだのだ。大学こそ違えど、今もこうやってたまに会っている。なんか、ずっと一緒にいるよね。運命の相手みたいなもんだ。

高校時代について、わたしは大学までの通り道、くらいにしか考えていなかった。というのも、中高一貫校で、ほとんど面子が変わらない、っていうのが関係してそうだけど。だから、特別に新しい出会いも求めてはいなかった。高校からの友人て、いるの?腹を割って話せた人は、正直言って、ひとりも、いないのかもしれない。わたしは、曲がりなりにも学級副委員長だったけれど。まあ、それはそれで、良かったんだけどね。高校時代は、部活に生徒会に、学級委員に、ものすごく楽しかった。

一方、ゆきは外進生ともうまく馴染んでいるように見えた。ふざけあったり、なんというか、わたしはそういうのがすごく苦手なんだけど、横腹のつつきあいだとか、そんな感じの距離感。

そこで、ふ、と最大公約数について考える。なにか相談して物事を決めるときで、どうしようもないとき、折衷案、というのがある。ぶっちゃけいうと、わたしは折衷案が苦手だ。話し合って決めたはずなのに、こちらが一方的に我慢してるような、気分になることがある。我ながら面倒な性格だなあ、といつも思いながら、でも決まったことなのでそのようにしている。でも、だんだんと納得してくるのだ。不思議。あ、これで良かったんだ、って。


わたしの好きな数字は2つほどあって、8か16だ。なんでだろう、ちょっと考えてみよう。出席番号は小学3年生から8番だった。あとは、、、?原子の最外殻の電子数は8がいい、とか???多分その辺なんだけど、とにかく8の倍数がすき。そこで、ゆきの好きな数字2、との最大公約数について考える。までもなく、2だ。

「そういうこと?」

ぐわん。バスが大きく左折したところでわたしは目を開く。窓には雨の筋が何本も走っていて、鉄道もこんな路線図だったら、嫌だな、と思う。

世界にある整数のうち、半分が2の倍数だ。
8の倍数はその4分の1で、16の倍数はさらにその2分の1、つまり、2の倍数の8分の1。そりゃ、折衷案に抵抗があるんだな。なんだか、高校時代も然るべき高校時代だったようにも思えてきた。ばかな結論だけど、温泉でのぼせたのかもしれないから、ここは許してほしい。

ゆきは眠り続ける。

いつか、ゆきの眠る姿を別の誰かが、こうして眺めることがあるなら、それはきっとすぐ起こることだ。彼女は、来月、気になる彼とデートする予定なのだ。わたしはその相談に乗っている。うまくいけ!わたしはぐっと握り拳を作る。

そして、わたしもきっといつかは。

窓の外に目をやる。のろりのろり。でも確実にバスは新宿へと進んでゆく。新宿で降りたら、今度は池袋で乗り換えだ。複雑に絡み合う。でも、どこかで交差している。だから、乗り換えることができるのだ。そうして、行きたい場所へ行くのか。

決して完璧な夏ではない。でも。

この二十歳の夏がずっと続けばいいのにな、と思いながら、でもいつかはきっと。素敵な数字の人とこうして草津に来るのかな。

そうであったなら、それは、とても、幸せなことだ。


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