バッグにチョコレートを忍ばせて

未公開のまま
胸の中へと消えてゆく映画のストーリー

どれだけ熱い想いを秘めて
ドキドキを予感させる
最高のシナリオを描いたとしても

クライマックスが「無い」のであれば
公開はできないの

バッグに忍ばせたチョコレートひとつ
包み紙をそっと開けて
口に頬張る

どうしてあなたに届かない
もどかしい甘さ


ぐっと歯を食いしばって
またゆっくりと歩き出すの



＊＊＊



「採用…… ですか」


自分を信じていないわけじゃなかった
でも驚きのあまり、ついスマホ越しに聞き返してしまう
本当に、わたしが採用なんですか？　と


夜遅くまで資格取得のための勉強
こんな真剣に暗記するなんて
何年ぶりかしら

要点をまとめたブログやYouTubeなど
効率よく勉強できる方法が「今は」確立されている
テキストと睨めっこしながらペンを動かし
暗記をする勉強法なんて過去の話ね

そんな小さな発見もあなたのおかげで
全てがわたしの生きがいとなってゆく


資格を手にして、数年間の実績を積んで臨んだ採用試験
中途採用の条件もギリギリだった

それでもあなたに一目会いたい一心で
無謀とも言える挑戦にこれからの人生を賭けたの


あなたの子どもを見つめるその優しい眼差しに
惹かれてしまった

あなたの子どもに真剣に向き合う姿勢に
恋をしてしまった

志高く仕事に向かうあなたはとても眩しくて
今のわたしでは真っ直ぐに見つめることさえできない

すれ違うあなたに

「先生、お疲れ様です」

バックに忍ばせた一つのチョコレートを
渡せたのが精一杯だった


見つめられる距離に立てるようにと
あなたを追いかけて
ここまで頑張ってきた


きっと神様は
あなたへの恋心をまだ諦めるなと
背中を押してくれたのね


美容院へ行って、マツエクして、
地味なスーツばかりの同僚の中では
少し派手って思われても気にしない精一杯のコーデ
バッグには新しいチョコレートを忍ばせて

数年ぶりのあなたとの再会を
まるで映画のストーリーのように描きながら
想いを伝えるクライマックスを夢見て


ただただ待ち続ける


慣れない多忙な業務に
毎日ヘトヘトになりながら
重苦しい案件の会議に新人ながらも立候補し
積極的に自分のキャリアを積んでいく


あなたの隣に立てるように
「女」として見てもらえるように
チョコレートを食べてもらうために


あぁ、神様は意地悪ね
掴みかけたところで
手をすり抜けていく

あなたに会える機会チャンス


花開くようなクライマックスでなくとも
想いを伝えることさえできなければ
永遠にシナリオは完成しない

未公開のままこの映画は
わたしの胸の中で制作を中止してしまうしかないの？


バッグにはもう美味しく無くなってしまった
シャトロワのチョコレート

包み紙をさっと開いて
口に頬張る

どうしてあなたに届かない
もどかしい苦さ


「また、新しいチョコレートを買わないと」


ぐっと目を押さえて
またゆっくりと歩き出すの







「バッグにチョコレートを忍ばせて」


〜END



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親友の恋を応援しています
皆様も素敵なクリスマスを♪

うみゆりぃ