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ニュース翻訳のルーティン(私の場合)

翻訳をしている皆さんは、いわゆる翻訳する際の自分自身のルーティンを重視していますか?

私は20年間の中日ニュース翻訳のキャリアの中で、数千本以上の中国語のニュースを処理してきました。そのおかげで今では、私がニュース翻訳する際に「どのようにしたら最も効率的にニュースを処理できるか」といった自分なりのルーティンを確立できています。

このルーティンのおかげで、今では最大で1日(8時間から10時間)当たり十数本、日本語の訳文にして8000字から1万字ほどのペースで翻訳文を処理できています。そこで今回は、「自分が中国語のニュースを日本語に翻訳する際のルーティン(作業手順)」を皆さんにシェアしたいと思います。自身の翻訳作業の効率化の参考にしていただけたら幸いです。

①日付を確認する

まず翻訳原稿を受け取った際に確認すべきなのは「日付」です。「ああ、そんなのわかっているよ」と考えている人もいるかもしれませんが、これ「非常に重要です」。

なぜなら、正確性が第一に求められるニュース翻訳においては、日付は動かしようのない事実であり、ごまかしようのない事実であるからです。

ここを間違えると自身の責任問題にも発展しかねないので、最新の注意を払う必要があるのです。

ざっくりいうならば、ニュース翻訳で確認すべき日付は3か所です。下の画像に注目してください。典型的な会見ものの記事を例にとってみましょう。

习近平会见吉尔吉斯斯坦总统扎帕罗夫

注目すべき個所に番号を振ってみました。まず注意すべきなのは画像中の①です。ここにはニュース配信業者が、「何月何日にこの記事を配信したのか」が書いてあります。

このため、自分の翻訳原稿のクレジットに日付を入れなければならない場合、ここの日付を参照することになります。

また、「年」月日すべてが示されているのはここの配信日時のみです。かならず「何年」なのかをしっかりと確認しましょう。たまに一年前の記事だったりもすることがあるので。

その次に②です。これは「記者が何月何日にこの記事を執筆・出稿したか」が書いてあります。日付は基本的には①と同じ場合が多いですが、例えば海外駐在の現地記者が執筆した日付が時差で遅れた場合は1日前になっている時もあります。

最後に文中の③です。この日付で「記事の出来事がいつ発生したか」が分かります。このため日本語に翻訳する場合は「基本的にはこの日付を軸に、文中の現在、過去、未来を判断します」。

ただここの③の日付は、②との関係で気を付ける点があります。それは③の日付が「今天」「昨天」となっていた時に具体的には何月何日かを判断する場合です。

例えば①が10月3日になっていて、②は「华盛顿十月二日电」、文中の③は「昨天」となっていた場合、③の「昨天」は具体的には10月1日となります。このあたりは注意を払う必要があります。

また③は文中で、別の日付になったり、「今天」「昨天」になることもしばしばあるので、その都度確認する必要があります。

ともあれ、この3か所の日付をしっかりと理解して翻訳する際の時制を確認しましょう。

②どのような種類の文章なのかを確認する

まず具体的には、会見ものなのか、会議ものなのか、それとも記者会見ものなのか。はたまた声明なのか、論説文なのか。などなど。まずは自分が取り組むニュース原稿の種類をしっかり把握しましょう。これをやっておくことで、各文章を日本語に翻訳する際に、文章のスタイルをしっかりと頭の中に入れておくことができます。

「どんな文章でも同じじゃん」と思うかもしれません。しかし考えてほしいのですが、小説文の文章スタイルと報道文の文章スタイルはやはり、かなりの部分で違いがあります。「これらの文章のスタイルを正しく理解し、違いをしっかりと訳し分けることは、プロの翻訳者としてとても重要です」

このため、頭にしっかり入れておきましょう。

③原文の内容をざっと確認する

これは具体的には、翻訳する前に5W1Hをしっかり確認しましょうということです。「誰が」「いつ」「どこで」「何をした」ということを把握しないで取り組むことは、特にシビアな時制判断が求められるニュース翻訳においてはかなり重要です。

この「ざっと確認」には会見ものや声明文などならば、相手の要人の名前や地名を調べること、正式な条約名を調べること、ニュース記事の背景になっている予備知識を調べることなどなども含まれます。これらはネットでググったり、百度で調べたりするなど手間をしっかりかけましょう。

論説文ならば、「A」が「B」だから「C」になったといった、筆者の主張とロジック展開もきっちり確認すべきです。

◇◇

・・・とここまでは翻訳の前準備段階ですが、ここまでで標準的な長さのニュース記事の場合、私ならば20分から30分ぐらいが目安となる所要時間でしょうか。これらの準備段階で気が付いたこと、気を付けるべきことを別紙にメモしておくこともかなり効果的と言えます。

④翻訳を始める

ここまで来たら、あとは翻訳を始めるだけです。①~③までの下準備がしっかりできていれば、割とスムーズに翻訳ができるはずです。

気を付けるべきなのは日付、時制、さらには「発言者は誰なのか」などなど。これらはすべて準備段階でしっかり確認したはずなので、確認事項に沿って翻訳しましょう。正確性が重要視される翻訳なので、間違えがないよう集中力を持って処理することがとても大切です。

⑤翻訳後の見直し

ひょっとしたら皆さんの中でも、「翻訳したら見直しはざっと見るぐらいにしているよ」と言う人もいるかもしれません。

しかし私は翻訳後の見直しもとても重視しています。というのは私自身ケアレスミスがとても多く、この仕事を始めてからも長い間そのようなミスに悩まされてきたからです。

そのような悩みを、私は「自分の訳文を徹底的に読み込む」ことで極力回避してきました。

完成した訳文をプリントアウトして、別室に持ち込み、誰もいないところで自分で読み合わせをする。「日本語として変なところはないか」「中国語の原文から逸脱した訳文になっていないか」を音と目で確認する。

はたから見ていると、「おかしい人」と思われるかもしれません。しかし私ならば、「おかしい人」と思われることとしっかりとした訳文を完成させることとどちらを取るかと言えば後者を取るでしょう。それくらいの気持ちで翻訳に取り組んでいるということです。

◇◇

・・・とここまで私の翻訳の際のルーティン(作業手順)を紹介してきましたが、実はこれらは私の今までのnoteでも繰り返し言及していることでもあります。ぜひ、過去のnoteを参照してもらい確認していただければと思います。

サポートしていただければ、よりやる気が出ます。よろしくお願いします。