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誤った障がい理解を覆せ! センターポールが突き進む共生社会実現への道のり

※これは、HEROs公式サイトで掲載された記事を転載したものです。

「HEROs AWARD 2020」の受賞活動を紹介する本企画。最後に紹介するのは、「センターポール」の活動だ。センターポールは「障がい者スポーツを通じて障がいの理解を広げ、深める」ことをミッションに掲げる団体だ。現在15名のパラアスリートたちが、学校や企業へ向けた講演や体験会を行い、障がい者がチャレンジする機会の提供や、健常者が障がい者を理解して受け入れる環境の促進を目指して活動している。

「無謀な起業」と運命の出会い

センターポールの活動の始まりは、今から9年前にさかのぼる。代表理事を務める田中時宗(たなかときのり)さんは、大学卒業と同時に、それまで13年間続けたアルペンスキーをやめ、一般企業で営業職に就いた。しかし「どうしてもスポーツに関わる仕事がしたい」と考え、25歳の時に株式会社センターポールを立ち上げる。大学時代から、競技の継続が難しい状況に陥ったアスリートをみてきた田中さんは、マイナー競技のアスリートをサポートするために、企業とのマッチングサービスを始めたが、当初は思うような成果を得ることはできなかった。

そんな田中さんに運命の出会いが訪れたのは、事業を好転させようと営業活動に奔走していた時のこと。訪問先の企業で、のちにセンターポールで中心的な役割を果たすことになる堀江航選手と出会った。堀江選手は、車いすバスケットボールや車いすソフトボール、パラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)などで実績を残してきた超マルチロール・パラアスリートだ。この時、堀江選手は、海外でプロ車いすバスケットボール選手としての生活に区切りをつけ、日本でパラアイスホッケー選手として冬季パラリンピックを目指しながら、パラスポーツの普及活動などを行っていた。そんな堀江さんから、次のように思いの丈を打ち明けられたと言う。

「自分は左脚を切断したけれども楽しく生きている。楽しく生きるためには自ら外に出ることが必要で、障がい者も外に出ないと気づくことができない。障がい者も健常者と対等な生き方をするべきだ」。

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この言葉に、それまで漠然と“障がい者=支援が必要な人”と考えていた田中さんの心は大きく揺さぶられた。田中さんが「転機となる出会いだった」と語るように、この出会いをきっかけに障がい者に対する認識を改め、障がいと向き合いながら競技に挑むパラアスリートたちの本当の価値に辿りついた。こうして誕生したのが現在のセンターポールの活動だ。

センターポールの活動を支える2つの軸

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2015年に一般社団法人として再スタートを切ったセンターポールは、主に2つの活動を軸に事業を展開している。一つ目は、アスリートが学校を訪問し、小中高生を対象にパラスポーツや障害理解についての授業を展開する「パラスポーツ学校交流授業」だ。セミナー形式の講演とパラスポーツ体験プログラムを組み合わせた授業には、これまでおよそ12,000人が参加している。もう一つの活動は、企業向けに行っている「パラスポーツ企業研修」だ。この活動も「パラスポーツ学校交流授業」と同様に、障がい者への理解を深めることを主目的としている。パラスポーツ学校交流授業との大きな違いは、プログラムの提供方法の幅が広いことだ。例えばイベント会社が企画したイベントの監修や、障がい者理解を促進するための社内研修の企画提案など、その手法は多岐に渡る。

これらの活動には、2つのミッションが隠れている。

(1)競技のことだけはでなく、人権や障がい理解をテーマにした講義を行い、参加者が障がい者への捉え方を考えるきっかけを作る

(2)アスリートたちの“リアル”に触れる機会を作り、彼らの人間としてのすごさや考え方を知ってもらう

例えば、講義の後には、リアルな接点を作るために、給食や食事を一緒にとり、何気ない話をしながら、参加者たちに気づきの場を提供し、自発的な変化を促している。その結果、障がいを持つ人に対するいじめが少なくなるなど、学校や企業内での課題解決にもつながっている。この活動が口コミで話題を呼び、2019年度には、北は岩手県から南は沖縄県まで、1都10県全84校で交流授業が行われるまでに広がりを見せている。

興味深いのは、これらの活動の中で、参加者の声が最も多かったのは、「継続して運動ができる環境が欲しい」という意見だったことだ。この意見を参考にして誕生した「パラスポーツ運動クラス」では、「障がいの有無や年齢、性別を超えることができる」というパラスポーツの特徴を活かし、10歳以上の男女であれば誰もが参加できるパラスポーツ競技体験会が実施されている。新型コロナウイルスの感染拡大により、この活動は一時的に中断に追い込まれたが、6月に活動を再開し、障がいのある子どもを中心に、すでに35回・401名に運動の機会を提供している(2021年1月末時点)。このように学校や企業だけでは用意することができないスポーツ環境を、民間の力を活用して提供する事例は、今後も、ますます増えていくことだろう。

センターポールの活動の根底にあるものとは?

このようなセンターポールの活動の背景には、「偏った障がい理解を正したい」という強い意思がある。このことについて、堀江選手は語気を強めてこう語る。

「障がい者と向き合うと、つい手を差し伸べなければいけない存在だと捉えてしまいがち。でも障がい者の中には、自分にとって必要のない支援には決して甘えようとしない人も多い。このような誤った認識を変えるためには、様々な困難を乗り越えた経験を持つパラアスリートが自ら、発信していくことが重要だ」。

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また、その一方で、障がい者が自ら行う活動には、正直な意見が届きにくいという課題もある。これまでの依頼者の約6割が「パラスポーツ学校交流授業」の再実施を行っているというが、田中さんは、残りの4割の数字に、障がいに対する誤った認識が隠れていると指摘する。

「障がい者への活動は、悪いことを悪いと言ってもらえることが少ない。アンケートを取っても、結局何をやっても“良かった”と言ってもらえる。これからはダメなものはダメと言ってもらえる活動にしていきたい」。

このようなパラアスリートの持つ力強い発言は、健常者の中にある障がい者に対する心のバリアを取り除いてくれるのではないか。こうして健常者と障がい者が、意識し合うことなく生活できる成熟した共生社会を実現するためにも、センターポールの活動が、さらに広がっていくことを期待したい。

なお、HEROsプロジェクトでは、この記事の読者の皆さんには、小さなアクションを行うことを提案させていただいている。以下のようなアクションを起こすことから、社会貢献の第一歩を踏み出してみてはいかがだろうか。

1. この記事をSNSで発信・拡散する
2. パラアスリートの発信を探してみる
3. パラスポーツ競技について調べてみる。
4. 障がい者教育の現状について調べてみる
5. 募金活動やクラウドファンディングに協力してみる


瀬川泰祐の記事を気にかけていただき、どうもありがとうございます。いただいたサポートは、今後の取材や執筆に活用させていただき、さらによい記事を生み出していけたらと思います。