「工作」は「仕事」という意味だけではありません
中国語の言葉でよく出てくる「工作」という言葉。皆さんはどのような意味だと理解していますか。
このような問いに、「簡単だよ」と言う人がいるかもしれません。一般的に知られているのは「仕事」だと思います。
しかし実は「工作」は「仕事」以外にもいろいろな意味や用法がある少々厄介な語句であり、また翻訳・通訳者泣かせの語句でもあります。
そこで今回はこの「工作」の語句の用法について、皆さんへの注意喚起も含めて掘り下げてみていきたいと思います。
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やはり中国語の「工作」を含む言葉で、一番最初に習うのはこのフレーズでしょう。
要するに「A:どんな仕事をしているの?」「B:レストランのウェイター(ウェイトレス)です」という、「仕事」という意味で使う場合です。これが中国語初級で覚える「工作」の用法でしょう。このあたりは中国語を勉強したことがある皆さんならだれでも学んだことがあり、よく知っているのではないでしょうか。
ところが中級~上級になると、「工作=仕事」の訳だけでは立ちいかなくなることが多くなります。
例えば毎年3月の全人大の開幕式で国務院総理が発表するのは「政府工作报告」です。これはどう訳せるでしょうか。
「仕事報告」とは訳せないでしょうから他の訳語を持ってくることになるのですが、私は「政府工作报告」には「政府活動報告」という訳を当てています。
ここまでで言えること。それは中国語の「工作」は「組織の中で行う業務・仕事・作業・活動」を意味する言葉だということです。ここでいう「組織」というのは民間・国営企業や官公庁、国会(人代・政協)だけではなく、学校やサークル、PTAなどの教育の場などあらゆる「組織」のことを指します。
翻訳者の目線で言うならば、前者の民間・国営企業や官公庁の場合の「工作」は「業務・仕事・作業・活動」という訳語をチョイスする必要がありますし、学校やサークル、PTAで使われる「工作」ならば「活動・作業」ぐらいの訳語をチョイスするなどの工夫が必要になってきます。
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ちなみに・・ニュース記事でよく出てくる「工作组」という中国語。国内外の会議関連のニュースでよく出てくる語句です。この語句を皆さんならどう訳しますか。
私は、中国語の「工作」は「組織の中で行う業務・仕事・作業・活動」を意味する言葉だという定義を考慮に入れて、「工作组」という語句には会議や組織の中の組織という意味合いで、「作業部会」「作業チーム」という訳語を当てています。
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ここまでは「知っているよ」という人がいるかもしれません。しかし中国語のニュースや文章を読んだり、あるいは中国語ネイティブとの会話を聞いたりすると、「業務・仕事・作業」という訳ではおさまらない文を目にすることができるでしょう。例えば次の文は皆さんどう訳しますか。
例えば先日の外交部記者会見で、外交部報道官が次のような受け答えをしました。
問題なのは後ろの文節なのですが、「領事司の責任者は関係国の在中国大使館の業務を行った」と訳していいのかどうかが焦点になります。
ただ常識的に考えれば、「中国外交部の高官が」「他国の在中国大使館の業務を行う」というのはあり得ないですよね。このため別の用法や訳語があるのではという予測を付けることができます。ならばどういう意味か。
ここで注目すべきなのが「做工作」のフレーズです。実は「工作」は「做」という動詞とセットで、「働き掛けを行う」という意味もあるのです。この用法は実は中国のニュース記事ではよくつかわれています。この用法を使って訳語をつくってみましょう。するとこうなります。
「工作」を使ったこの用法を覚えておくと、翻訳の幅が広がるのでぜひ覚えておきましょう。
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そして・・実は「做工作」を使ったフレーズ、中国のネイティブ(主に大陸の人たちですが)の人も会話でよく使います。最も典型的なのは下のフレーズでしょうか。
皆さんはこのフレーズ、どう訳しますか。
これをもし、「私は彼に思想工作(活動)を行った」と訳せば、まるで彼に洗脳を施したような印象になってしまいます。
そこで先ほどの「做工作」=働き掛けという訳語を当てはめて訳すとこうなります。
この訳文もちょっと思想宣伝やイデオロギーの匂いがしたりして、構えてしまう人もいるかもしれません。
ただ実際には中国語ネイティブの人はイデオロギー抜きに、日常生活でもよく使ったりしています。
私はこのフレーズについては、なかなか考えを変えてくれない相手を説得するとか、悩みを抱えている相手を言葉で前向きに立ち直らせようとするとか、そのようなニュアンスが含まれていると考えています。
日本語訳では適訳がなかなか思いつかないのですが、私ならば、「私は彼を説得した」といった訳文を当てることが多いでしょうか。
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どうでしたでしょうか。「工作」という言葉一つとってもいろいろな意味があることが分かったと思います。
翻訳者目線で言うならば「做工作」ではなく、「工作」単独で出てきた場合はできる限り、「業務・仕事・作業・活動」の中からチョイスして訳すようにしていますが、イデオロギー的文脈の場合や判断がつかない場面に関しては、「工作」とそのまま原文表記にするようにしています。
皆さんも是非参考にしてみてください。
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