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彼女が出来た……?

大学からの帰り道、幼馴染の東雲椿とばったり出くわした。
何という運命の日か。

俺は数か月前から次に出会ったときに言おうと思っていたことを口に出した。
「なんと彼女が出来た」
大学2回生にして俺は念願の彼女が出来たことを腐れ縁の幼馴染に報告したのだ。
「ふーん、良かったじゃん」
幼馴染の東雲椿はなんとも投げやりな反応を示した。
椿の身長は小さくて、顔も可愛いのだが、性格に難がある。
可愛げ……というか愛想が欠けているのだ。
高校時代に一切、告白されなかった俺に対して、椿はそれなりに告白されたらしい。
特に1年の1学期がすごかったようで、1週間に1回、誰かしらから告白されていたようだ。
もちろん、全て振ったとのこと。
振った時の言葉は全て一緒であり、それは『すいません、貴方に興味がないので丁重にお断りします』といったものだった。
そのあまりの鉄壁振りに、氷の女というあだ名が付いていたとかなかったとか。
なお、一部の女子からはカルト的な人気を得ていたらしい。
その美貌があるにも関わらず、男に靡かない椿を女皇と崇めていたようだ。

自身がモテまくる一方で、椿はいつまで経っても彼女の出来ない俺を散々、弄り倒した。

遂にこの時が来た。
その報いを受けるが良い!
「ユー、もうちょっと、祝ってくれてもいいんじゃないのか?」
「祝うわけないでしょ! バカ!」
唇を尖らせながら歯向かう椿を見て俺はほくそ笑んだ。
悔しいよなぁ。
俺なんかに出し抜かれてしまったんだもんなぁ。
やべぇ、すっげぇ、楽しい。
こうなったら、散々、惚気てやろうと話を続ける。
「すごく可愛いんだ。肌は色白で、性格も良くて、家もここから近くって……」
「はいはい、自慢の彼女さんで良かったですねー」
あからさまに不機嫌な椿に愉悦を感じつつ、帰り道を進んでいく。
すると、俺の彼女が住んでいると言っていたマンションが目の前に現れた。
「ほら、あそこに見えるだろ……?」
「何が……?」
「あのマンションに俺の彼女は住んでいて……」
「……待って、ほんとにそこに住んでいるの?」
「え? 何を疑っているんだ?」
俺は足を止め、怪訝な顔をする椿に目を向ける。

「私の目には墓場しか見えないのだけれど」
椿は前へと視線を向ける。
「は……? 何を――――」

俺も視線を前に移すが、そこにはマンションなんて存在せず、物々しい雰囲気を放つ墓石が並んでいるだけであった。

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