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ソ連を知る本5

 これまで特にその旨書いてこなかったが、それぞれの本のタイトルの部分には、版元、書店ないし古書店へのリンクを貼ってあるので、ぜひ参照していただきたい。

モスクワ 木村浩 文藝春秋 1992年

 世界の都市の物語シリーズ第11弾。安野光雅の装幀が美しい。著者は、ロシア文学者の木村浩氏。訳書も多い大御所である。政治学者の木村汎氏とは別人なので、混同しないように!(私はしてた)

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安野光雅はいいぞ!

 1958年に初めて訪ソした著者は、1992年に亡くなるまでソ連・ロシアを訪問し続け、多くの文化人と交流を持った。そんな著者が、ロシア文化の一大拠点たるモスクワを文化文芸の側面から語り尽くす入魂の一冊である。

 モスクワの歴史に始まり、建築、教会、イコン、墓地、クレムリン、市街、食と酒、演劇。インテリゲンチャの感性を育んだ要素をつぶさに解説していく。それらが歴史の中で変遷を経て積み重なり、創造の糧となってきたことが分かる。作家やその親族との交流や、ソ連崩壊に伴う街の風景の変化。1958年当時のアルバート街の描写などは、失われた風景の代表格と言えよう。

 ロシアの文化芸術が、モスクワという街とともに発展していった過程を丁寧になぞる名著だ。


ロシアの女性誌 高柳聡子 群像社 2018年

ユーラシア文庫№9。

 ロシアにおける女性誌の出版は18世紀後半に始まったが、他の多くの国と同じく、それらは女性の啓蒙や、女性の社会的地位の向上、女性の置かれている社会状況の追及といった方向へ発展していく。当然ながら、そこにはロシア・ソ連の社会的背景に裏打ちされた独自色があった。本書は、帝政時代から現在までのロシアにおける女性誌の変遷を追っている。ソ連時代の地下出版誌にまで言及されており、その特殊性がうかがえるのも面白い。


ロシアとユダヤ人 苦悩の歴史と現在 高尾千津子 東洋書店 2014年

ユーラシアブックレット№191。

 帝国時代は世界でも最大級のユダヤ人人口を数えたロシアだが、その後は減少の一途を辿る。その歴史は少なからず迫害や差別・偏見の歴史でもあり、現在でもその残滓は無視できない。一方、自然科学・人文科学の多くの分野で優れた人材を輩出してきており、露系ユダヤ人の誇りとなっている。

 また、ソ連はかつてイスラエル建国を強く後押しし、ソ連/ロシアから移民したロシア系ユダヤ人はイスラエル発展の礎となった。こうした歴史的背景として、ソ連におけるユダヤ人の歴史というテーマを学習するのに役立つ一冊である。


ロシア・アニメ アヴァンギャルドからノルシュテインまで 井上徹   東洋書店 2005年

ユーラシアブックレット№74。

 noteを始めて最初に公開した記事「ソビエト・ロシアのアニメ」を書くにあたり、本書を大いに参考にした。

 20世紀初頭から現在まで、主要な作品を紹介しながら概説。アニメーションも時勢の影響を受けて様々な変遷を経る。ソ連時代の作品についても、その意外なほどに自由で洒脱な作品の数々が言及されている。

 幸い、ソ連のアニメーションは日本でも作品集としてソフト化されている。入手は少々困難を伴いそうだが、もし鑑賞する機会があれば、本書はその際の手引きともなろう。

 惜しむらくは、文中の作品名にロシア語併記が無いことだ。ロシア語で作品を探す際には必要となるであろうから、もし当方にお問い合わせ頂ければ、できる範囲でお答えしようと思う。


子どものモスクワ 松下恭子 岩波新書 1972年

 著者は1967年12月~1970年3月までモスクワに滞在。娘をソ連の幼稚園と小学校に通わせた記録。通院やピオネール・キャンプの様子も描写されている。実は、私は本書を部分的にしか読んでいないので仔細にご紹介できないのだが、育児ブログといった体裁で描写も丁寧なので、当時のモスクワの子育ての模様を窺い知る一助になるかもしれない。


やってくれるね、ロシア人! 不思議ワールドとのつきあい方 亀山哲郎 NHK出版 2009年

 写真家・亀山哲郎氏のソ連・ロシア紀行。本書は1987年の初の訪ソ以降、何度かロシアと旧ソ連諸国を訪れた著者のエッセーをまとめたもの。ソ連要素は半分くらいか?体当たり取材というか、猪突猛進型の著者の体験記。面白エピソードに偏らず、ソロヴェツキー諸島の取材(さすがにソ連崩壊後である)には多くの枚数を割いている。


 以上でこのシリーズはネタ切れ。

 近年、ソ連・東欧のデザインや雑貨に注目が集まることも多い。ソ連崩壊からまもなく30年。従来、暗く陰鬱一辺倒だったイメージにも若干の変化があるのかもしれない。独裁と抑圧、相対的な貧困の中でも、市民には彼らなりの楽しみや生活の喜びもあった。限られた可能性の中で創造も奇想もあった。生活の描写は、イメージを膨らませる一助になるであろう。

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