見出し画像

スポーツメディアとパラリンピック

パラリンピックや障がい者スポーツ、障害を持つアスリートがメディアにどのように描写されているかについての授業でした。

身体障がい者スポーツとイギリスメディアについての議論がメインになっています!


パラリンピック、障がい者スポーツの広がり

パラリンピックの歴史は、1948年にロンドン郊外の Stoke Mandeville hospital でアーチェリー大会が行われたことから始まります。
Ludwig Guttman氏の提唱によって、第二次世界大戦で負傷した兵士たちの身体・精神的リハビリとして大会は行われ1952年に国際大会となりました。

現在パラリンピック以外にも、軍人のための "Invictus Games" や、来年11月に東京で開催される "デフリンピック" など、障がい者スポーツイベントは世界各地で開催されています。


'障害' についての考え方

メディアでパラスポーツやパラリンピックがどう描写されるかを見る前に、人々が '障害' をどのように理解しているかを説明したモデルを紹介します。

1. The Medical Model of Disability

この医学モデルでは、「障害はその障がいをもつ個人の問題」だと考えます。

「彼らの障害は固有のもの」「彼らは何かしらの助けが必要」… 
という声は医学モデルの考え方が根幹にあると言えるでしょう。

このモデルは障害という問題の解決の責任を個人にあると考えるため、個人への医療介入によってその障害を軽減できるかが目的となります。


2. The Social Model of Disability

一方社会モデルでは、「社会が '障害' を作り出している」と問題の根源を社会だと考えます。

社会の環境が特定の人々を '障がい者' にし、障害を持つ人々は社会から取り残された、阻害された人々であるということです。

教授は、今この社会で健常者だとしても、平均身長10mの宇宙人の社会では健常者って言える?って例えていました。

(Inclusive London, 2015)


3. The Biopsychosocial Model of Disability

最後に、上記2つのモデルを組み合わせた、生物心理社会モデルという考え方です。

このモデルは、個人がもつ障害、人生経験と社会環境、自尊心などの心理的要因の相互作用と、包括的なアプローチに着目しています。


障がい者スポーツとメディア

パラリンピックのメディア報道と Channel 4

2000年代前半までパラスポーツはほとんど報道されていませんでした。

しかし、『Channel 4』が2012年ロンドン五輪以降のパラリンピックメインブロードキャスターとなったことと彼らの革新的な宣伝アプローチが、近年のパラリンピック報道の拡大に繋がったと言われています。

今年の夏に行われたパリパラリンピックでは、22競技すべての競技がライブ放送・配信されたり(東京大会では19競技)、YouTubeチャンネルやTikTokプラットフォームも開設されたりしました。

特にイギリスでは、パリパラリンピックが過去最高の約2000万人(イギリス国内テレビ・配信視聴者の33%)に視聴されたと言われています。

また、Channel 4 の参画以前の報道は、パラアスリートを「悲劇」「非力」などと捉える医学モデルに基づいた視点からの報道でした。

それに対してChannel 4 は、パラリンピックを「熱狂的イベント」、パラアスリートを「Inspiring: 感動的」「国にとって重要な存在」と、生物心理社会モデルの視点から報道・宣伝しています。
このアプローチは、パラアスリートやパラリンピックに対する「興奮」「感情移入」「愛着心」「リスペクト」「誇り」を生み出していると言われています。

パラアスリートやパラスポーツをめぐる'ナラティブ' ~ Supercrip ~

Channel 4 のパラリンピックへのアプローチで議論に上がるのが、'Supercrip' です。 

Supercrip とは、障がいを持つアスリートは '困難' を乗り越えたヒーローで感動的だというメディア描写のことです。

例えば、このChannel 4のリオパラ五輪の動画に Supercrip が見られます。

一見ポジティブなものに見えますし、Supercrip は障害のないアスリートについての報道でも見られますが、パラアスリートに関する Supercrip ナレティブにはいくつか問題があります。

  1. パラアスリートが 'ありえない' 成功を収めるためには、障がいを '克服 する' 必要があると示唆している

  2. 社会の障がいを持つ人々に対する期待の低さを表している

  3. パラアスリートを 'Extraordinary: 特別な、並外れた' と描写することは、自分自身を 'Ordinary: 普通の、平凡な' と認識している障がいを持つ人々のスポーツ参画を躊躇させる

  4. 障がいを持つ人々が日々直面する問題を社会の問題ではなく、個人の問題で '努力すれば克服できる' と軽視することに繋がる


パラアスリートの成功や勝利に関する全てのメディア報道が Supercrip 的ステレオタイプで語られているわけではありません。
ただ、結果や偉業よりもそのアスリートが 'どう障害と戦って克服してきたか' がフォーカスされている Supercrip 的な描写や報道が多いことは事実だと思います。


メディアが好む障害・好まない障害 ~Hierarchy of Disability~

Channel 4 がスポーツメディアのパラスポーツやパラアスリートへのアプローチを量的にも質的にも大きく変えたことについて紹介してきました。
ただ、アスリートが持つ障害によってメディアに取り上げられる頻度が全く異なる 'Hierachy of disability' についての理解も重要です。

けがや病気によって後天的に障がいを持つアスリートは、脳性まひや知的障がいなどの重度の障がいを持つアスリートに比べて、社会に「普通」「受け入れやすい」と見なされ、称賛される傾向があります。

具体的に、高度なテクノロジーへの注目も相まって、車いすアスリートや義足のアスリートがこのヒエラルキーのトップです。
一方、ボッチャなどをプレーする脳性麻痺や知的障害などをもつアスリートはこのヒエラルキーの最下層に位置します。

車いすアスリートや義手・義足のアスリートの存在感は、パラリンピックをトップスポーツイベントとして位置づける役割を果たしています。
しかしその一方で、社会において理解や認知が十分でない、過小評価されている障がいを無視してしまう結果にもつながっています。


最後に

授業ではこれらの他に、'母国' のパラアスリートに関する報道ではアスリートの障害はあまり可視化されず、'他国' のパラアスリートに関しては障害や '違い' が強調されていたという Ablenationalism というコンセプトについても学びました。

Supercrip についての説明のところで、Channel 4 の2016リオパラリンピックのプロモーションビデオを紹介しましたが、2020東京パラリンピックでは Channel 4 のアプローチがまったく違うのでぜひ比較してみてください ↓


長くなりましたが、読んでくれてありがとうございます。
この note から何か学びがあったら嬉しいです!

いいなと思ったら応援しよう!