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人生なんて多分正解だらけ(7/7)

週末の天気が良かったらアヌシーの方までキャンピングカーで旅をしようかと話していたが、私の仕事の流れが不透明なのと、いつまで経ってもぐずついたお天気がまるで晩秋のようなパリ(およびフランス全土)なので、結局日曜日も大人しくパリにて過ごす。

近ければ近いほど意外と足を運ばないのが世武生活あるあるなのだが(ただの億劫病)つい先日リュクサンブール公園に足を運び読書を始めたところすこぶる良くて、すっかり公園の良さの虜になったのだった。人ってのは、誰かに勧められてもピンとこないのに、自分で体験すると嘘みたいに臓腑に落ちることってあるよね。人っていうか、私の問題か。

そんなわけで、今朝は自宅のテラスでダラダラと昔話をしながらグラノーラを食べ、「公園でピクニックしたいけど、どう?」というあちらの提案でマルシェへと繰り出す。

うちの近所のマルシェは正直言って高い。彼が(そして本来私も)慣れ親しんでいる19区とか20区とかだとやはり価格が下がっていくのだが、私の住んでいるところはスノッブが多いので、仮に私の部屋が学生みたいな簡素さであっても、場所がら色々なものが割高なのは致し方がない。

私と違って生活力というかサバイブ力が非常に高い「ええやつ」に良いお店の見分け方を教えてもらう。例えばチーズ屋さんのどういう仕草を見ると「この人は目利きだ!」と分かるかとか、果物や野菜の扱い方で生産者と販売者、値段の設定、どの地方で何をどう生産できるからどうだとか、見極め力がとにかく高い。

それに加えて誰とでもすぐ仲良くなるので、お店の人と軽やかに冗談交えて会話したと思ったら、そのあとの道すがらで「あの店員は、僕がこう言った時にああやって返してきたでしょ?それは〇〇だから△△ってことで、だからあのお店は□□で信用できるね!”お買い物リスト”に入れておいて損はないと思う!」とか、とにかく乱立しがちなチーズ屋さんや加工肉屋さんを何ヶ所もハシゴして、どのお店が一番良いプロダクトを売ってるのか教えてくれる。歩く生活便利帳の様相を呈していた。

その流れで、家の排水溝が詰まりやすいんだけど...とか、ベランダに鳩が来るの嫌だから鳩避けつけたいけど素材に合った糊がわからない....とか、手が届かない、重い.....なども全部まとめてやってもらう。「週末にブリコラージュ(日曜大工)するなんてパリジャンの週末みたいで面白いね!」と文句も言わずに汚い排水溝のゴミをかき集めたり、鳩避けの金具をひたすら繋げたり、「金具がお尻に刺さらないように気をつけて!」とか言いながらお喋りに夢中で、間違って金具の上に座って痛がったりしながら(ギャグか?)、今日もええやつはええやつだった。

ピクニックというから、てっきりサンドイッチでも買って行くのかと思っていたのだが、バゲッド(フランスパン)を購入してから、絵に描いたフランス人よろしく、チーズやハムやトマトや果物を購入し、僕がサラダを作るよ〜と言いながらメロンとモッツァレラチーズとトマトで簡単にサラダを作っていた。それをボールに入れて、あとは全部紙に包まれたまま公園に移動する。

まだまだ肌寒いパリだが(本来はもう夏盛りでもおかしくない)、公園に行くと老若男女のピクニック客で溢れていた。学生時代もパリで過ごしていたし、フランス人の友達もそれなりにいると思うが、意外とこういう古典的なフランス生活には興味もなくて参加してこなかったので、この歳になって古典芸みたいなのに体験するのはなんだか笑えるし面白い。

学生時代、自分の音楽のことしか考えられず、貪欲にキャリアのことばかり考えて留学生活を送ってきた。それはそれで眩しく、自分の頑張りも愛おしく思う。逆に今の私は、そういうふうに生活するエネルギーが(ある意味で)もう、ない。

でも、こうして、フランス的価値観にこちらが飽和しない程度のほどよい力(これが大事!)でいざなってもらえると、これもこれでいいもんだな、となるのである。もう40年も生きていますから。
基本的に私は、野球さえ観れたらあとは仕事してりゃいい、みたいなことろに落ち着きがちで、こういう丁度良い人がいると丁度よく変化できて良いもんだ。どちらの生き方でも幸せだと思っている。

ピクニックをして、散歩して、また公園に行くという行為を踏襲していくうちにだんだんと慣れて来た。

「人生なんて多分正解だらけなんだよなぁ」って言ったら、向こうも、まさにその通りだと思うと言っていた。こう言う時にグリーングリーンの一説が頭の中で鳴る。どこまで行っても私はサウンドトラックと共に生きていて、ひとりニヤついていたと思う。

私がやっぱり日本に帰りたくなるかもしれないし、お互い将来誰かとすごい出会いをするかもしれない。
誰にも何もわからない、約束しない、それを不安に思わない。今、お互いに愛情も尊敬もあるのだから、それで良いじゃない?
「君と一緒にいることはとてもシンプルだな」とは彼がふと口にした言葉だが、私も感覚的にそうだと思って同意した。

どちらもそういう風に思える付き合いを、今のところどちらも気に入っている。簡単なことなんだけど、なかなかこういうことがお互いに言える相手は見つからないものである。(少なくとも私の経験上、相当苦労してきた)

私たちにとってのひとつの確かな正解を感じながらリヨン駅までええやつを見送って、帰路についた。家に着いたらすっかり音楽モードになり、お互いに自分の音楽を求めて頑張っていくのである。


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