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【後編】かつて美大生だった私が、卒業制作作品『COMPASS』でたどり着いた答え

「世の中は本当に複雑で、コンパスが北を指し示すような明確な答えは、簡単には見つかりません。それでも、自分がどちらの方角を向いているのか、どこに進みたいのかを考えることは大切なのではないでしょうか。」

これは、私が10年以上前に制作した作品群、『COMPASS』の序文に書いた言葉です。

私は東京のとある美術大学でグラフィックデザインを学んでいました。卒業後はデザイン事務所に入り、エディトリアルデザイナーとして勤務。数年間は書籍や雑誌のデザインに携わりましたが、心機一転、退社して社会人学生となり、いまは「栄養士」として働いています。

なので、私の本業は人々の健康増進をサポートする「栄養士」です。

私は、これまでブログやtwitterなどのSNSでの発信は一切行わずに生活してきました。そんな私が、なぜ「note」を始めたのか。

その理由について、私の卒業制作作品を紹介することが最もわかりやすいと判断しました。今回は自己紹介も兼ねて、私の仕事の指針、現在の仕事へのルーツにもつながる作品『COMPASS』を紹介します。「後編」です。
「前編」は以下になります。

国や専門家が言っていることは正しいのだろうか?

私は子供の頃から知的好奇心が強く、自分の興味の赴くままに何かを調べては考え続けることが好きでした。東京の美術大学でグラフィックデザインを学んでいた当時、環境問題に興味があった私は、アル・ゴアの映画『不都合な真実』に触発されて「地球温暖化は危険なのかもしれない、私にもデザインで何かできないのだろうか?」と考えていました。

しかし、同時に「そもそも本当に温暖化しているのか、本当に原因はCO2なのか? ある考えや思想を “唯一絶対のもの” のように盲信しても良いのだろうか? 地球温暖化は確かに起きているかもしれないが、本当に危険なのだろうか? メリットもあるのではないか?」という疑問も抱いたのです。

常識や科学も不変的なものではなく、時間の流れと共に変化していきます。政府や権威のある専門家が言っているからと言って、何の疑問も持たずにあっさりと信じ切ってしまうのも、権力にコントロールされているようで嫌だったのです。

何よりも、これから社会に出て、クライアントからの依頼を受けてデザインした成果物が、デザイン的にいかに優れていても、仮に評価されたとしても、そもそも虚偽であったり、特定のプロパガンダを助長するようなものだったとしたら、私は自分の行為の結果を受け入れられるのだろうか。仕事だから仕方なかったと、割り切れるのだろうか。

断じてそれは無理でした。

自分自身がよくわかっていないことを、デザインしたくはない。そのようなことを考えていたら手が止まって何も作れなくなる。しかし、それでも作らなくてはいけないのならば、きっと私はデザイナーになれないし、なりたくない。デザインのモラルについて考えたい。そう思ったのです(これが、今の本職である栄養士になる動機にも繋がっているのですが、当時は微塵も考えていませんでした)。

こうした経緯から「常識や通説は本当に正しいのだろうか?」を自分の卒業制作のテーマに決めたのです。

情報収集の日々、常識の瓦解、真実とは何か。

テーマを決めた私は、書籍、新聞、インターネットなどから様々な情報を収集してはそれらを読みふけりました。国立国会図書館にも足を運んで、第二次世界大戦中の日本の新聞報道なども確認しました。

調べたことは多岐に渡ります。

地球温暖化問題を皮切りに、生物多様性、ミツバチ大量死の原因、化粧品の安全性試験と実験動物、完全制御型植物工場、遺伝子組み換え作物とモンサント社、石油から生成される現代の医薬品、原子力発電所と排温水、持続可能な開発、貨幣制度と金本位制、銀行と国際金融資本、イスラエルとパレスチナ、ユダヤ人の歴史、優生学思想、アウシュビッツ強制収容所の生活『夜と霧』、IBMとホロコースト、軍需産業、シベリア抑留を生き抜いた詩人、統計の嘘、マスメディアによるプロパガンダ……

考えつく限りのあらゆる社会問題やその背景にある構造、相関関係、歴史について調べ始めました。

いま振り返ると、なんて広範なテーマを選んだのだろうと思います。

調べれば調べるほど、自分が当たり前だと思っていたことや信じていたものの一部あるいは全部が瓦解していきました。そして何が真実なのかわからず、全てが疑わしくなり、私の調べていること自体もフェイクに過ぎず、情報に踊らされているだけなのかもしれない、と気落ちすることも多々ありました。

ですが、自分には抱えきれないような情報量に圧倒されてはいても、それらについて考え続け、自分なりの着地点を見出すことを諦めたくありませんでした。そうしなければ、霧の中でどこに向かって歩いていけばいいのかわからず、立ち止まって動けなくなってしまうからです。

