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第112話 大切なのは金じゃなくて愛だろ、愛とは無償のものだろ、愛があればあとからついてくるだろ【夢夢日本二周歌ヒッチ旅 回顧小説】

浜野さんに出会ったその日、ぼくは浜野さんの営業に一日付き合った。
 
「SEGEくん、日本を回ってるなら飛田新地は行った方がええで。西成にある江戸時代から残っている遊郭で、200軒くらいある。〇〇〇だけするとこなんよ。」
 
「えー!そんなところあるんですね。大阪はもう行って来てしまったので、2周目の時に行くかもしれません。でもお金がないので無理ですね。」
 
そんな感じで四日市へ車を走らせながら、ぼくにいろいろなことを教えてくれた。
 
「おれが雑誌を作っているのは、三重県の文化はすごいってことをみんなに知ってもらいたいからなんだよ。すごい人たちがめっちゃいるってことをもっと発信したい。今日会う人達は、三重県でも指折りの人達だから、SEGEくんも紹介するね。」
 
「あ、はい。いいんですか?」
 
(仕事の邪魔にならないのだろうか。)
 
「ええよ。ええよ。全然。フリーペーパーってどうやって作ってるの?って思うやろ。タダやから。おれの意見に賛同してくれる人にお金を出してもらって、それだけで出版してる。そのかわりその人達を取材したり、広告を出したりしてる。今日もそういうお願いをしにいくから。」
 
「無料ってすごいですよね。」
 
「そやろ。昔は真珠のディーラーをしていて日本でトップやった。
 
でも、オーストラリアに行った時に、ホストファミリーがおれを家族同然に扱ってくれて。
 
それで金じゃなくて愛なんだってわかったんよ。
 
自分の親からはそういう思いを持てなかったから。
 
でもなんでおれのためにママはこんだけやってくれるのかって思ってね。
 
愛って無償なんだと思った。これが愛なんやって。
 
ほんまそれで「愛」がわかって、それから愛のある営業をしようと思った。
 
それで今、こういうことをやってる。金じゃないんだよね。
 
愛があればかならず後から人がついてくる。
 
それが本物の人とのつながりよね。」
 
浜野さんは、まるで弟のようにぼくに惜しみなく自分の思いややっていることを教えてくれた。
 
はじめは営業先に一緒に行くことは不安だったが、話しているうちにすぐ「浜野さんについていけば大丈夫」と思えるようになった。
 
途中鈴鹿市を通り、昔からテレビやニュースで知っていた、でも(おれはここに行くことはないだろうな)と思っていた鈴鹿サーキットをちらっと見ることができた。
 
「鈴鹿はHONDAで成り立ってる。ブラジル人が多いね。」
 
四日市に着くと、浜野さんはぼくと一緒にアパレル系のお店に顔を出し、スポンサーのお願いをしたり、雑誌に載せる内容のお願いをしたりした。
 
その先々でぼくのことを紹介してくれた。
 
東京で言うと裏原にあるようなお店ばかりだ。
 
(三重県てすごいな。こんなセンスある感じなんだ。)
 
正直ぼくは三重県はもっと遅れていると思っていたのだ。
 
「SEGEくん、急いでる?明日ライブハウスに連れて行ってあげよ思ってて。それと明日はもっとすごい人紹介するわ。」
 
「いや、急いでないです。ライブハウスですか?いいですね。」
 
「急いでないやろ?バッパーやから、その場の流にまかせるのもええよね。おれもそうやった。
 
そのライブハウスは『GALLIVER』いうて、手造りなんやけどめっちゃ音がいいねん。この前山崎まさよしがやったんよ。」
 
「ええ!!すごいじゃないですか。」
 
「明日いっしょに行こう。」
 
「はい。ありがとうございます。」
 
ぼくは浜野さんのお宅に連れて行ってもらった。
 
浜野さんのお宅は海辺にあった。
 
「ワンピース」が全巻そろっている。部屋の中は雑然としていて、普段は帰るだけ寝るだけという感じなのだろう。
 
忙しさがにじみ出ているし、高校生の部屋みたいな印象だ。
 
かつて営業で日本一をとったとは思えないほど質素な住まい。
 
まさに「金じゃなくて愛がすべて」という生活をしているのだと感じた。
 
浜野さんは近所のしょうきくんという若い男の子を呼んで、みんなで酒を飲んだ。
 
「しょうきのお父さんはあまさんなんやで。とれたてのウニがめっちゃうまいんよ。なあ、しょうきくん!ときどきお父さんがとれたてのものくれるんやで。」
 
浜野さんは頑張っている若い人が好きなのだろう。面倒見のいい人なんだとつくづく感じる。
 
ぼくは浜辺で2人に歌を聴いてもらった。
 
「SEGEくん、明日『GALLIVER』で歌おうや。おれが話通すから!」
 
ぼくの歌は浜野さんの心に火を着けることができたようだ。
 
そして翌日、ぼくは『GALLIVER』で歌うことになった。
 
またも奇跡のような展開だった。
 
つづきはまた来週

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