見出し画像

第141話 工事現場で日雇い派遣バイト【夢夢日本二周歌ヒッチ旅 回顧小説】

バイトに本腰を入れることとなった。

(この後牧場に戻るとなると、肉体労働系がいいよね。その方が牧場の仕事にスムーズに入って行けるし。肉体労働で、お金を効率よく稼ぎたいな。)

そんなことを考え、ぼくは前からやってみたいと思っていた工事現場の日雇いのアルバイトをすることにした。

1日働くと9000円ほど。残業した場合は、残業代もつく。

それに工事現場で働けば、いろいろなことを学べそうだし、そもそも日曜大工が好きなのと、牧場で得た自分のスキルも生かせるかもしれない。

「あなたの夢、応援します」とバイト募集の広告にのっていた「ニュープランニング」という派遣会社に応募し、ぼくは採用された。

そして採用された人は、ヘルメットを買わされる。

生まれて初めて持つマイヘルメット。

なんか、うれしい。

ニュープランニングでの仕事は、様々だった。基本的には現場の職人さんの手伝いが主な仕事だ。

たいがいが、ひと現場にニュープラは2,3人で手伝いに入る。

ニュープラの経験度は、だいたいヘルメットの汚さで分かる。特にシールの多さとか。

シールというのは特定の現場に行かないともらえないシールだ。

経験の浅いニュープラや、難易度の高い現場に入れないニュープラには手に入らなそうなシールをはっている人はベテランとか、仕事レベルの高い人だ。

また、こういう現場は縦社会だから、職人さんへの言葉遣いは結構気を使うし、バイト同士でも先輩に絶対逆らえない。部活の上下関係よりも厳しさを感じる。

ニュープラの仕事の中でも一番多いのは資材運びだ。そしてその中でも一番シビアなのは石こうボード運びだ。

石こうボードは人の手で運んで階段を上り下りする。

ぼくが3,4枚を持って運ぼうとすると、

「お前それしか持てないの?」

と先輩に言われ、その先輩は、

「こうやって持つんだよ。」

と言って10枚近くを背中に背負って階段をそそくさと登っていった。

その重さもすごいが、背中に背負うというのが結構難しい。

でも腕の力だけでその枚数を持ったとしたら長い時間は持てないので、やはり背中に背負うことがベストになる。

さらに角が壁にぶつかるなどして欠けてしまうと弁償させられる。

そして運ぶのが遅いと怒られる。

「まあ、お前は無理だろうな。無理すんなよ。欠けたら弁償だからやめとけ。」

そう言われて3,4枚で運ぶことを許してもらった。

(いや、3,4枚でも十分重いよね。)

牧場で働いていたから、こういう力仕事には自信があったが、石こうボード運びでは全く役に立たなかった。

だからその後石こうボード運びに回されることはほとんどなく、ぼくは背中で運ぶ技術を身につけることはなかった。

ぼくが自信があったのは職人さんの手元を助ける仕事だ。

溶接をしたり、インパクトでビスうちをしたり。

そういう職人さんの作業を手伝う。

後ろなどに構えて、次に必要な道具や材料を渡す。または職人さんからいろいろと受け取る。

これが遅いと怒られることもある。

うまくやるには、職人さんの仕事をよく見て理解していないといけない。

(次はインパクトだな。)

(次は溶接だから火花よけの板が必要だな。)

とか、仕事を見て予測しておくのだ。

また、作業しやすいように現場を整えておくことも大切だ。

これができたのは牧場でかなり鍛えられていたおかげだろう。

なにしろ牧場のムーミンさんほどやっかいな癇癪持ちはおらず、ちょっとでも段取りが読めていないとすぐに雷が落ちたもの。

ムーミンさんほどのやっかいな職人さんはニュープラの現場では会うことはなかった。

ムーミンさんに感謝である。

ということで、現場の職人さんたちの中にはぼくを気に入ってくれる方々がいたようで、ほどなく指名されて現場に入るということも起きるようになった。

こんなにうれしいことはない。

もう一つこのバイトをして嬉しかったのは、こうしたバイトには結構音楽をやっている人がいるということだった。

音楽だけでなく、演劇をやっている人もいたが、聞いていたようにニュープラには自分の夢を追いかけている若者が多い。

職人さんにも音楽をやっている人が多く、そうした話で盛り上がることもあったし、懇意にしてくれる人もいたし、工事現場に来ているのに、音楽活動の人脈が広がるという不思議なことも起きていた。

一つぼくが特に気を付けたことと言えば、ギターを弾く指を傷つけないように注意することだった。

怪我でもしたら演奏ができない。

そんなこんなで教習所に行くためのお金を貯めることができ、筋肉や人脈などいろいろな副産物も得ることができ、二度目の沖縄行の準備は進んでいった。

つづきはまた来週

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?