『スラムダンク』の安西先生も言っていますよね。

「最後まで…… 希望を捨てちゃいかん あきらめたらそこで試合終了だよ」

そして『COMPASS』へ…

私は調べ上げた膨大な内容を一つずつポストイットに記入し、模造紙上に貼り付け、それらを整理、分類、統合しました。ビジネスでもよく用いられるKJ法を利用して、頭の中で絡み合った思考を解きほぐすことにしたのです。

そして、統合された各グループを、①環境、②生物、③食料と医薬品、④エネルギーと資源、⑤産業と技術、⑥政治とメディア、⑦歴史と戦争、⑧思想と教育の “8つのコンパス” に分類しました。これら8つのコンパスをもとに、私の調査内容の相関関係を見出すことにしたのです。

結果、最終的に表現媒体として選んだのは以下の3つです。

地図パネル(A1サイズのスチレンボードを複数枚つなぎ合わせて作成。縦:1〜6、横:A〜I の9列のマップ。東京メトロの地下鉄路線図のような構成。大円が「地球温暖化は起こっているのだろうか?」と言った問い、小円がそれを調べる過程で見つけた情報、中円が後述の書籍で詳述した内容にリンクする内容)

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デジタルマップ(前述の地図パネルをAdobe Flash+Action Scriptで記述し、プロジェクターで投影。マウス操作で情報空間内を移動でき、クリックすると詳細な文章が表示される。後述する書籍への橋渡しにも使用。)

書籍(A5サイズ。8つのコンパス名を各章の大項目として位置づけ、調査内容やエッセイを記述したもの。下記は表紙。題字は大学1年生の授業で制作したフォントを使用。)

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これらは、私の混沌とした頭の中を何とかして秩序立て、可視化したマインドマップとなりました。しかし結局のところ、当時の私には何が正しいのか正しくないのか、結論はでなかったのです。

しかし、今わからなくても、いつかわかるかもしれない。少なくとも、私の思索における未踏の地を埋めることはできただろう。間違っていたのなら、それが間違いだったということはわかる。まずは「無知の知」を自覚して、探究者としての自分のあり方を提示してみよう。

それが、大学生だった私が『COMPASS』でたどり着いた答えでした。

探求者=シーカーのつぶやき

さて、あれからもう10年以上が経ちました。今の日本、世界情勢、どうなるか全く読めない日々が続いていますね。しかし、だからこそ自分の頭で考え、自分の決断を信じることが求められているのだと思います。

そこで、私はかつて制作した『COMPASS』の理念をもとに、いま再構築を試みたいと感じました。今の世の中から感じた疑問を『COMPASS 2.0』で表現したい。それが、私が「note」を始めた動機です。

元グラフィックデザイナーの栄養士というのも、なかなかいないのではないでしょうか。我ながら、不思議な人生を歩んでいるなと思います。ですが、後悔はありません。

食べることは一生続くことであり、人の健康のサポートをすることは、その人の過去、現在、未来を考える、やりがいのある仕事です。

何よりも、自分が作った食事や、提案したアドバイスが、その人の人生に直結する。人の人生に介入していることに責任を持てる。

それが、私自身の生き方に最もしっくりきたのです。

今回の記事では、私がどのような人間か、その自己紹介も兼ねて書いてきました。私の「note」の基本的なスタンスは、「常識や通説は本当に正しいのだろうか?」という疑問を提示することです。そのために、大学生の時に制作した作品を紹介することが、一番わかりやすいのではないかと思いましたが、いかがでしたか? 

基本的には、記事を書き慣れていないので、書こうとするとかなりの労力が必要です。そのため、『COMPASS』の小さな円のように、自分が今疑問に思っていること、調べていることを「140字のつぶやき」にまとめることにしました。そして、そのつぶやきの多くは問題そのものを多角的に捉えられるよう、一歩引いた視点から行おうと考えています。

また同時に、noteを始めて見て感じましたが、noteには「賢人」たちがたくさんいることがわかりました。専門家の方に限らず、日々の何気ないことを綴っている人たちでも様々な視点で日々の生活を捉えている。なので、私は「中継地点」=コンパスの小さな円で十分です。私は私のできる範囲で、自分の大事だと思う視点を発信できれば良いと思っています。私より専門性が高い記事、面白い記事の発信者、有要な書籍等の文献との橋渡しができれば本望です。

「私」のコンパスは、
「あなた」に正しい方位を指し示すだろうか?

その答えは、残念ながらわかりません。ですが、正しい道を指し示せるように生涯学び続け、責任を持つ覚悟を持って情報発信を心がけます。ときに歪んだコンパスを提示してしまうかもしれませんが、読み手の方に有用な視点を提供できればと考えております。

ここまで長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

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