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『ウマ娘 プリティーダービー』のタニノギムレットの特別チョコが欲しくて

バレンタインデーの楽しい記憶を思い返すとなると、私の場合、小学生の頃まで遡ります。
2月14日、あるいはその前後の平日。「バレンタインデーだからといって学校にお菓子を持ってくるのはやめましょう」という担任の言葉を無視し、こっそり持ってきた大量のチョコレートをクラスメイトたちと交換し合う「友チョコ交換」の記憶です。

小学生の当時、何の影響だったかは覚えがないのですが「既製品は愛がない」「手料理がおいしいのは愛があるから」という手作り至上主義みたいな風潮が学年全体でありました。なので当然、私を含め皆お手製のチョコを用意していましたし、既製品を持ってきている子など一人もいませんでした。
まあ手作りといっても「市販のチョコを溶かして別の型に入れて固めただけ」という簡単なものばかりでしたが……それでも準備の時間と交換の瞬間は本当に楽しかった覚えがあります。

しかし歳を重ねるにつれ、生活環境や交友関係が変わるにつれて、いつしかバレンタインデーは私の中で「楽しいチョコレート交換の日」ではなくなっていきました。
今の私にとって、バレンタインデーとは「社交辞令でチョコレートを用意する日」あるいは「百貨店の催事コーナーがチョコ一色になる期間」。誕生日と同様「365日のうちの1日」でしかなく、そこに子供の頃に感じたような非日常感はもうありません。

なので、今回「バレンタインだから」という理由で何かを作りたい衝動に駆られるなんて夢にも思っていませんでした。

タニノギムレットのエスプレッソトニック ショコラ添え(『ウマ娘 プリティーダービー』)

実在の競走馬をモチーフにした美少女キャラクター「ウマ娘」たちの熱い青春を描く人気メディアミックスコンテンツ『ウマ娘 プリティーダービー』。これを書いている現在、App Store / Google Play / DMM GAMESで配信中のゲームアプリ版では、リリース3周年を目前に控えたアニバーサリーキャンペーン第一弾と並行して、バレンタインキャンペーンも行われています。

といってもソーシャルゲームのご多分に漏れず、期間中「キャラクターからチョコ(スタミナ回復アイテム)がもらえる」という簡素なイベントが見れる程度のもの。ですが親愛度が一定以上のキャラクターからは、通常のものとは違う「特別チョコ」を特別な演出と共に受け取ることが可能です。

「特別“チョコ”」だけどチョコどころかスイーツですらない子も数名いたりする

そしてその特別チョコのグラフィックとメッセージカードはどれもそのキャラクターの個性を色濃く反映しており、トレーナーなら一見の価値があります。
特に2ndアニバーサリー以降にプレイアブル化したウマ娘にとっては、今回が初のバレンタインイベント。日頃の感謝や信頼の証をどう形にするのか、彼女たちの贈り物が気になって熱心に親愛度を上げるトレーナーも大勢いたことでしょう。

かくいう私もその一人。バレンタインに何を贈ってくれるのか密かに気になっている推しウマ娘がいました。

それが彼女、タニノギムレット。前代未聞の父娘日本ダービー制覇を成し遂げたウオッカ号の父であり、現在はYogiboヴェルサイユリゾートファームで余生を送っている元競走馬タニノギムレット号をモデルにしたウマ娘です。

キャラストーリー第1話から匠の技を見せてくれる柵破壊職人の鑑

存命する最高齢ダービー馬であると同時に、引退馬牧場で日常的に牧柵を蹴り壊す破壊神としても知られているギムレット。そんな愉快で個性的な功労馬をモチーフにしたウマ娘のギムレットはというと、独自の美学と独特な世界観と抑えられぬ柵破壊衝動を持つ重度の中二病患者という実馬に負けず劣らず……むしろそれ以上に濃いキャラ付けがされています。

