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第113話 自信を見せるべき時とそうでない時と【夢夢日本二周歌ヒッチ旅 回顧小説】

『GALLIVER』はまだオープンしてそんなに年月は経っていない。1,2年というところだろうか。
 
まだまだ新しい。キラキラしていた。
 
中はウッドテイストで、食事もできるお店であり、ドラムセットとステージがあって、バンドがライブをすることもできる。
 
とてもオシャレでかっこいいお店だった。
 
ただかっこいいだけでなく、音にこだわっているから、だからプロの方もライブをしにくるという。
 
さすが、山崎まさよしさんが演奏されたほどのことがある。
 
そういうすぐれたお店だから、浜野さんはフリーペーパーでこのお店も紹介するという。
 
それでフリーペーパーの仕事でちょくちょく顔を出しているということだ。
 
さて、そんなすごいお店でぼくは歌わせてもらえるのだろうか。
 
浜野さんは店長さんに話を切り出した。
 
「熱い歌うたってるSEGEくんていうバックパッカーと出会って。ちょっと聴いてもらっていいですか。」
 
「へえ。どこから来たの?」
 
「東京からヒッチハイクで日本全国を回っています。」
 
「ステージあるから、今そこで歌ってみてよ。」
 
「いいんですか?ありがとうございます!」
 
ぼくは相当ドキドキしたが、1曲を一生懸命歌い切った。
 
「いいね。今日ライブがあるから前座で歌いなよ。」
 
「え?!いいんですか?!」
 
「20分くらいで、投げ銭とかでどうやろ?」
 
と浜野さんはお店の方に提案してくれた。
 
「SEGEくん20分なら何曲歌える?」
 
「4曲やってすこしオーバーしてしまうかもです。」
 
「そしたら5曲やったらどう?」
 
「いいんですか?そんなに。ライブされる方に悪くないですか?」
 
「たぶん大丈夫だよ。その方が盛り上がるんじゃない?お客さん誰もSEGEくんのこと知らないけどそういうの大丈夫でしょ?」
 
と、お店の方。
 
「はい。慣れてます。全然大丈夫です!」
 
こういうときは自信を表しておいた方がいい。
 
こういう時の返答の仕方一つでも、お店の方が受け取る印象は変って来るし、本番が盛り上がるかどうかも左右することがある。
 
会場を作る人たちに心配や不安を抱かせることは演出に影響する。
 
ぼくが守られる存在になってしまうとぼくの演出は小さくなる。
 
「こいつある程度やれるな」と思ってもらったら、ある程度委ねられて、会場の雰囲気に余裕が生まれる。
 
もちろんはったりをはりすぎて自分の力以上のハードルを作ってしまったら失敗につながる。
 
でもぼくはすでに浜野さんに太鼓判を押してもらっていたから、それがぼくの背中を強く押してくれていた。
 
はったりではなく、実際に持っていた自信に基づいて歌ったし、ぼくは「大丈夫です」答えることができた。
 
そして、実際に1曲聴いてもらって、その上で5曲もやらせてもらえるのだ。
 
これは気に入ってもらったと思っていいだろう。
 
しかも人のライブの前に突然入れてもらえるなんて、なんて良心的なんだろう。
 
いや、良心的というより、お店の人も演者も、心から音楽をするという人達を大切にしているんだなと感じた。
 
ぼくが感じた感覚では、GALLIVERの方々は音楽にとても厳しい方々だ。
 
「いい音楽ではない」と感じたらきっと歌わせてもらえなかったと思う。
 
それだけにぼくは歌わせてもらえたことがうれしく、物おじするどころかそれがさらに自信となって歌うエネルギー全開になっていた。
 
出演者の方がいらっしゃると、店長さんからぼくのことを聞いて快く承諾してくださった。
 
ぼくは丁寧にお礼を述べ、思い切って歌わせてもらった。
 
お客さん達は、席が8割くらい埋まっていたから20人以上はいたと思う。
 
これくらいいるとやりがいがあるし、テンションが上がってくる。
 
日本二周をしているというぼくの話に興味を持ってくれたし、それが呼び水になって歌にもかなり耳を傾けてくれた。
 
投げ銭は12000円いただくことができた。
 
大阪のライブ以来、大きなお金が入っていなかったからぼくはものすごくうれしかった。
 
GALLIVERは家族で経営されているのだが、ライブが終わると店長の息子さんが話しかけてきた。
 
「SEGEくんの歌いいね。特に、『母へ』がいいよ。心のある歌だよね。そういう歌がおれは好きだね。」
 
そうほめてくれた。
 
その息子さんもバンドマンで、各地でライブをしていて、東京でもライブをすることがあるという。
 
そういう方にほめてもらえるというのは最高にうれしかった。
 
それに「母へ」は京都で作った最新の歌だったから、その新曲が通じたこともうれしさを倍増させた。
 
そしてなんと言っても浜野さんに感謝だった。 
 
もしもぼくが一人でGALLIVERに一人で乗り込み、「歌わせてください!」と切り出していたら、はたしてぼくは歌わせてもらえただろうか。
 
少なくとも、その日ライブがあるのにその前座に歌わせてもらえるという可能性はかなり低かったと思う。
 
自信をもって「ぼくは大丈夫です」と言ったところで、「こいつ大丈夫か?」と逆にあやしまれたかもしれない。
 
浜野さんという協力な後ろ盾が信用を作ってくれたし、その浜野さんがライブを提案してくれて、まず1曲歌わせてもらったことでぼくを信用してくれたことにつながったはずだ。
 
「浜野さんありがとうございました!」
 
「これはSEGEくんが自分の歌で勝ち取ったもんやから。」
 
浜野さん、なんてかっこいいんだろう。

つづきはまた来週

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