![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/17206645/rectangle_large_type_2_9773a6586bbc8d0ad186d646c59715a8.jpeg?width=800)
モミの木は残った
モスクワもいよいよ、街中がツリーだらけである。
ロシアではクリスマス、正月、ツリーの関係は少々ややこしい。かつてはヨーロッパと同様にクリスマスを祝い、帝政末期にはクリスマスツリーも浸透しつつあった。1917年の革命後は次第にクリスマスを祝うのは憚れるようになり、やがてツリーも負の遺産とされて一旦は姿を消す。しかし1935年の末に急遽、新年を祝う飾りとしてツリーを復活させる事が決定。36年の新年から、役割を新たにして再登場となった。
以後、「新年ツリー」(Новогодняя ёлка)として完全に定着して、現在に至る。
話は少々逸れるが、クレムリンの象徴の1つは、尖塔の頂点を飾る赤い星であろう。もともと、帝政時代のクレムリンの尖塔の頂を飾っていたのは、ロシア帝国の国章である「双頭の鷲」だった。これらクレムリンの「双頭の鷲」が撤去されたのは意外と遅く、1935年の10月である。代わりに4つの尖塔には、槌と鎌のソ連国章をあしらった金属製の☆が掲げられ、ほどなくして現在と同じ、照明付きの赤いガラス製の☆に代わった。
![](https://assets.st-note.com/img/1671847639409-LygF5YLo1Q.jpg?width=800)
帝政時代のツリーの天辺にはベツレヘムの星が飾られていたが、ソ連の新年のツリーには、復活直後から赤い星の装飾が奨励された。クレムリンの尖塔が意識されていたであろう事は想像に難くない。
ソ連のツリー飾りは1960年代半ばまでは手工業製品であり、特徴的なモチーフの面白さから、コレクターの人気は非常に高い。60年代半ば以降は大量生産の時代に入り、デザインも画一化していったため、人気はイマイチらしい。実はこれらソ連中期以降の大量生産品も、独特のデザインが可愛らしく楽しいのだが、本章では(間に合わなかったので)扱わない。
以下、数年前の展示会で撮影した写真に解説を添えてご紹介したい。カメラが不得手で、写真がド下手クソなのはご容赦願いたい。
![画像13](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/17206531/picture_pc_7d1ee18abdd0692bca8cfacbf7bc3bf4.jpg?width=800)
最初期の、ソ連製のツリーオーナメント。装甲車、自動車、トラクター、犬を連れた兵士など、イデオロギー色が強いのが特徴。
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/17206100/picture_pc_f99811c6f76291f344342f575bd31553.jpg?width=800)
飛行船は最初期のもの。その他も30~40年代。飛行船に装甲車に戦車。重武装のツリーである。
![画像3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/17206124/picture_pc_8550d5645597a1aef8e9311fdf0a64b6.jpg?width=800)
とにかく飛行船には、CCCPと書かずにはいられない。
![画像4](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/17206156/picture_pc_c2f3e125aeed01c9e9af0f309a838eac.jpg?width=800)
このあたりは、最初期から60年代初頭までのものが混在しているようだ。ツリーが国章まみれである。
![画像5](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/17206194/picture_pc_ef7fb83a83861d0d01754c1e2abffe76.jpg?width=800)
物資不足の戦時中は、このように電球に彩色する事もあった。意外にもこれがハイセンスで面白い。
なお、戦時中は針金細工のオーナメントが作られたという話も聞いたが、この展示会では、それはもっと昔だと言われた。改めて調べないといかんなあ(と言いつつ、もう数年経っている)。
![画像6](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/17206235/picture_pc_3f75813a7a033caee5c720d298022787.jpg?width=800)
大祖国戦争後は、平穏で豊かな日常への回帰願望が、ツリーオーナメントにもストレートに現れているのが面白いところ。
![画像7](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/17206264/picture_pc_d8aca62715c8bea209d87dbdfab5789d.jpg?width=800)
サモワール、電気スタンド、時計、ティーポットなどの日用品を模したオーナメントが、ミニチュア雑貨のようで実に楽しい。
![画像8](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/17206300/picture_pc_228e4abe7892c0e9c078ec4e9094ee04.jpg?width=800)
![画像9](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/17206308/picture_pc_6f3376ae1cad3d43dd152c133142e788.jpg?width=800)
これらも戦後シリーズ。家や楽器など。
![画像13](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/17206523/picture_pc_8df0c2f7bea9cebe858afe4b1caf2a0a.jpg?width=800)
![画像10](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/17206348/picture_pc_220f5530a29aa961410eb1a96a6fc6a9.jpg?width=800)
戦争直後に登場したオーナメントには、野菜や果物のモチーフもある。これがまた妙にリアルなのだ。平和な生活への切実な願いを感じて欲しい。
…ちょっと思った以上に写真の出来が悪くて心が折れそうだが、もうちっとだけ続くんじゃ。
![画像11](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/17206398/picture_pc_3c4943c0b527e97a849365e27ba2e692.jpg?width=800)
1950~70年代頃のものらしい。まさかの信号機である。カラフルだからオーナメントの素質があるのかもしれない。
![画像12](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/17206483/picture_pc_cca2192c61e61dfa164d0d55429bcf23.jpg?width=800)
単眼にしか見えないウサギが、銃を持っている。おだやかでない。
![画像14](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/17206561/picture_pc_ddb0fe633f4cf87cbff71c7239a71056.jpg?width=800)
ツリーの天辺は、赤い星が定番。
60年代あたりからは、宇宙開発の成果がデザインの世界にも広く影響し、もちろんツリーオーナメントにも、宇宙テーマのブームがやってくる。レトロな形のロケット、宇宙飛行士や惑星の形の飾りは、正にこの時代ならでは。(なぜか手元に写真が無い。手ブレに耐えかね削除したのだろう。)
現在とは一味も二味も違うソ連のツリーオーナメントは、実にバラエティに富んでいる。時代を反映したオーナメントは、単なるノスタルジックなインテリア以上の味わい深い世界なのだ。
関連リンク:
https://togetter.com/li/764824 (雑貨屋Mitteさん)
https://togetter.com/li/760437 (かつてtwitterに投稿したものを、速水螺旋人先生にまとめていただいたもの)
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