休み時間に勝手にモクテルバーを開くこともあり、学園内でも話題になっている模様

また名前の由来が同名のショートカクテルにあるからか、ウマ娘のギムレットは未成年ながらもアルコールへの興味関心が非常に強いキャラクターとなっています。
そんな彼女の趣味はカクテル作り。それも創作モクテル(ノンアルコールカクテル)が大の得意で、育成中のイベントでもよくモクテルを作ってはトレーナーや生徒たちに振る舞っている姿が描かれていました。

創作モクテル「神聖なる喜劇(ラ・ディヴィーナ・コメーディア)」を飲んだトレーナーの感想
(柑橘にザクロにバカンス感ということでなんとなくフルーツパンチっぽい)

そして、そのオリジナルモクテルはどれもネーミングセンスは中二病のソレだけどすごくおいしそう。ギムレット自身が解説してくれることもあれば、飲んだ人たちが具体的な感想を述べてくれることもあるため、そのレシピや味の想像がしやすいのです。

ギムレットが育成キャラクターとして実装されたのが昨年5月。つまり今回が初のバレンタインとなります。
いったいどんな贈り物を用意してくれるのだろう。ゲーム飯に目がないうえに現在進行形でカクテルブームの真っ最中という私は、そのギムレットの特別チョコが実装当初から気になって仕方ありませんでした。

育成シナリオで作っていたのはだいたいモクテルだけど、キャラストーリーから普通のスタンダードカクテルも作れるのは判明しているし、トレーナー自身もお酒を飲んでいるシーンがある。ならば本命はチョコレートリキュール系のカクテルで、対抗はブランデーケーキとか洋酒を使ったスイーツか。もしくは普通にチョコレートドリンク……はシャカールと被るしなぁ。

そんな想像を巡らせつつ迎えたキャンペーン初日。真っ先にギムレットにチョコをもらいに行ったら……

ウワーッッ!!! 何考えてんだ親父ィィィ!!!

……えー、ギムレットが用意してくれたバレンタインデーの贈り物は、まさかのエスプレッソトニック(とショコラ)。
独特の風味を持つ微炭酸飲料のトニックウォーターに、コーヒーのうまみと苦みが凝縮されたエスプレッソを加えた新感覚のコーヒー飲料――いわゆる「炭酸コーヒー」ってやつです。

炭酸コーヒーといえば、数年に1度のペースでさまざまなメーカーが流行らそうとするけど、結局定着しないまま人知れずに消えていく謎商品の筆頭。好きな人は好きだけど嫌いな人はとことん嫌いという、パイナップルピザ以上に賛否が分かれる代物です。

ちなみにマンハッタンカフェも育成中に炭酸コーヒーを作るイベントがある

ちなみに私は炭酸コーヒー断固否定派。昔、怖いもの見たさに飲んだことがあるのですが……缶コーヒーですら「あれは人間の飲み物でない」と心底嫌っている私が「この世に缶コーヒー以上にまずい偽コーヒーが存在するとは思わなかった」と驚いたほど冒涜的な味で、ボトルの半分以上を流しに捨てたほどに口に合わなかった記憶があります。

しかし推しウマ娘の一人が……それも言葉選びはアレだけど洞察力に長け、なおかつ気配り上手のギムレットが差し出した一杯です。ひょっとしたらこれは、「炭酸コーヒーはまずい」という凝り固まった常識(コモンセンス)を打ち破り、新たな世界(ガイア)へと足を踏み入れろという啓示(リヴァレーション)なのかもしれません。
ならばウマ娘トレーナー兼ギムレット帝国民としてやるべきことはひとつ。運命(フェイト)の先に待ち受けるものが勝利の美酒(コスモス)か名状しがたき泥水(カオス)か、この目と舌で見定めるまでです。トニックウォーターもちょうど残ってたしね。

というわけで、早速調理開始。本来ならただのコーヒーでなくエスプレッソを使用するメニューですが、あいにく家庭用エスプレッソマシンなんてゴツくて洒落た機械は持っていないので、今回は濃いめに作った普通のコーヒー(それもポーチ目当てで衝動買いしたカルディのネコの日限定ブレンドで代用することにします。

とりあえず普通にお湯を沸かし、普通に豆を挽き、普通にちょっと蒸らして普通にドリップ。ここまでは普通の淹れ方と同じですが、全体の1/10程度を注いだところで一旦ストップ。それをエスプレッソ代替品と仮定し、別の容器に移します。

