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自ら中道左派との間に壁を作る蓮舫陣営の謎

都知事選の話題が長引いている。私も選挙期間中は興味を示さず、終わって2日目に以前の記事を出したときにはもう賞味期限切れかなと思っていたくらいだが、1週間を過ぎ、時間が経つごとにむしろ白熱するという謎の経過を見せている。

本人ご出駕の圧力

選挙戦が終わった直後は、都知事選の話題は出口調査を基にした感想戦やせいぜいRステッカーがらみの支持者の話題に留まることが多く、じきに終息すると見られていた。ところが、選挙戦が終わってしばらくしてから、蓮舫が本人のSNSアカウントで直接レスバトルに乗り出すケースが出てきて、周囲を驚かせた。特に連合の会長複数のタレントに対する批難は注目を集めた。

最近では朝日新聞の記者が「共産党べったりなんて事実」「自分中心主義か本当に恐ろしい」等と書いたことに対して、所属元の朝日新聞社に対して抗議して会社に厳重注意させるとともに、法的措置をうかがわせる投稿も行っている。

政治家ということを考慮せずとも刑事・民事の両面で訴えが通る可能性が低そうな(𝕏上の弁護士アカウントでも通らないだろうと見込む人が多い)ケースで訴訟をちらつかせた圧力をかけ、その対象がメディア企業たる記者の所属企業であり、しかも圧力に屈した、ということについて嫌悪感を示す人が多い。

政治家たるもの個人にどんな批判をされても健全な民主主義の運営のためには言わせっぱなしにすべし、という不文律ないし民主主義道徳は、ぼんやりと多くの人に共有されている。実際、小池都知事や岸田首相もそのように対応しているという指摘がある。特にメディア企業に対する圧力というのは一種のご法度として考えられており、例えば東京新聞の望月衣塑子記者は記者という肩書を利用した活動家ではないかという指摘はたびたびなされるが、それでも訴訟したりメディアパスを取り上げるといった行為には至っていない。

そのご法度であるメディア企業に対する圧力については、以前に「報道ステーション」のキャスターを務めた古舘伊知郎氏が、民主党政権時代は大臣クラスから直に「黙らせろ」と電話がかかってきたが、安倍政権ではせいぜい噂の立ち聞きレベルになった、ということを述べている。このコメントは、左の支持層が好んで見ていた番組のキャスターが、彼らの普段の主張(安倍は言論抑圧者で民主主義の敵)と真逆が事実であるという主張であったため、しばらく彼らに混乱を残した。

「09年に民主党が政権を取った以降の印象で言うと、結構大臣クラス、政治家から直で番組なりに電話がかかってきて『あのキャスター黙らせろ』とか、『すぐ謝罪しないと困る』とか言ってくる感じがあったんですよ……」
……「第2次安倍政権から。全然、直で来ないですよ。番組や僕なんかに。でも、政治部記者とかから、さざ波のように『あの人がこうで、幹事長がああで、こうみたい』って言いながら廊下ですれ違ったりしますよ。こういうことが幻覚?幻聴?みたいなことはよくあるんですよ」

古舘伊知郎、日本に報道の自由「ない」民主党政権時代「大臣クラスから直で番組に電話が…」日刊スポーツ [2024年5月5日

今回、当時の閣僚であった蓮舫が、メディア企業に対して圧力をかける姿を𝕏で衆人環視のもとで実演しており、この古舘の主張を裏付け信憑性を高める役割を果たしてしまっている。古舘発言の際に民主党を擁護していた人にとってはいい面の皮状態になってしまっており、私のF/Fの観測内でも「蓮舫さんに投票したけど今投票しろと言われるとちょっと……」と発言する人が少なくない。

自ら壁を作る本人とコア支持層

この過程を見ている多くの人は、選挙後に本人とコア支持層で仲良く(蓮舫に投票した)中道左派との間に壁を作っているという見方をする人が多い。

選挙後に最初に問題になったRステッカーは、本人が関与を否定しており、周りも公職選挙法違反を疑われることはしないだろうという判断のもとに跳ね返りのごく一部のコア支持層の仕業で、こういった「アシストどころか邪魔しかしてない一部支持者たち」を対象とした批判が多かった。テレビ・動画メディアで触れられるに及び事務所側からはがすよう求めが出た。これに対してコア支持層からは激烈な「裏切り」という反応が見られたが(当該事務所ツイートへのリプライや引用から確認できる)、これでコア支持層と中道左派の間に壁ができたという感想を言う人が多かった。

そのあたりで終息するかと思われていたが、突如本人アカウントが連合会長コメントに噛みつくなどの「レスバトル」モードに入ってしまった。同時にコア支持者から蓮舫はバッシングされている、女性蔑視が原因だ、「こんな選挙結果が出てしまう社会」が悪いだのといった言論が出るようになった。

バッシングされているかどうかで見ると、「バーカ」「ざまあみろ」的な低次元の罵倒は(少なくとも国政選挙に比べて圧倒的に)目立たず(「3位惨敗」は評論のうちだろう)、一種の感想戦として「共産党との協力は果たして票を増やしたのか」「女性票を小池に取られたのはなぜか」といった議論のほうが盛んであったように思う。中道左派からもバッシングと言える状況ではないという意見が多いように見える。

女性蔑視という意見も、女性候補者である小池に女性票でダブルスコアをつけられている以上、説得的と感じている人はほとんどいない。コア支持層である山口二郎の「小池は"名誉男性"である」という議論はむしろそれこそが女性差別、女性蔑視として批判されているくらいである。市民連合の「社会が悪い」という愚民論に至っては何も言うことがないほどで、さすがに当人もまずいと思ったのかツイッターでは投稿直後に削除している。

蓮舫本人アカウントが噛みついた連合も本来は立憲民主党の基盤支持層のはずで、その基盤支持層の6割しか固められていない状況は選挙戦略のミスと言われてもしょうがないだろう。その連合が共産党を嫌っているのも、歴史的には共産党の「党中央の指導が絶対」という自治・民主主義軽視のやり方に反発して分離したものであり、メディア企業に圧力をかけるような今のやり方を見てこの層がますます「蓮舫や共産党、市民連合とは手を組めない」と離れていくのがSNSなどで見られる光景になっている(説得することを諦め始めている)。

都知事選は注目された中での惨敗とあってショッキングなのかもしれないが、所詮は一地方選であり、本来はいくらでもリカバリーが効くもののはずだ。自民党が直近の補選や地方選で負ったダメージより大きいとは思えない。それが選挙から1週間以上たち、本来ならとっくに話題が終息していそうな中で、陣営が自ら傷をかきむしって傷を深くしているという光景は、傍から見ても本当に謎としか言いようがない。市民連合は野党共闘を強く訴えていたはずだが、自らそれを壊すような"名誉男性"やら"社会が悪い"論で燃料を投下している者だから、もはや悲劇を通り越して喜劇というレベルまで来ている。


彼らが中道左派、労組との間に壁を作っているのは、おそらくだが「俺たちは正しい!」という自分の声が跳ね返ってくる何かを欲しているのだとは思うが――それにしても、自ら壁の内側に引きこもり、自分を褒めたたえない社会を呪う人々に外部が手を差し伸べる可能性は時間とともに低くなっているように思う。






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