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第37話 パウロ=コエーリョ作「アルケミスト」との出会い【夢夢日本二周歌ヒッチ旅 回顧小説

中州のお祭りに引き寄せられ、ぼくはそこでヒロミさんと偶然再会した。

(ヒロミさんとやけに偶然会うなあ。なんか縁があるにちがいない。意味があるにちがいない。)

そう思うしかなかった。

偶然出会った旅人ヒロミさんが、会いたかった作家高橋歩さんのところで働いていた人で、そのヒロミさんに、約束をせず、2回も日本を舞台に偶然会えてしまった。

なんだか旅が楽しくなってきた。

ところで、中州にいる歌うたいがたくさんそこには集まっていたようだ。

ヒロミさんはその誰とも知り合いのようで、そこにいた中州の歌うたいたちを次々とぼくに紹介しくれた。

ヒロミさん自身がぼくにとってはビッグな存在だったので、そこで紹介された歌うたいたちもぼくにとってはもはや高嶺の存在だった。

ぼくは硬くなりながらぺこぺこしていた。

そのあと歌うたいたちがいつきさんのアパートに集まって打ち上げ会のようになった。なんとぼくも誘ってくれた。

いつきさんの部屋は4階にあり、同じフロアーにもう一人あいちゃんという歌うたいが住んでいた。普段からみんなしょっちゅう出入りしているみたいで、中州の歌うたいたちはみんな仲がよさそうだ。家族みたいだ。

ビッグな歌うたいたちだと思って硬くなっていたぼくだが、「今度、一緒に歌おう」と誘ってくれたし、彼らはとてもあたたかい人たちで、ぼくはすごくほっとしていた。

でもすごいなと思ったのは、この人たちはこうして安いアパートに住みながらもちょくちょく全国ツアーとかに出かけているようなのだ。

ヒッチハイクや列車を使って全国を回ってはまた戻ってくる。そして少しお金や音源が出来たらまた出ていくというような生活をしているようだ。

だから東京のことも知っているし、全国にあらゆる知り合いがいて、お互いの知り合いがまた知り合いだったりすることなど日常茶飯事。

(ヒロミさんみたいな人が普通にたくさんいるんだなあ。)
と、レベルの違いをあたらめて感じさせられた。

ぼくなどは、旅する歌うたいのひよこに過ぎないのだ。

さて、ぼくは何故かその晩、あいちゃんのアパートに泊まることになった。いつきさんは2人で住んでいるから少しスペースのあるあいちゃんの方に泊まることに自然となった。

このアパートの湯舟は浴槽へ入れるお湯をいったん別のタンクで温めてからそれを浴槽へ流し込むタイプなので、少し時間がかかる。このアパートの古さが分かるだろう。

女の子と2人ということはいろいろ意識してしまうのではないかと思うが、でもあいちゃんはとてもさばさばしていて、年齢も同じくらいなのにぼくらは全く男女の意識を持たなくて済んだ。

あいちゃんは色黒でインド系の顔だちをしていた。少し達観しているような雰囲気もあり、そういう雰囲気もぼくには余計な気遣いをする必要がなく感じられ心地よかった。

でも、当たり前だがこてこての北九州弁をしゃべる。「うち、~だけん」ということばがとても印象深い。それが北九州の女性を魅力的に見せているのも確かだと思う。

広島の「わし~じゃけん」とは大違いだ。女性でも「わし」と言う。

実はあいちゃんはぼくのことも信用してくれていたようだ。後日あいちゃんと再会した時、

「今度ツアーで出かけちゃうから、SEGEくん福岡にいるようだったらここ泊まっていいよ。」
「え?勝手に?」
「うん。特にとられてこまるものもないし、SEGEくんならいいかなと思って。」
「それはありがたいけど。」
「来るときは連絡ちょうだいね。」

あいちゃん、めちゃくちゃ心が広いのだ。

あとあいちゃんはぼくに一冊の本を紹介してくれた。ブラジルの作家、パウロ=コエーリョ作の「アルケミスト」という本だった。

「SEGEくん、『アルケミスト』って本知りよる?」

「いや知らないけど。」

「本の名前なんだけど、うちの友達が『アルケミスト』って唱えると不思議ないいことが起きるって言っていて、うちも最近読んだんだけど。私も唱えらいいことが起きるんよ。」

「え?!すごいね。なんて本だっけ?」

「アルケミスト」

「ちょっとメモしておくね。」

この時は「へえ~」くらいにしか思わなかったが、ぼくの心にはずっと消えずに残っていた。

東京に戻ってからぼくは「アルケミスト」を読み、それ以来パウロ=コエーリョの本を全て読むほどはまってしまった。

今ではこの「アルケミスト」、色々なところでベストセラーとして紹介されている。夢を追いかけ旅をする少年の話だ。

あいちゃんが言うような不思議な力が誰にでも働くかどうかは分からないが、そんなことを知らないで読んでも普通によい、一般的に読みやすいお話だ。

ただし、根底に横たわるのは人間の霊性だ。スピリチュアルという言葉を使えば伝わりやすいだろうか。パウロ=コエーリョは霊性を追及しているので、確かに分かる人にしか分からないような不思議な表現が出てくる。

さらにアルケミスト以外の作品になるとかなりマニアックになってくる。処女作「星の巡礼」はキリスト教における3大巡礼地、スペインのサンチャゴ・デ・コンポステーラをテーマにしている。

なので聖書的な知識があるとより理解が深まる。

霊性を追及したいなら、「アルケミスト」以外の作品もぜひ読んでみてほしい。

パウロ=コエーリョを深く読んでいくと不思議な力が働くということを聞いてもあながち嘘とは思えない。

ぼくは誰かにおすすめの本と言われるとかならずまず「アルケミスト」が頭に浮かぶ。

今の奥さんにはパウロ=コエーリョの本を全てプレゼントしたこともある。

「主人公があなたにそっくりなんだけど。」
と言われている。

さて、ぼくはあいちゃんがいつも歌っている場所で翌日一緒に歌う約束をして、次の日を迎えた。中州のストリートで歌うことに正直不安を感じていたぼくにとっては、何から何まで事がよく運んでいた。

あいちゃんにとても感謝している。そしてヒロミさんにも。そして神様ありがとう!

つづく

アルケミストについて詳しく書いてます↓


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