そして氷を満たしたグラスによく冷えたトニックウォーターを注ぎ、上から代替エスプレッソを加えて完成。コーヒーブラウンと透き通るソーダのコントラストが涼しげで美しく、期待に胸が高鳴ります。

飾り用のライムは無いけれどチョコレートならちょうどあったので、せっかくだしイラストのように2個添えましょう。
酩酊準備はこれで完了。さて、刹那の閃光(ギムレット)が射し示す先にあるのは、果たして黄金郷(エル・ドラド)か夢の廃棄場(デザート・イン・ニューメキシコ)か……

実飲

実は、ほんの少しだけ期待していたんです。まずかった記憶が上書きされるんじゃないかって。
昔飲んだのは市販のペットボトル飲料だったので、そんなのまずくて当然。だからちゃんと作ればおいしくなる可能性は十分にあるはず。私自身、コーヒーも炭酸もよく飲むから、好きになる素養は十二分にあるんじゃないかって。

コーヒー最大の魅力である香りは、トニックウォーターに投入すると同時にほぼ消え失せ、残るのはシュワシュワした炭酸ガスの音ぐらい。まあニャンコーヒー自体がまったくアイス向きでないブレンドなので、この展開は想定の範囲内。
勇気を出してグラスの中の液体を口に含むと、コーヒーの風味とトニックウォーターのほのかな甘苦さが織りなす複雑なマリアージュが舌の上で踊り出し……ごめん、やっぱ無理。トニックウォーターの甘みも苦みも炭酸もコーヒーと壊滅的にマッチしない。相変わらず名状しがたく冒涜的で地獄めいた混沌の液体でしかなかったわ、これ。

気泡が見えないせいで普通のお茶に見えるけど、ちゃんとコーヒー+炭酸水です

ひょっとしたらトニックウォーターの相性が特別良くないだけかと思い、試しに普通の炭酸コーヒー(コーヒーと炭酸水を半々で割ったもの)も作ってみたのですが、それでもやっぱりおいしくない。添加物が無い分、トニックウォーターよりも若干飲みやすくなったとはいえ誤差レベル。そもそも炭酸のシュワシュワがコーヒーとまっっっったく合わない。

とはいえ、上記の感想はあくまでも炭酸コーヒー断固否定派の一意見。炭酸×コーヒーの組み合わせに抵抗の無い人からすれば「こういう飲み物なんだな」と普通に受け入れる人や、逆に「この絶妙な苦みと爽快感がたまらない!」なんて絶賛する人もいるかもしれません。

それに苦手といえども、もっと丁寧に作ることだってできたはずでした。
ちゃんとしたエスプレッソやアイスコーヒー向きの深煎り豆を使えば、もっとコーヒーの風味が残ったことでしょう。それか何かしらのリキュールを加えて、カクテルっぽくアレンジしてもよかったかもしれません。あるいはマンハッタンカフェのイベントに登場したアレンジコーヒーにならって、オレンジを入れるのもアリなのかも。
改善の余地はまだまだあります……が、次は無い。絶対やらない。これリベンジするぐらいなら食用菊入りカワイイチョコ作る。

たしかにちょっとドキッとしたよ……だって炭酸コーヒーくれるとは思わなかったからさぁ!

おお、三白眼の賢者(ギムレット)よ。その親愛の証(特別チョコ)、心より感謝申し上げる。だが哀しいかな。麦酒(ビア)の味すら理解(わか)らぬ幼稚な味覚(子供舌)では、霊薬(エスプレッソトニック)に秘められし智慧(炭酸×コーヒーという組み合わせ)と共に、銀の鍵の門を超える(忌まわしい過去を塗り替える)ことは叶わなかった……ッ!

そんな風に彼女に酩酊しきれなかった自分に不甲斐なさを感じつつ、口直しのチョコを口の中で転がしながら「とりあえず今晩はジントニックとソルトリックかな」と早々に晩酌のメニューを決めた休日の朝でした。

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